あの時にリリアリスが放ったあれこそがまさに彼女のその特性のたまものだったわけか、クラフォードは考えていた。
そんな身体をしているということはやはり只者ではない、もしかしたら精霊族よろしくこの世界を管理する側の存在に近しい存在だったりするのか?
そう思っていた。だが――
「ま、いずれにしても生まれ育った環境が大きく影響するからそういうことになるんじゃない?」
リリアリスのその言葉を思い出したクラフォード、だったらこの人は実際にはどういう人なんだろうか、なんだか気になり始めていた。
「言われてみればな。それこそバランデーアとの戦いとか、ずいぶん前にセ・ランドから飛来してきた魔物を一網打尽にするために精霊召喚ってのを使ってみたりと、
ほかの”ネームレス”と比べても明らかに無茶苦茶が過ぎる。
リファリウスやリリアさん、それからアリエーラさんが絡んだ件は大体圧倒的過ぎるパワーによって全部ねじ伏せられている気がするんだ。
今までは”ネームレス”だからって思ってたんだが、この3人に限ってはなんかそれ以上の何かって感じがして、本当に只者じゃない感が半端ないんだよな――」
クラフォードは頷いた。
「それに……”産業の神”にリリアリス似の女ってのも妙に引っかかるポイントだ、本人じゃないって感じになっているけど本当はどうなんだろうか?
まあ――1,000年も生きているとは考えにくい気もするけどな、なんとなくだが。
名前はマナリアって言ってたが彼女の見た目からどこかしらでつながっていることはまず間違いないだろうし、
そして彼女らは異世界から来た存在である可能性と……気になるのもそうだが、むしろいろいろと複雑になってきて何が何やらって感じもしてきた」
ティレックスは言った。
「何が何やらって……そういえばこういう場合、当人たちが何か隠しているというパターンが多かったな」
そう言われてピンと来たクラフォード。
「ん、言われてみれば確かに、意外と肝心なことを教えてくれないでずっと隠しているんだよな。
あえて言わないだけなのか、それとも精霊族よろしく”独特な価値観”という名の意地悪で教えてくれないのか」
そこへルルーナが話に参加してきた。
「でも、これまでのパターンと違って彼女の行動で説明可能な謎のほうが多くなっていて、
どうしてもわからないものは――例えば”インフェリア・デザイア”とか、当人でさえ分かっていないというパターンばかりのようですね」
そう言われてティレックスは頷いた。
「リファリウスもだけど行動については常に一貫しているからな。
目的のためなら手段は選ばない……いや、選ばない手段といっても冷酷なものでなくて、いつもいつも斜め上の手段ばかりで度肝を抜かされっぱなしなんだが……
でも、その内容がそもそも説明が面倒なものばかりで、当人もそれを自覚してか、とりあえず見てくれってスタンスも今になればわからないというほどでもない。
でも――」
クラフォードは頷いた。
「今回はまさに八方ふさがりって感じ、まさに”インフェリア・デザイア”のような全然わからないパターンのほうだということだな。
つまり、これは”説明が面倒だからとりあえず見てくれ”ではなく”私にもわからないからとりあえず見てくれ”って感じなんだろう」
本当か? ティレックスはそう訴えるようにクラフォードのほうへと振り向くと、
「いや、俺に訊くな、本当かどうかは知らん。
いずれにせよ、このまま俺らはついていくしかないんだろうな。
そもそも説明されたところで俺らが理解できる話なのかなんといってみようもないし、
当人もどう説明していいのかわからない可能性もあるだろうしな」
クラフォードはそう言って話を切った。
そういえば……クラフォードはふと見上げ、ルルーナのほうへと顔を向けて訊いた。
「私のことをお忘れですか?」
クラフォードは首をかしげていた。
「いや、そう言うわけじゃないんだが――」
それに対してルルーナは、
「もー、クラフォードさんったら、私の名前を忘れちゃうなんてうっかりさんですね!
いいですかー? 私の名前はルルーナです! ちゃんと覚えておいてくださいねー♪」
いや、それは訊いたことがある、大丈夫だ――そう言うクラフォードはさらに続けた。
「あんたも”ネームレス”なのか?」
「ええ、まあ一応。
そういうことですから今度こそ私のことを忘れないでくださいねー♪」
そう言いながらルルーナはリリアリスのもとへと行った。
「わざわざあえて訊いたのか――」
ティレックスがそう言った、以前もティレックス自ら説明したはずだが――クラフォードは答えた。
「たまたま目が合ってしまったから思わずそう訊いただけで別に深い意味はない。ただ――違和感が大きくてな……。
振り向いたらこっちにもリリアさんがいる……みたいな感じなのに、よくよく見たらアリエーラさんじゃないかとか、
でもアリエーラさんともなんだか違うような……そもそも彼女は一緒に来ていないハズだし……でも、話し方の印象はアリエーラさんっぽいんだが――
しかし、話している内容がリリアさんっぽいからリリアさんがキャラを作っているのかって思ったんだが、リリアさんは別にいるし……
でも、彼女に対して誰も何も特に言わないもんだから、俺がおかしいのかと思っていただけだ」
ティレックスは悩んでいた。
「確かに、その葛藤は受け入れるよ。
前も言った通りだが、彼女に対してはどう説明したもんだかまったく想像もつかないもんでな。
それになんていうか……俺の頭のほうがおかしくなりそうだ」
クラフォードも悩みながら言った。
「まあ、”ネームレス”だしな、何かしらがあるのは確実ってことか。
それにリリアさんの血縁の可能性もあるのならリリアさんっぽいのも説明がつくか――
何故アリエーラさんっぽいところがあるのかは不明だが。
特にさっきの発言、あれにはびっくりしたな……」
そんなのはまだまだびっくりのうちには入らないぞ、真相を知るティレックスはそう思っていた。