エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第1部 果てしなき旅への軌跡 第2章 創造主の試練

第23節 産業の祖、最後の序章との交叉

 リファリウスは話を続けた。
「こんなに力の抜けた”精霊石”があるなんて思いもしなかったよ。 ”セラフ・ストーン”というよりもさしづめ”ホロウ・ストーン”とでも呼ぶべきだろうか、そんなところだね。」
 ディスティア様は言った。
「本当に伝説の金属”ミスリル”を持っていたり、きっとその”セラフ・ストーン”というか、 力が抜けていないほうの”精霊石”もお持ちなんでしょうね――」
 リファリウスはその”精霊石”を出して言った。
「そう言うと思って、一応出せるものを。」
 これがその”精霊石”!? 見るからに、あからさまなほどにものすごい力を秘めているパワー・ストーン、ただの石ころのようだが青白くぼんやりと輝いていた。 これが伝説の”精霊石”か――
「まさに神々が残したもうた物体って感じだね。 で、”アリヴァール・メタル”はこいつが層のようになって含まれている、 ただし、”精霊石”に含まれているマナの力が抜けている状態で。」
 リファリウスによると、”精霊石”も厳密にはマナ・ストーンの一種で分類としては魔具を開発するためのエンチャント・ストーンと同じ用途で使うことが可能な物質で、 ”セラフ・ストーン”の還元期、つまりは力が抜けて”ホロウ・ストーン”と呼ばれる物質になるためには大体1,000年はかかると言われているらしい。 しかし、それは高い濃度のマナの力を受けている間、つまりはアリヴァールという島に採掘されずに存在している場合は別の話なのだが、 それが還元されて”アリヴァール・メタル”という物質になってしまっているということは、 アリヴァール島の採掘場は少なくとも高い濃度のマナのパワーではないということだそうだ。
 それがどういうことかというのはともかく、さらに話を続けた。
「でもそれでも還元されるまでにはゆるりと時間がかかるはずだから、多めに見積もると大体その10倍程度――エンブリア創世というか、 アリヴァール島ができてからだいたい10,000年という計算になりそうだね。 1,000年前あたりだと、ちょうど一般的な金属として使えそうな物体になっているかもしれないだろうね。」
 そしてまさに今が旬という感じのようだ。しかし、その肝心のアリヴァール島がまだ復活しておらず、 島のようなものはあるが”アリヴァール・メタル”が採掘可能なのかどうかは微妙なところ、何とかしないことには。

 エンブリア創世から”アリヴァール・メタル”の話、そして1,000年前……結びつけるものは産業の神か。
「参考までに聞いておこうか、産業の神とは? 旅の一団ということは複数人という感じのようだが?」
 ガルヴィスは訊いた。なんていうか、話を聞いている限りではまさに異世界人を彷彿させる内容である。 別に産業の神など興味があるわけではないが、異世界人ということであれば話は別、そう思って訊いていた。
 すると――
「はい、男女数名ずつという言い伝えがあります。 エンブリスにはあくまで古い記録として残っているそうですが、 ”アリヴァール・メタル”を実際に打って刀を作り上げたのは女性の方だそうで、 それをエンブリスで売りさばいたというのが”アリヴァール・メタル”製による刀剣の始まりだということです」
 すると、オルザードはその資料画像を見せた。 だが、その資料画像に書かれている人物のうち、中央にいる人物はどこからどう見ても……
「えっ!? えっ、えぇっ!? なんで!? どういうこと!?」
 と、一番最初に見て驚いていたのがリファリウスだった。
「ん!? おい、なんであの女なんだよ!? どういうことだ!?」
 と、ガルヴィスも驚いていた――というか、辺りは騒然としていた。
「これ、写真ですか!?」
 アリエーラさんはそう訊くとオルザードは答えた。
「左様です。 とはいえ、当時の写真では記録が残しづらいということで魔法を用いて転写する技術を採用しており、 それもまたここに描かれている人物による技術だそうですが、 形こそ変われど今でもエンブリアでは広く普及している技術でございます。 この写真が何を示しているのかについてはこれまでまったくわかっていなかったのですが、 アリエーラ様の大発見を機に、産業の神のことを示していることが分かったのです。 ただ、彼女は刀鍛冶よりも機械技術のほうに精通している方だったということらしいですね――」
 そう、そこに描かれている人物はどこからどう見ても――
「これは一大事だ、まさかリリアリスが1,000年前にいたとは――」
 と、クラフォード、まさにまさかまさかの人物だった。オルザード続けた。
「ええ、私もリリアリスさんを見たとき、最初は驚いたものです。 まさか産業の女神なる方とそっくりな方と相まみえることになるとは――。 今この場にはいらっしゃらないようですが、 今回もまたエンブリアのためにまさしく神のごとき手腕を振るい、寄与していただくことになろうとは――」
 するとリファリウスは写真を見ながら訊いた。
「ん? これ、魔法による転写って言った?」
 オルザードはそうですと軽く相槌を打つとリファリウスは言った。
「これは少なくとも姉さまではないな。 確かにそっくりだけど、魔法による転写が幸いしたのか違いがはっきりしているよ。 特に一番の決定的な違いは……彼女の背景に見えるマナの力は雷、姉さまだったら私と同じ風のはずだからね。 そうだ、この人の名前は? ここまではっきりとした画があるのなら残っていないかな?」
 オルザードは答えた。
「はい、彼女はマナリアという方だそうです。 ちなみに、彼女の一団は一時期エンブリアにはいらっしゃったのですが、それ以来どこに行ったのかがわかっておりません。 そういったことからも、やはり異世界に帰ったのではないかと最近の異世界説を受けてそう考えることにしています」
 なるほど。しかし、そこに描かれている人物はリリアリス似のマナリアだけにとどまらなかった。
「なあ、思うんだけどさ、そのマナリアって人の隣にいる小さな女の子だけど、なんとなくアリエーラさんに似てない?」
 と、ティレックスは言うと、リファリウスとアリエーラさんが真っ先にそれを確認していた。
「まっ、まさか――これはどういうこと!?」
「そんな、どういうことでしょう――」
 そんな、どういうことだ、小さいアリエーラさんだなんて犯罪の香りしかしてこないが、やっぱり可愛いんだろうな。
 もとい、とにかく物議を醸すことになった資料画像。 リリアリス似のマナリアもそうだが、アリエーラさん似の小さな女の子の存在も注目事項である。
「この人の背景は何属性?」
 ティレックスが訊くとリファリウスは答えた。
「アリエーラさんと同じ水属性。 彼女は幼いけれども、それでも流石にアリエーラさんが1,000年生きているとは考えにくいし、 少なくとも姉さまと同じ年齢のハズだから、普通に考えれば彼女がアリエーラさんということはあり得ない。」
 でも、1,000年間も美しい美貌を保ち続けるアリエーラさんというのもそれはそれでそそるものが――
 もとい、どうやらその小さな女の子はアリエーラさんではなさそうである。 でも、マナリアもそうだが、似ているというのなら血縁者という考え方はありそうだ。