その途中――
「あっ、来た来た。こっちこっち!」
なんと、荒野のど真ん中をローブ姿の2人組が歩いていた。
そう、こいつらこそが――
「ねえお姉様、何か聞こえます?」
ルルーナはそう言うとクラフォードが言った。
「何って、そもそもあそこに誰かいるだろ――」
だがしかし、お姉様の反応は――
「何言ってるのよ、何処からどう見てもただの幻影でしょ。そんなのに構ってないでさっさと行くわよ。」
それに対してルルーナ――
「ですよね! では、一気にぶっ飛ばしますよ!」
いきなり車のスピードを上げた……。
「ってオイ! マジでスルーしていく気か!」
ティレックスは焦りながらそう言った。
すると、ルルーナはブレーキをかけ、車をピタリと止めた。
「えぇー? 本当に乗せていくんですかー? 気が進みませんが、仕方がありませんねぇ――」
気が進まないったって……ってそうか、そう言えば――
「やれやれ、乗せるって言ったのはお前らだからな。後はお前らで何とかしてくれ」
と、ガルヴィス、クラフォードとティレックスに対して言った。
って、言われてみればこの人たち、この2人組が苦手だったっけ、主にカイトだが。それでもこんな扱いをするほどなのか?
クラフォードとティレックスはお互いに顔を合わせてそう思っていた。
「まったく容赦ないね、砂が酷いよ、と言ってもなんとかバリアを張って防いだんだけどさ」
と、ローブ姿のうち、男のほう――カイトは前の席の右シートに座っているリリアリスのほうに駆け寄ってそう言った。
車が彼らの脇をかすめて走って行ったことで砂煙が巻き上がり、結構ひどい状態だった。
するとリリアリスは答えた。
「そうかしら? こんな荒野のど真ん中を歩いていればそれぐらい当然でしょ。
まあいいわ、ご苦労さん。さあ、私たちはさっさと行きましょ。」
それに対してルルーナは「ういー!」と言いつつ、車のギアを入れていた。
「待った待った! わかったよ、降参だ。
それよりも乗せてくれるっていう選択肢はないのかい?」
カイトは悪びれた様子でそう言うと、リリアリスは全員に対して呆れ気味に「だそうよ、どうする?」と言った。
「俺は嫌だな、人が寝ているところに急に変な呪文を唱えてみたり、
いきなり魔法で悪戯してみたりとこいつに関わるとろくなことがない」
ガルヴィスは呆れた態度でそう言うとリリアリスも言った。
「私も勘弁してほしいわね、人が嫌がることを進んでやりましょうっていう精神が気に入らない。」
「そうですね、これを機に頭を冷やしてみるのはいかがです?
それに元々歩いていくおつもりだったみたいですし、
当人がいつもおっしゃっているように乗せてもらえる可能性についてはあくまで”予測”でしかないのですから、
つまりはアテが外れてこのまま歩いていくことになるということも視野に入っているということになりますからねー♪」
ルルーナの毒、強っ! クラフォードはあっけにとられていた、やはりリリアリスと同じような性格の持ち主……
「というか結構散々なことしているんだな、お前……」
ティレックスはカイトに対して引いていた。
「なっ、何を言っているんだい? 確かにやったことについては弁解の余地はない。
だけど、それは必要だからと思ってやっていることだ、その点については間違いないだろう?」
「他は100歩譲ったとしても、夜中に呪文を唱えたり、いきなり目前で爆発魔法をやってみたり、それは”必要”のうちに入るのか?」
ガルヴィスは腕を組みながら高圧的にそう訊いた。
「ホント、仮にも高名な賢者様と呼ばれた家柄のクセに人が嫌がることは平気でするし、
人望がなさすぎるし、とんだ獄潰しよね、これも修行の一環として歩いていったらいいんじゃないかしら?」
と、リリアリスは締めた。
とは言うものの、絶対に乗せるつもりがないというわけでもないため、クラフォードとティレックスの2人に免じて乗せることにした。
車は3列シート、前列も3人掛けで左ハンドル車でルルーナの運転に隣はリリアリス、一番右にシエーナが乗った。
そして2列目は左からティレックスとクラフォード、カイトが乗った。
さらにその後ろだけ2列で、ガルヴィスが腕を組んで瞑想するかのように座っていた。
「こんだけ乗っていると重たいな――車のほうはその分パワーがあるけど、道がまだ平坦なだけマシなほうかなぁ……」
ルルーナは眉をひそめながら運転していた。それに対してリリアリス、
「確かに私もこんなに大勢乗せて運転したことないわ。」
そう言うとティレックスも言った。
「俺もないな。せいぜい多くても2~3人ぐらいだ」
「あれ? あんたが以前に徒党を組んでいたのってあんたとフレシアとトキア、
それからレなんとかとラなんとかの5人でしょ?」
リリアリスがそう言った、男性陣は1文字目しか言ってくれないなんて……。それに対しカイトが答えた。
「ルダトーラ・トルーパーズの規定で輸送車でもない限り同乗可能人数は4人までって決まっているんだよ、敵に狙われることを想定した対策としてね。
だから5人組は二手に分かれることがマストなんだよねー」
そういやこいつ、ルダトーラ・トルーパーズに所属していたんだっけ、
リリアリスとルルーナは頭を抱えながらそう思った。
「で、それで訊きたいんだけど、なんであんたたちトルーパーズにいたワケ?」
リリアリスは呆れ気味にそう訊くとシエーナが答えた。
「それこそ、まさに今回の件と関係することですね。
もっと言うと、今回の”神器”ではなく、この間話をしていた”産業の神”のほうです」
それに対してガルヴィスが言った。
「お前に似ているらしい女の件だろ? 本当にエンブリスが遣わした”産業の神”とやらなのか?」
リリアリスが言った。
「”神”というのは物は言いようってことじゃないかしら?
それこそ、もし私の先祖だってことなら”産業の神”の話もあながち間違いではないかもしれないわよね。
私の腕からすればだいたい説明可能だと思うけれども――エンブリスが遣わした神ではなく、
エンブリスのいた世界からやってきたらしい女鍛冶がね。」
確かに先祖代々そういう技術屋の家系ということなら説明できそうである。
エンブリスよろしく大昔に偉業を成し遂げ、今の世では神としてまつられるほどになったと、そう言うことか。
「あっちこっちで活躍されているからね、リリアリス史も。
ご先祖様のことだって謙遜するほどのことではないんじゃないのかい?」
カイトはそう言うとリリアリスは無視した。
「ねえシエーナ、”産業の神”で何かわかったことはあるの?」