次の日、いつものテラスにて。
「リファ様♪ こんにちわ♪」
フラウディアが可愛げな様相でそう言うとフロレンティーナさんが訊いた。
「あら、フラウディア♪ どうしたの?」
「うん、さっきティレックス君から話を聞いてね。
パワースポットの話ですけどディアティラに行った時のこと覚えていますかね?」
そう言われてリファリウスは考えていた。フラウディアの隣にはティレックスがいた。
「大陸部とヘルメイズ領とを結ぶ陸繋砂州に洞窟があってレイゲン洞って呼ばれている――あの辺りでは割と有名なパワースポットだ。
ユーシィとフラウディアにパワースポットの話をした時に思い出したんだ、どうだろうか?」
言われてリファリウスは思い出した。
「そうだ、そう言えば前に確かそんな話をしていたっけ。なるほど、レイゲン洞か――」
そこへユーシェリアが端末を持ってきて言った。
「リファ様! 旧ランスタッド軍がレイゲン洞を調査した時のデータを持ってきました!
これって洞窟内のデータではないですか!?」
そう言われてリファリウスは見ると、そこには折れ線チャートのようなものが表示されていた。
「なんだこのグラフは――」
ティレックスはそう言うとリファリウスが答えた。
「私もこれは見たことがあるな。チャートのY軸は高さでX軸は距離を示している。
つまり、ユーシィさんの言うように洞窟の中のデータを空間反響音測定方式で測ったときにできた地形図だよ。
ちなみにZ軸の奥行きのデータもとれているようで、それを足して立体図にするとこうなる――」
リファリウスは端末を操作すると立体チャートが現れた。
そのチャートはやたらと起伏の激しいものが表示されていた。だが――
「でも、このチャートってなんかおかしくないか?
X軸の距離がどのぐらいを示しているのかわからないけれども、こんなチャートができるような空間じゃないと思うぞ。
大体、そもそもレイゲン洞って入り口から2~3メートル程度の浅い洞窟だろ? なんでこんなチャートが?」
と、ティレックスが言うとフラウディアも言った。
「確かに私もそんなに起伏のあるような大きな洞窟だという話は聞いたことがないですね――」
するとヒュウガがやってきた。
「どうやらちょうどその話をしているようだな。
で、問題のその解だがレイゲン洞入ってすぐ上のほうに穴があるらしくてな、
そこに調査機材を入れたときに測定できたデータがそいつだそうだ。
つまりは入り口から2~3メートルの空間というのはあくまで”レイゲン洞の外側”に過ぎないってところらしいな」
そうなのか、ティレックスがそう言うとヒュウガは端末のほうへ駆け寄り、モニタに指さしながら言った。
「調査機材を入れた時の入り口はちょうどこのあたり。
ちょうど何か細いものが通れるような入り口がある程度の穴だ。
それに、空間反響音測定方式で測ったチャートからすると、
測定も水平方向にしかしていないらしくて、実際にはチャート以上に起伏が激しい可能性もある」
そう言われてリファリウスは指をさしながら言った。
「私もそう思った、この穴の位置から割と放物線的なチャートになっているのが気がかりだ。
例えばこのあたりとこのあたり、溝の底が何故か平坦な地形になっているところが見受けられる、
つまりこの溝の中までちゃんと調査ができていないっていうことだよ。
特にこのあたりなんかだと平坦な地形が広がっているみたいだけど、同じ理由で本当にこの通りの地形なのかどうかは実に怪しい――」
さらにリファリウスは考えながら言った。
「それに、ここの地形って陸繋砂州という割にはずいぶんと高くて断崖10メートルとかものすごく大きな地形だ、
恐らく、このチャートで解明したものはレイゲン洞というのは2つの山脈がぶつかってできた汽水湖の洞窟だということだろう。
そして、その上がルシルメア大陸とヘルメイズ領とを結ぶ断崖の道と、そういうところかな?」
そして、さっそく現地調査をすることに。
ディアティラを楽しみたいのは山々だが今回はレイゲン洞、
一行はヘルメイズのレイゲン洞があるその付近の砂浜から上陸した。
ずいぶん前には悪夢の岩礁帯が並んでいる南西側から上陸したのだが、
今回は北東側からの上陸、しかし北東側は海が荒れやすく船が流されやすいのが問題だった。
航行するのであれば悪夢の岩礁帯に比べればはるかにマシなわけだが。
レイゲン洞は上陸してからもそれなりに距離があり、たどり着くまでにずいぶんと歩かされた。
フラウディア曰く、やはり南西側から上陸した時のほうが近かったらしい。
それこそ、ディアティラへ向かうルートの途中の分岐からのほうが近いため、つまりはそう言うことになる。
そして、こんなただの陸繋砂州というだけの道のハズなのにどっちから行ったほうが近いとか遠いとか言っていることからもわかる通り、
このあたりの地形は結構入り組んでいるのである。
とはいえ、今回はそれを含めての調査であるため、それ自身はそこまで気にならない。
「これは――このあたり一帯がレイゲン洞と言われていてもおかしくはない地形だな。
地形的には陸繋砂州に該当するんだろうが、厳密に言えば確かに海底山脈同士がぶつかって形成した陸地といったところだろうか。」
ヒュウガは崖の表面をいろいろ調べながら話した。さらにティレックスに何かを手渡して言った。
「海の生物の化石だ。ここの地形自体が海の中にあった可能性が高そうだ。
レイゲン洞内部は水の浸食作用によって広大な洞窟が広がっている可能性が高いな」
それに対してティレックスはつぶやいた、10メートルか、と。だが――
「10じゃあすまないかもしれないよ。
確かに上限はそこかもしれないけれども、下限は海よりも深い場所である可能性も考えられる。
手掘りではなく水の浸食作用によってできた洞窟だから、相当入り組んだ構造である可能性も高い。
それ自体はあの立体チャートからもある程度想像できる範囲だけど――」
それに対してフラウディアは言った。
「でも、この洞窟のどこにパワースポットたらしめる要素があるんですかね?」
リファリウスは悩みながら言った。
「そうだね、中に入って確かめるしかなさそうだ。」
そう言いつつ、洞窟の頭上にあるわずかな穴へと指さした。
「あんなところに穴が……」
ティレックスは茫然としながら言うと、ユーシェリアが言った。
「洞窟の中に入るだけならリファ様の手で入れそうですね! 多分このあたりかな?
厚さ50センチぐらいの岩壁しかないみたいです!」
リファリウスは頷いた。
「よし、やってみよう。」
おい! まさか! ヒュウガはリファリウスの暴挙を慌てて止めようとした、だが時すでに遅しである。
「ヘルメイズから許可は取ってある、心配しなくていいよ。」
いや、そうじゃなくて、それはヘルメイズの許可でいいのか――ヒュウガは頭を抱えていた。