アガレウス軍を何とかする必要があるということで立ち上がることとなったクラウディアス連合軍。しかし――
「もう動いているって!?」
ティレックスは驚きながらそう言うとリリアリスは頷いた。
「厳密には”ブリーズチャート”奪取のために動いているということ。
動いているのはクラウディアスではなく一個人ね。」
一個人ってなんだよ、ガルヴィスはそう訊いた。
「あんたもよく知っている連中よ。
ったく、どうせならきちんと教えてくれればいいのにね。」
と、リリアリスは呆れ気味にそう言った。彼女らはすでにドリストン大陸を目指して出向していた、その途中の話である。
あんたもよく知っている連中って、だから誰だよ――そう思いながらガルヴィスは考え始めた。
「ん、そういえばアリヴァール編から参加するって言ってたやつが全然見当たらない気がするんだが、まさか――」
リリアリスは頷いた。
「そう、そいつらよ。話の発端はそいつと同じような雰囲気を醸し出しているヤツがルーティスにいるからってことを話題に出しただけ。
で、そのあとに連絡があって、何故か急に”ヴァレスタンド”に行ってくるとか言い出したのよ。ったく、話すんじゃなかったわ。」
ヴァレスタンド? クラフォードが説明した。
「ヴァレスト・ランド、ドリストンから西にある大陸だ。
デランダルから分離した組織がここに収まり、そこはアガレウスと呼ばれている。
元々ウォンター帝国の残党ということで周りは敵だらけ、
この地で手をこまねいていたが”ブリーズチャート”をどうにかして手に入れたおかげで復権したってところみたいだな」
で、ガルヴィスは訊いた、それが何故あいつらがそこに行くことになったのかを。だが――
「そんなの私がわかるわけないでしょ。
なんで私がいちいちあいつの動きを把握してないといけないのよ?
と言っても、あいつらのことだから”ブリーズチャート”がらみなのは確実だと思うけどそれ以上はわかんないわよ。
急に何か見つけたとか言ってみたり、詳細はあとでとかはぐらかしてみたり――」
リリアリスはイライラしていると、ガルヴィスは焦っていた、わ、わるかったよ、と。確かに――対象はあいつ、訊く方が悪かったと言わざるを得ない。
「よくわからないけど、その”あいつら”ってのは例のあの”あいつら”のことだよな?」
「多分な、”あいつら”も謎の多いやつらだよな」
クラフォードとティレックスはこっそりと話をしていた。
「謎というか……リファもリリアさんもヒュウガもガルヴィスも”あいつら”のことが苦手らしい。
だからだろうな、今回の話も渋々出した感がありそうだ」
「渋々って……平和を脅かす一大事だろ? それなのに目的を黙っている意図は?」
「そんなものないだろ。
考えても見ろ、それこそ”あいつら”だって相応の能力を持った”ネームレス”だ、
あの能力見ただろ? 未来が見えると言っても過言ではないとんでもない能力だ。
なのに謙遜しているフリを見せておきながら底意地の悪さはリファやリリアさんとは別次元の連中だ、基本的に男のほうだがな。
だから頼れはするだろうが、そんな底意地の悪さとよくわからない理由でただ”渡航する”ということだけを伝えて渡っているあたり、
あいつらが何か企んでいるのはまず間違いなく、だからこそリリアさんたちも極力巻き込まれたくないと考えているんじゃないかな」
「じゃあ何か? ヴァレスタンドに接近してもまずは様子見から始めるというところか?」
そこへあの女性が話をはさんできた、ルルーナだ。
「それはありませんねぇ、”あいつら”さんはイングスティアに向かっているようです。
こちらの意図を汲み取ったらしく、自分たちでことを収めることにしたようです。
こっちがずっと黙っていたことで観念したのでしょう。
ただ――それとは別の思惑があるとリリアお姉様はおっしゃっていましたね」
そういえばこの人がいるのか、ティレックスは頭を抱えていた。
彼女に対してクラフォードが訊いた。
「別の思惑?」
「今回探しているものとは別のパワーストーンが見つかったと言う話が出たのです。
それについては後で面倒になるのは嫌だからと言うことで、
相談の結果、すでにフィリスさんを向かわせていますが結果的にみんなで向かわざるを得ないことになりましたね」
今回は様々な要因により、向かわなければいけなくなったということか。
リリアリスたちはヴァレスタンドへと上陸した。
ヴァレスタンドは上陸する前からとある大きな建物が目立っていた。
「大陸っつってもあんまり大きな大陸ではないな」
ティレックスがそう言うとルルーナは言った。
「元々浮遊大陸で、そのころはまだ大きな島――つまり”大陸”だったみたいですが、
戦争によって撃ち落されたことで大陸は大破、それでもその名残で大陸という名前を冠する場所なんですって、
大昔の話みたいですね」
リリアリスは頷いた。
「フローナルの人たちがそう言っていたわね。
フローナルもクラウディアス連合に入りたいって言ってたけど、
やっぱりそれよりもドリストンの情勢が気になるなんてことを言ってたわね。」
フローナルはちょうどこのあたりから南にあるところ、
あの国は防御力だけはほぼ完ぺきに近いが、それでも世界情勢から取り残されていくことは避けたいと考え、
つながりのあるディスタードのガレアを経由してそのような話をしてきたのである。
昨今のディスタード本土軍との戦いでも一部活躍していたことで有名だ。
フローナルは浮遊大陸に国があり、大陸の下のほうにある島・アンダーフローからの転送ポットを使用して移動するのである。
そして、かつてのヴァレスタンドを撃ち落したのは今のフローナルがある場所にあった別の国家だったらしく、それは1,500年も昔の話らしい。
「それよりもあれはどうする? そのまま向かえるのか?」
と、ガルヴィスは促しながら訊いた。
それは、ヴァレスタンドに上陸する前からも見えている大きな建物のことである。
「というか、そもそもあれはなんだ?」
ガルヴィスは続けてそう訊くとクラフォードが答えた。
「ヴァレスト・パレスだな。
ヴァレスタンドには貴族がいて、まさにあれこそが富の象徴と言わんばかりの建物だった。
だが、今じゃあアガレウス軍にやられて連中の基地にされているようだな」
見た目は黒光りの建物で、天を衝くタワーである。
「富の象徴? 大昔に戦争で撃ち落されたり、
そうかと思えば貴族とかいちいち忙しいところだな、どうなってんだ?」
ガルヴィスが言うとリリアリスは言った。
「で、今回はまさにその富の象徴たる理由を探るために来たワケよ。
既にルルーナから話を聞いたと思うけど、パワーストーンに関係しているんじゃないかってことなのよ。」
「なるほど、つまりは採掘場があるおかげで発展していったんじゃないかってワケか」
ティレックスはそう言った。