そして、”ネームレス”の力を借りてさっさとヴァレスト・パレスへと侵入。
「脆いものですね、”ブリーズチャート”という鬼の居ぬ間に叩かれるだなんて――」
ルルーナがそう言うとリリアリスは言った。
「”ブリーズチャート”が鬼とは限らないわよ。
それよりこのタワー、ちょっと妙な感じよね――」
確かに、特にこの人の手にかかれば”ブリーズチャート”なんて――って可能性も無きにしも非ずか。
ともかく、ヴァレスト・パレスは黒光りのタワーだが、黒いガラスのような物質だった。
「何だと思う?」
ルルーナとリリアリスは黒いガラスに触れてその材質を確かめていた。
ルルーナはそう訊くとリリアリスは言った。
「訊くだけ野暮ってもんでしょ。
どっからどー見ても”エンハンスド・クォーツ”、通称”魔晶石”以外の何物でもないでしょ。」
魔晶石というのは――
「よくあるあの”エンチャント・ストーン”に使われるそれの中でもエネルギー量を高く保有できるっていう鉱石か。
でも、こんなに黒いのは?」
クラフォードが訊くとルルーナが答えた。
「アルミニウムが大量に含まれているためですね、製錬すれば純度の高い”エンハンスド・クォーツ”が取れるハズです。
なるほど、ヴァレスタンドは”エンハンスド・クォーツ”が大量に採れるところなんですね。
案外、世界の裏舞台から戦争を仕掛けるなんていうことも可能なのかもしれません」
リリアリスは言った。
「でも、昔の戦で惨敗し、しかも世界での復権を試みていないところを見るに、
これが”エンハンスド・クォーツ”であることに気が付いていないのかもしれないわね。
確かにアルミニウムが多量に含まれているがあまり、素人目にはただのクズ石に見えるかもしれないけれども、
私らの目はごまかせないわよ、これが大量に採れるのなら確実に世界大戦が起きてもおかしくはないわね――」
なんとも穏やかではない話が――
「でも、”あいつら”はここに来ているのにも関わらず、それでもイングスティアに向かっているよな?
それはつまり――」
ガルヴィスが訊くとリリアリスはティレックスに聞いた。
「ここならアルディアス軍が近いわよね?
ガレア軍にも協力してもらって、私らは早いところイングスティアに向かわないといけないわね――」
そう言うと、ティレックスは慌ててルダトーラ側へ連絡を取っていた。
一方その頃――
「どうしたものかしら、いろいろと面倒なことになっているわね――」
フロレンティーナさんはクラウディアスのシステム・ルームで巨大モニタをじっと眺めていた。
アーシェリスはどうしたのだろうと思っていると、画面上にはこのあたりの地図の上に多数のアラートが……
「ん? アラート? 何かあったのですか?」
「異常な数ということはバグっていう可能性も――」
フェリオースはそう言うとフロレンティーナさんは答えた。
「アラートには概要も添えられるような仕組みになっているから内容もある程度見れるけど、
内容のほとんどはただクラウディアス様のお耳に入れたいっていうだけの話よ。
それだけの話で、実際にはクラウディアスが関与するような話ではないものも多分に含まれているわ。
だから内容は一応見るけど、ほとんどがスルー案件ね」
クラウディアス連合国内の関係各所から通信で問題や緊急案件などが発生した場合、
このアラートモニタから確認できる仕組みらしい。
すると、少しずつアラートが消えていた。
「ん? 消えた?」
フェリオースがそう言うとフロレンティーナさんが答えた。
「専任のスタッフを割り当ててアラートにウェートをつけているの。
時折”見てください!”とか”お願いします!”みたいなタイトルの件もあるけれどもどの国だって忙しいんだから、
そういうものについては連合国での取り決めでウェートをつける前に突き返す決まりになっているわ」
確かに単にそれだけの話では対応する側が困るというものである。するとそんな中――
「あら、何かしら、ドリストン大陸の西から重要度MAXのアラートが飛んできたわね?」
アーシェリスが反応した。
「ん、しかも結構新しめのスマートフォン機種からの発信のようだな。
てか、先週に俺らが買ったやつと同じ機種だ」
フェリオースは頷いた。
「本当だ。ちなみにティレックスも同じの買ってた」
それに対してフロレンティーナさんが頷いた。
「ということは彼からの通信である可能性が高いわね。
見てよ、ヴァレスタンドにルダトーラ軍とガレア軍への派遣要請よ。
ドリストン付近だし、つまりはリリアたちじゃないかしら?」
フェリオースは関心していた。
「……こうやって即アラートが飛ばせるというわけか、便利なシステムだ――」
「便利だけどセキュリティにもずいぶんと力を入れているらしいからね、こうして実現するまでは結構難儀したそうよ」
エンブリアのこのご時世ではセキュリティなんて珍しい対策だが、相当に面倒くさいことについては何となく察した2人であった。
いや、そもそもこのシステムがどんな実装なのかなどといった仕組みさえ分かっていないのだが。
フロレンティーナさんは5階のテラスへとやってきた。
「アリ、既に見ていると思うけれども、デュロンドの援助通知が出てたわね」
あっ、アリエーラさんと、フロレンティーナさんだけの空間……入りたい……
もとい、彼女がそう言うとアリエーラさんは答えた。
「はい、ドリストン大陸のエルガラシア国への支援だそうですね。
エルガラシアは隣国イングスティアからの攻撃を恐れてクラウディアス連合国への加入は見送っているようですが、
デュロンドとは関係が良好な状態が長らく続いていることもあり、
デュロンドとしても見捨てておくわけにはいかないということらしいですね」
フロレンティーナさんは頷いた。
「みたいね。
エルガラシアといえばドリストン・カーストで言えば中堅の国、味方にひきつければ心強いわね――」
さらにフロレンティーナさんは唇に手を加え、何かを思い出していた。
「あら、そうだわ♪ イイコトを思いついちゃった♥」
フロレンティーナさんは不敵な笑みを浮かべつつ、色っぽくそう言った――そそる……