だが――
「硬ってぇ!? おいリファリウス! お前の”兵器”でなんとかしろよ!」
と、ガルヴィスがクレームをつけてきた、相手の装甲は非常に硬いものだった。それに対してリファリウス、
「生憎、私の得物でもこいつには通用しないようだ。
見てみなよ、この通りこいつの前に私の技では歯が立たないみたいだ。」
と、リファリウスは風魔法剣を発射してみたが、亀にぶつかるとそのままかき消されていた。
「いや、じゃなくて……」
「直接斬ってから言え!」
クラフォードをはじめ、ガルヴィスら何人かは呆れていた。
「だが、リファリウスの技という点を考えても貫通しないのはやはり厳しいと判断せざるを得ないようだな」
と、ハイドラはそう捉らえていた。
「そのようですね。
むしろこういう相手こそスカイ・アタッカーの本領を発揮すべき相手かと思いますが、
それも失敗してらっしゃるとみました」
ディスティア様はそう言うとハイドラは呆れた様子で答えた。
「こいつは硬すぎる。
恐らく、普通の攻撃ではびくともしないことだろう」
ディスティア様は魔物のほうを見ながら言った。
「なるほど、攻撃貫通させるのは並大抵のことではない、と。
唯一と言っていいほどの付け入るスキは動きが遅いことしかありませんか――」
しかし、それがわかっていてもどうにもならない。
「くっ、リファリウス! 一旦出直してくるか?」
ガルヴィスはそう言うと――
「なんだ、初めからこうすればよかったんだ。」
リファリウスは今まで左手で持って構えていた”兵器”を右手に持ち替え、炎と氷の反属性を利用して風の刃を投射する魔法剣を放った!
すると――
「おっ! 今度は刺さったぞ! なんだよ、初めからそうすれば――」
と、クラフォードは興奮しつつ少々呆れ気味に言うと、ガルヴィスも言った。
「まったくだ。てか、右手と左手で威力が違うってのがわけわかんねえ。
確かに利き手のほうがって気はするが、そんなに大きく変わんねえだろ普通。
それに、そういうことなら最初から右手で――」
しかしリファリウスは否定した。
「私のクセで武器は左手で使うのがデフォだ、右手は利き腕だし大事だからね。
つまり威力を出すのなら左手を使うべきという原則は変わらない。
その上で右手を使うのには理由があってね――」
そう言うとこれまでリファリウスを注意深く見てきたティレックス言った。
「確かに、いつも右手を使っているから右利きとは思っていたけど、
武器を片手で振るう際はいつも左手で使うから妙だなとは思っていたけどそういうことだったのか。
でも、魔法はいつも右手で発射しているよな?」
えっ、魔法!? まさか――ガルヴィスはそう訊いた。
「流石はティレックス君だね。
そう、純粋に攻撃の性質を物理攻撃から魔法攻撃に切り替えただけなんだ。
ティレックス君の言うように私は魔法をいつも右手で使っているけどこういう相手がいるとなると、
左手でも魔法を使うようにしないといけないかなぁ――」
それにしても魔法の力そのものを剣に乗せて攻撃するとは恐ろしいやつだ。
いくら魔法剣士と言えど、そんな使い手は世界中探してもそんなにいない、
せいぜい魔法を炎や氷に具現化してそれを剣などに乗せて攻撃するのが普通だ。
「まあいい、攻略法はわかった、魔法を使えってことだな。
小手先の魔法しか使えないが、使えれば何でもいいらしい。
総攻撃仕掛けてさっさと終わらせるぞ」
ガルヴィスは構えながらそう言うとクラフォードは剣を片付けつつ、ガルヴィスにあてつけるように言った。
「小手先の魔法しか使えないのか? 世話の焼ける”ネームレス”だな。
仕方がない、手を貸して……その前にリファリウスが全部片づけてくれそうな気がするが」
「魔法ですか、いいでしょう。私の力も見せてあげますかね」
ディスティア様も得意げにそう言った。
「やれやれ、どうやらイメージに反して魔法もそれなりに使える布陣らしい、俺の出る幕はなさそうだな」
ティレックスはそう言うとハイドラも言った。
「確かにリファリウスが全部きれいさっぱりにしてくれそうだ。
ここまでくれば私も参加する必要はなさそうだ」
リファリウスは”兵器”を右手でがっつりと抑えながら両手で勢いよく氷の魔法をまとった魔法剣を亀に対して解き放っていた。
何はともあれ、一行はレイゲン洞から帰還した。
ただ、問題は必要となる素材を持ち帰るのが大変だったこと。
亀を解体して持ち帰るわけだが、やはりあのレイゲン洞の入り組んだ地形やら高低差の激しい地形やら、
それには難儀していたようだ。
「魔法でなければ通じない相手ですか、リファリウスさんにしては珍しいですね。」
いつものテラスでリファリウスはアリエーラさんと話をしていた。
「むしろそのせいで気が付くのが遅くなったよ。
ともあれ、なんとかこの通り鉱石を持ち帰ってきたわけだし、一件落着というところかな。」
リファリウスは手頃なサイズのエンチャント・ストーンをアリエーラに見せた。
強烈な力を蓄えているが故か、時折、光を放つ様子が見える――衝撃が加わることで発光するようだ。
「これはものすごい力ですね、レイゲン洞がパワースポットと呼ばれる所以ですか……」
「長い年月をかけて自然のエネルギーが堆積してできた、まさに天然の大地のマナ・ストーンそのものだよ。
ある意味古代竜の化石のような代物といえるから、名付けて”ダイナスト・ストーン”というところかな。」
そしてそこへフィリスがやってきた。
「鍛冶場の準備をしてやったからさっさと始めろってさ」
リファリウスは頷いた。
「仕方がない、やってやるか。」
そして、バークレティスの修復作業が始まった。
それから1時間後――
「早いな、もう出来上がったのか!?」
リファリウスは斧を携えて謁見の間へと戻ってくると、クラフォードやほかの者たちが驚いていた。
「早めに切り上げたかったから、集中して作らせてもらったよ。」
ティレックスはその斧をじっと眺めていた。
「あれ? それがバークレティス?」
なんと、バークレティスは元の原形をとどめていなかった――
「悪いね、改修するという都合、元の斧の形状からいろいろと足し引きしないといけないことになってね。
元のやや無骨なイメージからは変わっちゃったけど、調度品のような印象というコンセプトはそのままにしてあるからそこは安心してほしい。」
それこそ、リファリウスが趣味に走ったと言わんばかりのデザイン性、
自らが振るう”兵器”にも通づる、アクセサリかともいわんばかりの、少々華な感じの装いだった。
「まあ……そこは我々がお任せしている点ではありますのでそればっかりは仕方がないのでしょう」
と、例の見知らぬ顔がそのまま話をしていた。
そいつはどうやらバークレティスを管理している責任者らしい。
そいつはさらに話をした。
「大事なのは見た目よりも用途です。
今回は学術的な観点としてエンブリア創世の解明のため、セラフ・リスタート計画のために使用するということですので、
アルディアス側でも満場一致でクラウディアス様にお預けすることとなっています。
ですので、改めてとなりますが、セラフィック・ランドのことをよろしくお願い申し上げます!」
いろいろと問題がありそうな気もするが、すでに話がまとまっているのなら言うことなさそうである。