ということで、そろそろアリヴァールの島を目指して進むことに。
アリヴァールの島は確かに、これまでのシンボルを集めたら偉大な精霊様の守りがもらえる感漂う祠の様相とは異なり、
どこぞの台座に石板をはめて封印から解放されて現世に戻ってきた感漂う島の一つというぐらい大きな土地だった。
「確かにここはアリヴァール島だな。
俺が以前にこの剣を買い付けに来た時にきた島となんら変わっていないようだ」
と、クラフォードが言うが、首を振った。
「いや、訂正だ、確かに町がない。
この開けた土地あたりに町が展開されていたハズなのになくなってるな。
いや、なくなっているというよりは、まさに封じられたままということなのか――」
リファリウスは頷いた。
「以前に私もフィリスと来たことがあった。
言われてみれば確かに、ちょうどこの開けた土地に大きな港町があった気がする。
”アリヴァール製の武器”とか大々的に書かれたのぼりも見かけたことがあったけど、
私は食わず嫌いしちゃったからそんなにすごいものだと思わなかったな。」
お前の場合はそれでいいよ、何人かは思った。
なんたってこいつの武器はその”アリヴァール製の武器”をはるかに凌ぐ”兵器”なのだから。
「私もその”アリヴァール製の武器”はスルーしたな。
というか、正直それが何なのかわかってなかったし。
それがエンブリアでは名品として扱われているなんて微塵も思ってなかったしさ」
と、フィリスは言った。まったく、”ネームレス”というのは規格外だらけであることがわかるようである。
「なんでもいい、とにかく上陸できそうなら上陸しようぜ――」
クラフォードは呆れ気味にそう言うと、リファリウスは巧みな舵さばきで接岸、上陸できるようにした。
今回は島の散策ということで、これまでの少人数とは打って変わって大勢でやってきていた。
「そう言えばシオラ、あなたがこのアリヴァールに”生命の泉”がありそうみたいなことを言ってたんだっけ?」
フィリスはそう訊いた。それはリファリウスとフィリスが当時、アリヴァールに来ていた出来事に起因するものである。
シオラはリファリウスらが”フェニックシアの孤児”というのなら、彼女はさしずめ”フェアリシアの孤児”と言われる”ネームレス”である。
彼女は第4都市フェアリシアには天命9年から大体3年ぐらいいたのだが、その後フェアリシアも消滅してしまった、
アリヴァールが第5都市なので、まさに今回の計画の次の復活のターゲットになるわけだが。
シオラは可愛らしい見た目の美女というのが特徴で、アリエーラのような奥ゆかしさも相まって人気も高いが、
おしとやかというよりは元気な女性という感じで、それ以外は大体イメージ通りの落ち着いた感じである。
そんなシオラがフィリスの問いに答えた。
「えっと、私が言ったのは、なんかそんな感じの雰囲気だったなーっていうだけのものです。
もちろん、怪しいと言えば怪しいので調べてみる価値はあると思っていましたね」
リファリウスは頷いた。
「そうそう。前にも言ったとおりだけど、自然保護の観点から島はほとんどが未開の地、実際に”生命の泉”があった東側はなおさらだね。
だから調査ということでとりあえず行ってみる価値はあるだろうというのが動機でしかなかった。
見つからなければゴメンねしか言えなかったけど我ながらに恐ろしい、本当に探り当ててしまうとは。
だけどなんだろうか、この島――前も何となく感じたんだけど妙な感じの島だね、
嫌な気は一切しないんだけど、落ち着くというかなんというか――」
どういうことだ? というか、そんなことはどうだっていい、ガルヴィスは訊いた。
「落ち着くのは後にしろよ。それよりも祠をさっさと探すぞ、元々発見されていないんだろ?」
するとアリエーラさんもなんだか左右を見渡していた。
「アリエーラさん、どうしたんです?」
シオラが訊いた。
「いえ、リファリウスさんの言うように落ち着くと言えば落ち着くんですが、
なんだか妙な感じがして逆に落ち着かない感じが――」
リファリウスが言った。
「そう、なんていうかこの妙な感じ――”なんかある”って感じだ。
しかも何故だろうか、よくわからないけれども”見える”気がする――」
そう言うとリファリウスは、どういうわけかとある方向へと歩を進めた。
それに対してガルヴィス――
「次はなんなんだよ……ったく、わけのわからんことに巻き込むのは辞めてくれ。
まあいい、さっさと目的のものを探すぞ――」
だがしかし――
「私もリファリウスさんについていきます!」
と、アリエーラさんがリファリウスのもとへ――だからリファリウスいい加減代われと何度も……
ともかく、それに全員がついて行くと、ガルヴィスだけ残された。
「あのな――全員で同じところ行ったら……って、まあいいか、とりあえず気が済むまでやらせておこう」
ガルヴィスも呆れ気味に一団についていった。すると――
