ディスティア様はアンカーが海底に達しているところまで確認し、付近に洞窟らしき穴があることを確認するとほかの男性陣に合図をした。
他の男性陣はそれに気が付くとその横穴へと入って行った。
そして――
「なんとか息継ぎできる空間があるようだな。
でも、洞窟全体を通じて泳いでいかないといけないんだろうか、どこかに一旦上陸して態勢を立て直したいもんだな」
クラフォードは海面から顔を出してそう言うと、ディスティア様も顔を出して言った。
「それより、リリアさんたちはどうしたのでしょうか、まだ海の中を泳いでいるのでしょうか。
それこそ、一緒に行けばよかったと思いますけどね」
ティレックスは答えた。
「つっても海のコンディションもあるからな。
ヒュウガが付けたっていうあのシステムだけど、船が転覆する可能性までは想定しているものではないらしい」
「あくまで乱域を横切られる程度のものだって言ってたな。
でも、それでも相当にやばいシステムだ、あいつらの頭って一体どうなっているんだ?」
クラフォードはそう言った……って、まさかの陰口かよ。すると――
「なんだか騒がしいですね、ただの波の音って感じでもなさそうですが――」
ディスティア様は何かに気が付いた、なんだか水の中で騒いでいるような音が聞こえてきた。すると――
「まさかリリアさん!? 行こう!」
オリエンネストがそう言うと、彼に続いてほかも洞窟の中を泳いでいった。
すると――
「なかなか強いわね、地上の魔物とは大違い。
それとも”魔の乱域”特有のパワーストーンに照らされた魔性の類か何かかしら?」
「かもしれません。レイゲン洞でもそんな感じだったみたいですからね――」
紛れもなくリリアリスとアリエーラの話声だ、水の中で会話をしているのか?
そこへオリエンネストたちが合流――
「あっ、あんたたち! そこ危ないわよ!」
と、リリアリスが注意を促した。男性陣は戸惑っていると、
リリアリスがオリエンネストの前まで迫ってきた。
その姿、どこぞの人魚女王のごとく美しくも勇ましい姿でもあった。
それもそのハズ、リリアリスの下半身にはまぎれもなく人魚の尻尾が――
「しょうがないわね! 行くわよ!」
そこへいきなり魔物の姿が! 水棲生物でサメのようなモンスターだ! しかもガタイが大きい!
だが、リリアリスは左手に携えた兵器を巧みに振り回し、そしてまさに人魚のごとく泳ぎ回るとそのまま勢いよく魔物を一刀両断!
サメを始末してしまった……。だが、息をつく暇もなく、
「行けっ!」
リリアリスはさらに風の刃を発射!
「援護します!」
さらにリリアリスと同じような姿のアリエーラさんが水流を発射して追い打ちをかけていた。
すると、少し遠目にいたサメの集団を一度に粉砕! サメの群れを撃破していた――
それよりもリリアリスと同じような姿のアリエーラさん――人魚のアリエーラさんをぜひともこの目で拝んでみたいぞ――
「ったく、いきなり集団で現れるんだもん、勘弁してほしいわよね。」
どんな姿であろうとリリアリスはリリアリス、得意げだった。
少し進むと上陸できそうな空間があったので男性陣は次々と上陸、
リリアリスとアリエーラさんは勢いよく海面から飛び上がると、ちょうど良さそうな岩場の上に落ち着いた。
やはり彼女らの下半身はまぎれもなく人魚の尾ひれが――アリエーラさんの人魚姿は見てみたい……
「変装術か、よくそんな尻尾つけて泳げるもんだな」
クラフォードは尾ひれを見ながらそう言うとリリアリスが答えた。
「海に入るってことになって思い出したのよ、昔はこんなことして遊んでいたことあったなぁってさ。
確かに最初はこんな尾ひれをつけたところでまともに動くこともかなわなかったわね。
精霊ウンディーヌやシルファーヌからもコツを教えてもらって、
結構海の中でも縦横無尽に動き回れるようになったってワケよ。」
男性陣は頭を抱えていた。
「軽く上位精霊のウンディーヌやシルファーヌから教えてもらったとかいうあたり、やっぱりただもんじゃないよなアンタら。
水中でしゃべれたり呼吸できたりするのも風の力のおかげだろ? ったく、便利なこって……」
クラフォードは呆れ気味にそう言うとリリアリスは言う。
「まあね、言ったそばから自分でも不思議に思ったわ。
もともとそういう環境で育ったのかな私らって――」
オリエンネストはアリエーラさんに訊いた。
「アリエーラさんも?」
「ええ、私はリリアさんと一緒に育ったハズですので恐らくそうだと思います。
そういう事実があることは覚えているのですが、具体的にその時のことは全然覚えていないのですよね――」
そこでディスティア様が指摘した。
「でもシルファーヌですか、確かに今ほどの複雑な動き、泳力だけでこなせるそれとは違うように思います。
地上でも時折人間離れした動きを見せることがありますが、やはり当時のことを感覚的に覚えているのでは?」
リリアリスは答えた。
「みたいね、我ながら恐ろしいわね、こんな能力が身についているなんてさ。」
リリアリスは話を切り替えた。
「それはそれとして、来るのが案外早かったじゃないのよ、空振りだったらどうする気よ?」
それに対してティレックスが言った。
「いずれにせよ、このあたりの海域に何かしらがあることは確実だから、来てみないことにはって思ったまでだ」
さらにクラフォードが言う。
「潜ってみて思ったんだがこの辺りの海域って意外と浅いもんだな。
西の海はもっと深いみたいだが、クラウディアスはやっぱりセラフィック・ランドの一部だったって線が濃厚か?」
アリエーラが答えた。
「さあ、それはどうでしょうか? でいずれにせよ、何かしらの関係があることは間違いないと思います。」
するとリリアリスは勢いよく飛び上がり、水の中へと飛び込んだ。そして海面から顔を出した。
「なんだ、どうしたんだ?」
ティレックスは訊いた。
「お腹がすいたでしょ? ご飯でも取ってくるのよ。」
そしてリリアリスはそのまま消えた――。
「ぼ、僕も手伝うよ、リリアさん!」
と、オリエンネストはそう言って水の中へと飛び込んだ。リリアリスがいたところを見ながらクラフォードは言った。
「まったく、末恐ろしい人魚がいたもんだ」
ティレックスも追随。
「人魚というよりは海の魔女――」
アリエーラさんは苦笑いしていた。