リファリウスはアリエーラさんを抱えてテラスまで戻ってくると、2人でベンチに座り、端末に向かっていた。
「悪いねみんな、待ったかな?」
モニタの向こうにはお歴々が待ち構えていた。
いえいえ、とんでもございません! クラウディアス様とあらばごゆっくりと、すべきことをなさってください!
そんなセリフが返ってくるのが定番だったが、今回は違う。
「遅ぇぞリファリウス! いつまでチンタラやってやがんだ!」
そう言ったのはバフィンスだった。
ほかはそんなこととても言えず、ひたすら恐縮しているだけだが、
リファリウスがクラウディアス様・クラウディアス様と言われることにそろそろ嫌気がさしてきたため、
遅いんだったら遅いって言ってくれよと以前に言ったばかりだった事の顛末である。
すると目論見通りにバフィンスがそう言ってくれたわけだが、
それについて同じモニタに移っているクラフォードが頭を抱えていた。
「ごめん! バフィンスおじ様! 今度美味しいお酒おごってあげるから許して!」
と、リファリウスは両手を合わせながらそう言うと、バフィンスはただ一言。
「酒か! それなら許す!」
すると、モニタからは一度に笑い声が聞こえてきた。場はいきなり和やかなムードになった。
「流石はクラウディアス様、以前と違ってご冗談がお上手ですね!
昔のことを悪く言うようで申し訳ないのですが、確かに威圧感が半端なかったような気がしますが今はどうでしょう、
本当に面白い方が国を動かしていらっしゃるのですね――」
と、この度新たにデュロンドという国、グレート・グランドが協定を結んでいるというその国が加わり、話に参加していた。
だがしかし、このデュロンドという国、なかなか見過ごすことのできない国でもあった、何故なら――
「かつてはクラウディアス王国様に続くナンバーツーと呼ばれたデュロンド公国様が連合国に加わっていただいたとあらば、
エンブリアの平和は保たれたも同然ですね!」
そう、デュロンドはそれだけ大きい国なのである。それに対してデュロンドのお偉いさん、老賢人のような風貌のアーマンは話をした。
「いえいえいえ、クラウディアス様あればこそですよ。時に、大昔のプライマリー・ステートはどうなっているのでしょう?
激しい戦争時代に入り、かつての国際的な組織は壊滅、我々は状況をそこまで把握しておりません。
とはいえ、ディグラッドの地についてはロサピアーナのこともありますし、
以前にセイバル共がこの地を土足で踏み入れたということもありますため、最近になってさすがにある程度の情報を把握しようとしているわけですが――」
ナミスが発言した。
「デュロンド様に置かれましてはシステム化がまだ浸透していないため、情報の入手も困難なのではないですか?」
アーマンは考えながら答えた。
「ふーむ、クラウディアス様より譲り受けた、今見ているこの妙な機械1つで直接会わずともこのような話ができるとは、我々の知らない間に時代はここまで進んでいるのだな。
そしてこれが、クラウディアス様においてもこのような機械がすでに人々の生活の間に浸透している状況とは恐れ入った。
それに機械と魔法は相容れないものと思っていましたが、まさか融合などとは――」
それに対してリファリウスが得意げに言った。
「機械も魔法も個別に考えるからダメなんだよ。
やりようによってはこんなことだってできる――相性はよくないかもしれないけれど、やれることのいいとこどりをしていけば、それは確実に人々の生活を豊かにする。
もちろん、それには犠牲がつきもの――だけど、犠牲にしていいものと悪いものを区別して最適と言えるものができるのならそれは人々に受け入れられるだろうし、
それに――いくら犠牲があったとて、真に大切なものまでは失われないからね。」
それに対して流石クラウディアス様と賞賛の嵐が。これにはリファリウスも流石に照れていた。
ところで、かつてのプライマリー・ステートとは? リファリウスが訊くとアーマンが答えた。
「プライマリー・ステート、国際的主要代表国と言わしめる国、それだけに強い権限を持つ国のことです。
トップはクラウディアス様を始めとし、我がデュロンド、ディスタード、ウォンダル、イングスティア、そしてロサピアーナとセラフィック・ランドの7か国ですね」
聞いたことのある国とない国とがあった。アーマンは話を続けた。
「うち、クラウディアス様、我がデュロンド、ウォンダルとロサピアーナ、セラフィック・ランドについてはこちらでも把握しておりますが、ほかは――」
ディスタードとはいうが、これはかつてのプライマリー・ステートということから恐らくディスタード前王国のことだろう。
ディスタードについてはクーデターによって帝国国家へと転覆、そして、ディスタード帝国派がクラウディアスとの戦いに敗れた結果、国自体が成り立たなくなっているわけだが、
最近は立て直しが進み、クラウディアス連合国へと返り咲いている状況であることを伝えた。
そしてロサピアーナだが今は批判の的となっており、クラウディアス連合国が本格的に乗り出した結果、劣勢を敷かれている。
ただ――
「すみません、あの、私がそのウォンダルというのを把握してないんですが――」
と、リファリウスは恐る恐る言うと、バフィンスが得意げに言った。
「ウォンダルっつーのはウォンター帝国の前身だぜ!
最初の第一次世界大戦のときにプライマリー・ステートの中でもめにもめて脱退すると、
各国を支配圏に陥れてウォンター帝国って名前でエンブリアを陥れようとしたのそのウォンダルって国だ!」
なるほど、つまりはウォンター帝国のことか、リファリウスと一緒に聞いているアリエーラさんは納得した。
「イングスティアといえばキラルディアさんのほうがお詳しいかと思いますので、お願いします!」
と、ルシルメアのリカルドが言うと、キラルディアのヴェラルドが話した。
「はい! イングスティアはドリストン大陸で一番強い力を持っている国です!
ただ、クラウディアス連合国の話題を出したところ、交渉に失敗してしまいました、本当に申し訳ない――」
それに対してバフィンスは考えていた。
「イングスティアもウォンダルと似たような考え方だからなあ。
だが、ウォンダルほど恵まれた環境でもなく、周りに敵の多いイングスティアは一応強い権限を持ったままずっとプライマリー・ステートに在籍してたって聞くぜ」
アーマンは考えた。
「ということは、かつての国家機関を立て直すこともままならないというわけか。
つまりは今後、クラウディアス連合国がこのエンブリアを引っ張っていかないといけないということだな、
のう? クラウディアスの?」
どうやらそのようだ……クラウディアスの名を冠しているだけあって責任は重大である。