「お姉様、なんの魔法です?」
ルルーナは楽しそうに訊いた。
「いわゆる魔除けよ。
魔物に襲われないのもそうだけど、人間とかも部外者からもこっちが見えないってワケ。
例えば目の前で爆発魔法とか使ってくる変なやつとかに寝込みを襲われでもしたらたまったもんじゃないからね。」
ルルーナは頷いた。
「確かに寝ているわきから変な呪文を唱えてくる人とかに安眠妨害してほしくないですからねー♪」
ガルヴィスは意地悪そうな感じに言った。
「ほら、言われてるぜ。どうやらお前を部外者にする魔法を使っているらしい」
カイトは冷や汗をかいていた。
「なるほど、ルルーナさんはカイトとかと面識があるということか、まあ、改めての話だが――。
彼女は”フェニックシアの孤児”なのか?」
と、クラフォードが言うと、ティレックスはぼそっとつぶやいた。
「そんなマジメに考察しなくったって……答えはすぐに出てくると思うぞ。
もっとも、答えが出てからが本題なんだが……」
それはそうと、リリアリスは魔法の使用を終えていた。
「こんなもんでいいっしょ、そんなに神経質にならないといけないほどの魔物が現れるわけでもなし。
”グリマンド・トラッパー”とか”ブレイズ・フール”とか、”フェンリル・ストライク”とか、そういうのがいたら話は別だけどさ。」
ティレックスとクラフォードは首をかしげていた。
「グリマンド? フール? フェンリル? クラフォード、知ってるか?」
「さっぱりだな。冒頭に魔物って言ってるから辛うじて魔物の名前を言っていることは何となくわかったが、
名前だけで言われても――フェンリルなんたらってのが狼なんだろうなと考えられる以外はどんな魔物かさえさっぱりだな」
それに対してカイトが説明した。
「頭から順に簡単に説明すると、”危険”・”かなり危険”・”ものすごく危険”かな」
あまりに簡単すぎだが、それでも”ネームレス”とあろうものが危険を言うぐらいのレベルの魔物なので相当にやばいやつであることだけはわかった2人だった。
「俺は”フェンリル・ストライク”には会ったことがないハズだが、俺の記憶の中では出会ったら相当にヤバイ魔物って認識で通っているな。
”ブレイズ・フール”については確かに危険そのものだが、”グリマンド・トラッパー”は危険というよりも嫌いって部類だ」
と、ガルヴィスは言うがそう言われても――。するとリリアリス、
「ん、もしかしてどれも”私らの世界”で生息している魔物? てことは案外記憶を取り戻し始めているのかな、いい兆候ね。
確かに”グリマンド・トラッパー”は私も苦手ね、てか、”私らの世界”で好きなやつは多分いないわね。
私としては”ブレイズ・フール”はまだマシなほうだけど、”フェンリル・ストライク”は――
気が付いたときはベッドの上だったってこと思い出したわね……。」
いい兆候らしいが、思い出せた内容はあまり良いものではなさそうだった。
だって、あのリリアリスの能力を以てしても気が付いたときはベッドの上――それは余程ヤバイ魔物に決まっている。
「それはいいとして、早いところお休みしましょ。」
リリアリスはそう促すと一同全員頷き、火をつける前の焚き木を囲っていた。
夕食を取り終え、女性陣は大きめのテントの中へと入っていく、
ティレックスはルルーナが入っていくのを確認すると「なるほど、なんか妙に納得した」とつぶやいていた。
「ところで、さっき言ってた”フェニックシアの孤児”の現象、つまりは子供になるってことか?
例の”産業の神”でも同じ現象が起きているんじゃあとか言ってたけど、子供になるというのは?」
ティレックスはそう訊くとクラフォードは頷いた。
「俺もそれ訊きたかった。
話が中途半端に終わっていることもあってかイマイチしっくりこない。
例のガリアスに関してはそもそも孤児ではなかったみたいなことが書いてあったような気がするし――」
テントの中からシエーナが話した。
「詳しいことについては私にもさっぱりですが、世界間移動をした存在については各世界のほうに魂の器の大きさ――つまりは身体を最適化される働きがあるとされています。
無論、世界間移動の際にその対策ができているのであればその限りではないと思いますが、無策での移動の場合は補正されてしまうのでしょう」
カイトが話を付け加えた。
「要は他所の世界で生きてきた経験値の大きさを、移動先の世界が独自に評価した結果だよ。
お前が生きてきた経験はせいぜいこんなもんだろって世界が決めてしまうんだ。
それによって自分のいた世界では成人した大人だとしても、エンブリアは私らを子供としてしか認識してくれなかったということだ。
そして”フェニックシアの孤児”として一世を風靡するハメになったってわけだよ。
だから、この現象は”産業の神”のあのアリエーラさん似の女の子だけでなく、あの全員が同じ目にあっている可能性があるわけだ」
さらにリリアリスが話をした。
「”産業の神”の絵、あんまり歳いったようなやつが描かれてなかったでしょ? まさにそういうことよ。
あくまで器の大きさを最適化するのであって子供化させるわけではないのよ。
要は純粋に世界間移動することで若くなるだけだと思えばガリアスの件も説明可能でしょ。」
若くなるだけ――なるほど、言われてみればそうかもしれない。
リリアリスは話をさらに付け加えた。
「異世界に行くと若くなるけどしばらくすると、結局は元の器のサイズに適合した身体に戻っていくような感じよね。
それこそ今の私の姿なんかは自分でも結構しっくり来ているんだけど、あんたたちはどう?」
カイトは答えた。
「確かに言われてみれば前からこんな身体だった気がするけどね」
それに対してティレックスは指摘した。
「えっ、カイトって前からそんなに低身長だったのか? 最適化の影響は関係なし?」
リリアリスは意地悪気に言った。
「ティルフレイジアの男児の身長は安定の156cmに決まっているわよねぇ。」
一方でシエーナの身長は172cm、弟のカイトよりもはるかに高身長である。
「お前、ツッコミどころ多いな……」
ティレックスは呆れ気味にそう言うとカイトはやはりやれやれと、呆れたように両手を広げていた。