エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第1部 果てしなき旅への軌跡 第3章 過去の清算

第46節 大いなる力、不可思議な存在

 目的地近くへと到達すると、リリアリスはその場で魔法陣を張ろうと魔法を発動していた。 彼女の服装は風ではためいており、なんだか不思議と神秘的な雰囲気だった、これで残念要素を搭載していなければ――
 だが、それよりも気になるのは彼女の足や腕、そして首筋と、身体のところどころがほのかに光を放っていることである。
「いつもは発動してる魔法ばかりに目が行くし、光を放っているのも魔法を発動しているせいだと思っていたんだが違うんだな――」
 クラフォードがそう言うとシエーナが答えた。
「”エクス・マナーブル・シンドローム”、エンブリアでは難病として知られる症状の一つですね。 精霊族は身体の機能としてほとんどをマナに頼っているため、定期的に自発的に排出しないと癌となり、病気に侵されてしまいます。 とはいえ、症状に発展する例については極稀、症状に至る前までに寿命を迎えてしまうことのほうが多いので病気へと発展するケース自体が非常に珍しいのですが。 無論、人間族や魔族がなろうものなら即刻癌を疑わなければならないほどの問題です」
 ティレックスは考えながら言った。
「死に直結する病気……俺はそう教えられたけど……」
 シエーナは頷いた。
「ええ、精霊族でもあまりに症状が進行しているのであれば常に死の危機が付きまとうほどの問題です。 それこそ彼女のあれほどの症状レベルだと本来なら死んでいてもおかしくはないハズです。 ですが、彼女はそれでも平然として立って居られていますし、そもそも魔法を行使するなど以ての外だというのに――」
 ガルヴィスが言った。
「要するに、普通の精霊族でもあの女ほどのやつはいねぇってことか、まあ、そいつは俺も思ってたところだ。 やつの弟分のリファリウスもそうだったからな、昔に妙な剣を作ってくれたんだがこいつは普通の刀鍛冶でできるような代物とはわけが違う。 そん時に感じたっけな、こいつはただものじゃねえってな」
 そう言われてシエーナは自分の剣を引き抜いて言った。 彼女の剣もまた、リファリウスが作ったそれであるのだ。
「恐らく、持てるマナの許容保有量が一般の精霊族と比べても圧倒的に高いのでしょう。 身体のほうは不調をきたしているようには見えますが、 彼女自身が保有しているマナの器である身体のほうはそれに耐えられるほど頑丈な作りのようです」
 彼女自身が保有できる圧倒的な容量のマナの器――クラフォードにはとある光景が脳裏によぎった。

 リリアリスは以前、とある小型兵器から放たれた超高密度エネルギーによる絶大な魔力を引き受けていたことがあった、 敵軍が支配するディグラット東部の基地を攻略していた時の光景である。 だが、魔力を引き受けていたことによりリリアリスの身には問題が起きていた、 体調が悪いらしく簡易ベッドの上へと横たわっていたのである。
 シオラはその時のリリアリスの行動を思い出して話をした。
「確かに吸収していましたよね、でも、そのまま還元している?  相当の魔力だったにしては実行時間が早すぎるような――」
 超高密度エネルギーの魔力を吸収したリリアリス、そう、つまり――
「おっ、おい、まさか――」
 クラフォードは息をのみながら言った、リリアリスが展開している魔法の力はとてつもなく増大していった、 最初は小さな赤い粒みたいなものだったがいつしか大きな赤い球体へと変貌しており、もはや嫌な予感しかしない。
「そういえばリリアさん、魔法的な力を受けても大して痛くないって言ったけど、 その力の干渉はあって、不安定な魔力が身体に堆積し始めると頭が痛くなるって言ってた気が――」
 セラフィック・ランドが消滅する件ではまさに彼女にその現象が起きる。 マナが不安定となり、魔力も歪んだことで彼女自身の体調にも支障をきたすのである。
 そして今回も彼女は魔力を吸い続けた――それによって身体に不調をきたしている、つまりはそう言うことである。
「なっ、なんかヤバそうな魔法じゃないか、あれ……」
 クラフォードはさらにリリアリスのもとから一歩、また一歩下がるとみんなもそれに合わせて下がった。
「あの魔法は……原始精霊魔法の中でも世界を焼き尽くす破滅の魔法です!」
 なんだって!? シオラがそう言うと3人は驚いていた。 言っても当然そこまでやろうとしているわけではないので世界が破壊するようなことにはならないのだが――
「融解式・マナ還元法”メルトダウン・リクリエイション”、行くわよ……」
 一行は息をのんだ……
 そのあと、鉄の要塞にリリアリスが繰り出した熱球を浴びせられると熱球はものすごい熱をその場で展開し、要塞ごと包み込んだ……。
 ものすごい熱ですべてを焼き尽くしたのかと思えばその光景はまさにメルトダウン、炉心融解のごとくすべてのものがドロドロと溶けていた……。
「すごい魔法だったな――」
 クラフォードは茫然としながらリリアリスにそう言った。
「まあね、ちょっとパワーを蓄えすぎちゃったから過剰エネルギー気味だったかも。 でも、私も敵から力を奪ったままだったことすっかり忘れていたわね。」
 そういうリリアリスだが先ほどと比べてもわかる通り機嫌もよく容体の悪化具合もどこ吹く風かという感じだった。 やはり、体調の悪さは吸収していた力のせいだったようだ。とはいえ、
「んな肝心なこと忘れるんじゃねーよ。ったく、相変わらずというかなんというか――」
 クラフォードの言う通りである、何故そんな肝心なことを忘れる?
「うるさいわねぇ、そんなこと今更どうだっていいじゃあないのよ、結果オーライよ。」
 だが、そんな肝心なことを天然で忘れてしまうのが彼女の魅力の一つでもあったりする。つくづく恐ろしい女である。