最近は特段幼い連中が”ネームレス”として発見されているケースは少ないようだ。
これから成人化という名の元通り現象がみられる可能性はありそうだが、少なくともそろそろ起きていそうなやつについてはそれが起きていないようだ。
ただ、それは起きていないのではなく、そもそも元通りの状態のままである”可能性が高い”のである、
”ネームレス”であるがゆえに記憶が定かではないため、あくまで”可能性が高い”という表現にとどまっているわけだが。
それについてはこのような説明だ。
そもそもエンブリアというのはエンブリスによって10,000年前に作られた世界であること、
エンブリスは恐らくリリアリスたちの世界、つまりはアンブラシアの世界の住人、
だから、アンブラシアとは同じ尺度の上で成立している世界ということである。
これまではいわゆるアンブラシアへの”回帰への道”が閉ざされていたためエンブリアとは異なる世界という扱いだったが、
本質的には同じ尺度の上に成立している世界であるがゆえに実質的には同じ世界なのではないか、
もっというとエンブリアはアンブラシアの世界の一部という見方が可能であるため、
”回帰への道”が近くなるにつれ、世界間における生物の魂の器のサイズを気にする必要がなくなったのではという話である。
そのようにシエーナが説明するとリリアリスが言った。
「なるほどね。
同じような管理になる世界なら同じような世界になるのもなんとなくわかる気がするし。
そして”ネームレス”として、同じような魂の器の人間がエンブリアに流入してくれば、
世界エンブリア側でも”ネームレス”という存在を正しく認識してくれる。
つまりはアンブラシアとエンブリア、相互移動するうえでは何ら障害がなくなるってわけね。」
クラフォードは訊いた。
「じゃあ、世界の管理方法が違うのならどうなんだ?
管理方法の違う世界からきた”ネームレス”だったら? 正しく認識しないのか?」
リリアリスは悩んだが結論はすぐに出た。
「そもそも、世界間移動というもの自体が通常では起こりえないことよ。
だから今回のようなケースについてはイレギュラーなケース、
実際にはそのせいで魂の器の異なる存在が侵入してきたことでそいつのことはどうしようか、
世界エンブリアは判断に迷っていただけなんでしょ、そいつを自分の世界でどう取り扱うかをね。」
そもそもそんなことを気にすることがナンセンスということか、クラフォードは考えた。
「案外、世界間移動なんて夢のある話だしフィクション作品では結構ある話だと思うんだが、実際にはいろいろと制約があって大変なんだな」
と、ティレックスは言うとリリアリスは答えた。
「制約……というのとは違うような――多分だけど。
というのも大昔に聞いた話なんだけど、この世界――ってか多分アンブラシア、
度々外部の世界からの攻撃者に襲われていろいろと大変だったみたいよ。
だから、そのための対策の一環としていろいろとやったみたいなんだけど、それもそのうちの一部なんじゃないかしら?」
あくまで憶測から察するしかないのだが世界を管理するのも大変だということか。
「でも、それって誰から聞いたのかしら……?」
というか、何度か気になってはいるのだけれども、あんた本当に何者だよ。
次の日、ルルーナは目を覚ました。
「う……ん? あれ、お姉様?」
「おはよ。可愛い顔してぐっすりと寝ていたわね。」
ルルーナはリリアリスに抱えられてぐっすりと眠っていた。
うーん、それも捨てがたい――リリアリスか……それともルルーナか……どっちか代わってもらえると……
とまあそんな冗談はさておいて、ルルーナは訊いた。
「お姉様は寝てないんです?」
「2~3時間ぐらいウトウトしていたわね。
いろいろと考え事しててさ、
睡眠時間が少なくても平気とか世界の管理者サイドの事情を知っているとかつくづく私って何者だったんだっけって思ってね、
いろいろと腑に落ちないことだらけなのよ。
で、考えているうちに夜が明けて朝になっちゃったのよね。」
ルルーナはにっこりとして答えた。
「それはお姉様らしいです♪
できればしっかりと寝てほしいですけど――まあ、お姉様のことですから私は無理に咎めたりはしませんよ。
さてと、それよりも男どもを起こしてきますね!」
ルルーナは起き上がるとテントから飛び出していった。
「私らしい、か……。案外私が何者なのかって重要なことではないみたいね。」
リリアリスはニヤッとしていた。
そしてその約5分後――
「おはようございます、みなさん♪」
と、ルルーナはにっこりとしながらそう言うと、
彼女を目の前にしたティレックス、クラフォード、そしてガルヴィスの3人は非常に慌てふためいていた。
「あら? どうしたのですか、お三人さん?」
ルルーナは改めて可愛い顔してそう問い詰めると、男3人はものすごく冷や汗をかいていた。
「あっ、えっ……? い、今のは……夢だよな?」
「夢? 夢か!? 夢だよな!? そうだ、それはそうだ!」
「夢か……そうだ、夢だ、夢なんだ! 危ねぇ、どうなることだと思ったぜ……」
ティレックス、クラフォード、ガルヴィスはものすごい冷や汗をかきながらそれぞれそう言った。
するとそこへ……
「あら、起きたのね。ってか、何かあったの?」
と、テントの中からリリアリスが現れてそう言った。
「さあ? みなさん変なんですよ、起きて私の顔を見るなり、なんか様子が変なんです――」
様子が変……確かに、男どもは何故か汗びっしょりな様子、不思議に思ったリリアリスはガルヴィスに訊いた。
「どうしたの? 何か――」
だが、ガルヴィスは――
「なっ、なんでもない! 別に何もなかったからな!」
と、やたらと焦っている様子で言うとそっぽ向いてしまった。いや、説得力……。
「あんたたちは?」
と、リリアリスはほかの男2人にも訊いたが――
「なんでもない! なんでもなかった!」
「そうだ! 俺は何もしていない! 何もしていないからな!」
と、ティレックスとクラフォードも焦りながら頑なに口を閉ざしていた。
「んもー! なんでもないんだったら別にそんなおかしな態度をとることないじゃないですかー! おかしな人達ですねー♪」
と、ルルーナはにっこりとした表情と可愛げな態度でそう答えた。
だが、男3人はそれでも冷や汗が止まらないでいた。
すると、テントからひょっこりと顔を出したシエーナは周囲を見渡していた。
「フム、これは――なるほど、そう言うことですね♪ カイトがいないのはこのことを察知してさっさと逃げていったのでしょう」
そう言い残して再びテントの中へと戻っていった。