シエーナは”産業の神”について話をした。
「あの絵を見せられていろいろと不思議な点があると思います。
例えば……リリアさんはどう思いましたか?」
リリアリスは考えていた。
「そうね、手始めに、彼らはどうしてここに来たのかが気になったわね。
それこそ異世界の人間なのに、何故エンブリアに来ることになったのか――」
それに対してガルヴィスが言った。
「わざわざ異世界に来るとは妙な連中だな。
まあ、本当にそいつらが異世界の連中なのかもわからんけどな」
こいつ、絶対にそういうこと言うし……それはそうなんだが――
「流石にいいところに目を付けましたね、私もそれが気になっていました」
と、シエーナはリリアリスに言った、ガルヴィスのことは無視していた。
それに対してリリアリスは気が付いた。
「ん、そういやアルディアスの話のつもりじゃなかったっけ?
それが”産業の神”の話になっているけど、ということはつまり――」
シエーナは頷いた。
「私らはただ”とある足跡”を追っていただけです。
その足跡は明らかにこの世界のものではなく、非常に気になったので確認することにしたのです。
そして、行きついた先がたまたま”産業の神”の話だったというだけです」
シエーナさんはカイトと違って全然クセのない人物だな、ティレックスとクラフォードはそう思っていた。
ところが――
「後ろのお二人さん、ティルフレイジアの名を侮ってはダメですよ?
人は見かけによりませんからねー♪」
と、シエーナはなんだか知らないが嫌な予感を漂わせてきた。
「あのさ、もしかしてガル君が行ってきたっていうヴァルジアもその足取りが見えたの?」
リリアリスはそう言った、ガル君ってのやめろ、ガルヴィスはこっそり言っていた。
とにかくシエーナは答えた、ガルヴィスの言うことについてはやはり無視である。
「ええ、流石にお分かりですね。
建国1,000年、同時期に作られたということはそのきっかけも一緒だったと考えるのが妥当でしょう。
そして、そのきっかけというのはおそらく彼ら”産業の神”の一団だったということみたいです」
リリアリスは考えながら言った。
「それじゃあ、私が言ったように彼らはエンブリアに何しに来たのってことになるってことね。
実は、それとは別に気になったことがもう一つあるんだけど。」
なんだろう、シエーナは訊いた。
「アリエーラ似の小さな女の子、可愛すぎない?」
それは私も気になっていたことだ!
リリアリスの言ったことについては呆れていた男性陣だったが、
リリアリスはさらに続けた。
「言われてみれば確かに、アリって昔はあんなんだったような気がするのよ。
でも、カスミんじゃあるまいしさ、なんであんなに小さな女の子を連れまわしているのかしらって気になったのよね。
あれは魔転写による写真ってとこを考えてみるとあの娘に映っていた魔力の背景――実は只者ではない感じを醸し出していたわね。
なんていうかその――懐かしいというか……」
懐かしいって? その女の子が? リリアリスは話を続けた。
「まあ、それはいいとして、
言いたかったことっていうのはあの子が小さいのって私らと同じ現象なんじゃないかなってこと。」
そう言われてシエーナは言った。
「言われてみればそうですね、私たちは”フェニックシアの孤児”と呼ばれていました。
”孤児”ですからつまりは幼子ですね」
ガルヴィスは気が付いた。
「確かにそうだ、よくわからないが周りは俺らをやたらと子供のように見てくること、
見た目が確かにそうだから仕方がないと言えば仕方がないが、ただそれ自身に深い違和感を覚えていたっけな。
なんつーか俺って成人してなかったっけとかそんなことばかりがずっと気になっていたな」
ティレックスも頷いた。
「それこそあのリファリウスがそうだ。
あいつ、”フェニックシアの孤児”として現れたという時期にしてはやたらと年齢が上のような気がするんだよな。
あいつから話を聞いて計算してみたんだが、あいつがガレアの将軍になったのってだいたい天命10年、
それこそフェニックシアに現れたのが天命0年ってことになると、将軍位についたのは、少なくとも10代後半までの間ってことになる――」
10代で将軍になるというのは流石になかなかあり得ない気がする。
それこそ大昔の時代、人間の平均寿命が少ない頃であればその考えは妥当かもしれないが、
今のエンブリアの世では80を超えるような老練な存在だっているのに彼らを差し置いてのそれは流石にあり得ない気がする。
それに対してクラフォードは言う。
「確かに、年齢的なことで言えばあいつの存在には俺も最初は驚かされた、
なんで帝国ディスタードはこんな俺らと歳も離れていなさそうな若造が仕切っているんだろうかってな。
だがその要因と思しき要素としてあいつは精霊族ってところに驚かされた。
俺ら人間族よりは長寿な種族でエンブリアでは比較的珍しい種族、
俺も初めて見たぐらいだ、人間族とも姿形がほとんど変わらないけどな」
その続きはティレックスが言った。
「確かに俺もリファリウス見て初めて精霊族がこんななのかって思った。
つまりはリファリウスは実は見た目以上に歳とっている存在で、しかもその”フェニックシアの孤児”ってのが――いや、
”ネームレス”というのがそういうふうにして現れる存在だってことなのか――」
リリアリスは頷いた。
「でも、1つだけ多分間違っていることが。
あんたが初めて見た精霊族はリファじゃあないと思うよ。」
と、彼女はそう言うとティレックスは首をかしげていた。すると――
「精霊族と言えば価値観が独特だ。
リファやその女を見てもまさにそれが物語っている通りと言えるだろう。
でも、その中でも特にキワモノと言わしめるやつがお前の隣にいるやつだ、わかりやすいだろう?」
と、ガルヴィスは意地が悪そうに言うとティレックスとクラフォードは右隣にいるやつのほうへと即座に振り向いた。
そう、そこにいるヤツと言えば――
「おいおい、ずいぶんな言いようじゃないか。
精霊族の価値観が独特というのはそもそも世界の管理者であることに由来している種族だからだよ」
クラフォードとティレックスは大いに納得していた。
「なるほど! 精霊族のイメージ的に勝手に美化していたもんだけど本質的にはそういう種族なのか!
そう言われてみれば確かにカイトが精霊族ってところに結び付くな!」
「確かに! 悪かったなカイト! 今まで精霊族だってことに気が付かないで!」
言われたカイトは呆れたような態度をして両手を広げていた。
「でも、一方で言うほど精霊族って感じがしないやつも――。確かに変わってはいるが……」
クラフォードがリリアリスのほうに向かってそう言うと彼女は答えた。
「ま、いずれにしても生まれ育った環境が大きく影響するからそういうことになるんじゃない?」
確かにそれもそうか。ただ、生まれ育った環境のことについてはっきり覚えていないことが玉に瑕である。