「ん? なんだ? どうしたんだ?」
ガルヴィスはそう言った、リファリウスと、それについて行った一団は急に止まっていた。止まった場所は大岩の目の前である。
「というか、もしかしてこれが祠じゃないのかな?」
と、リファリウスは首をかしげながら言った。
場所はアリヴァールの町があったはずの場所から少ししか離れていない場所、
少し小道にそれてはいるが、そこまで長い距離ではなかった。
だが、その大岩はどこからどう見ても祠には見えず、ただの何の変哲もない1つの岩でしかなかった。
それに対してガルヴィスはクレームを。
「あのな、どこに祠があるんだよ、何もないじゃないか」
さらにこれ見よがしにアーシェリスも追随。
「とうとう耄碌したか、もともとふざけたやつだと思っていたがいよいよだな!」
しかし、アリエーラさんはリファリウスの味方だった。
「で、でも確かに――洞窟の入り口ではありますので、入って確かめないことには――」
なん……だと……!? どこに入るって……!? アリエーラさんまでそう言うのでは話が変わってくる――
「なんかよくわからないけど、さっさと入ろうよ」
と、フィリスまで追随……何故だ、目の前にあるのはどこからどう考えてもただの岩なのだが――
すると、カイトが現れて言った。
「なんだ、いたんだね。」
カイトが何かを言う前にリファリウスがそう指摘した。
「相変わらず手厳しいな。
なんだかセラフ・リスタート計画ってのをやっているから参加してみようと思って来てみたんだよね。
そしたらアリヴァール島とはまた興味深い――」
てか、こいつ、実は船に乗っていたんだが気が付かなかったのかと何人かは思った。
まあ、お寒いキャラと言われているようなので一切気にしていない可能性が高いが。
それはともかく、そんなことよりも何が言いたかったのかさっさと説明しろとリファリウスは言った。
「わかったよ。
実はエンブリス神なんだけど、このアリヴァールを創造する際に亡くなっている説を唱えている者がいるんだ」
そうなのか? クラフォードが訊くとカイトは答えた。
「あくまで仮説の域を出ないから何とも言えないんだけれども、
アリヴァールから先のコエテク・コナンド島以降は割と普通の島だったような感じだったけど、
逆にアリヴァールまでの島についてはそうでもなく、何やら神さびた不思議の島たる要因があるみたいで、
詳細は追々にすることとして、エンブリスが携わったにしてはアリヴァール前後の島でコンセプト的なものがずいぶんと違うという話が聞けたんだ。
それでエンブリスのアリヴァール創造中死亡説が浮上したって話になったんだけどさ」
なんとも興味深い話だが、その不思議たる要因がアリヴァールのこの現状なのだろうか。
だが、それとリファリウスの今のこの状態と何が関係するのか、ガルヴィスは訊くとリファリウスはカイトに話をした。
「でも、その中でもアリヴァール島だけはずいぶんと変わっている気がする。
東の果てには”生命の泉”というものがあったし、
そして、島の一部には”アリヴァール・メタル”と呼ばれる”セラフ・ストーン”を含んだ物質が採掘されていたり――
なんていうか元々こういう設計で島を作ったのか、
それとも作ったはいいけど今の話からするとエンブリスさんが亡くなったために中途半端で終わってしまったのかっていう感じだ。」
カイトは考えた。
「確かに中途半端って考えるとしっくりくるなぁ。
例えばこの”洞窟の入り口”とかはまさに中途半端であるからこそのこの”据え置き”の隠し方しかしていないという感じだ。
エンブリアには精霊族は本当に少数だけど、この島のこれを見る限りではもともと精霊族を配置する予定がなかったような気がするね」
だから、それがどういう意味なんだ! ガルヴィスは声を荒げてそう訊くとリファリウスは呆れながら言った。
「やれやれ、少しぐらい待ってくれたっていいのに。
まあいいや、そこまで言うのならさっさと入ってさっさと物事をこなしてくるとしようか。」
と、おもむろに岩のほうへと向かって歩いて行った――いや、だから……そこはただの大岩で、行き止まりだが――
「なっ、なんだ!?」
一同、状況を把握していない面々はその光景に驚いていた。
なんと、大岩はリファリウスがさらに接近すると突然様相を変えると、本当に洞窟の入り口があるではないか!
その光景には流石に知らない面々は狼狽え、その場から一歩踏み出すことができずにいた。
「どうしたんだよ? さっさと早く入ろうよ?」
リファリウスはそう言うとクラフォードが頭を抱えながら言った。
「わかった、急かしてすまん――って俺が謝ることじゃあないんだが。
いくらなんでもこのまま入るのは流石に気持ち悪いんでな、話の続きを聞こう。みんなもそれでいいよな?」
と、クラフォードはガルヴィスやアーシェリス、ティレックスなどにそう促した。流石のガルヴィスもこれにはお手上げだった。