エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第1部 果てしなき旅への軌跡 第1章 セラフ・リスタート・プレリュード

第9節 残念な美女、ネームレス続々

 セラフ・リスタート計画について改めて会議場で話し合いが進められたが、 フロレンティーナさんの言う”知りたがり勢”にはすでに情報がいっていることもあり、 基本的には再周知ということになった。 まったく、フロレンティーナさんに変な労力を使わせるんじゃない。
 だが、ここで肝心なのは石像となっていたはずの魔物が動き出したという件である。
「つまりは刺客がいるってことか、それは面倒だ。で、強さはどのぐらいなんだ?」
 クラフォードが訊くとガルヴィスが答えた。
「一言で表すとしたら弱い。あんなのにやられているようだと先が思いやられるな」
 クラフォードは訊いた相手が悪かったと思って反省していた、 そういえば倒していたやつはいずれも”ネームレス”だったっけ、 逆に考えれば全部”ネームレス”が片付けてくれそうだから心配はなさそうとも言えるが。
 とまあ、この度の会議での議題では大した話は出なかった。

 だが、それよりも注目されたのはやはりリリアリスとリファリウス同時にいる問題である。 会議終了後――
「なんだか不気味な光景を見させられている気がするなぁ。どっちが本物?」
 カイトはそう言うとガルヴィスが訊いた。
「どっちが本物ってどういうことだよ、面倒なのが2人いることのほうが問題だろ?」
 シエーナが言った。
「本物はリリアさんですね、彼女は言うなればリファリウスさんの姉貴分であり、 師に当たる人でもありますから、そういうことになりますね」
 だから、それこそどういうことだよ、ガルヴィスはそう言って呆れていた。
 ここでまた人物紹介、カイトとシエーナ。 いずれもリファリウスやヒュウガ、ガルヴィス同様に”フェニックシアの孤児”、つまり”ネームレス”である。 だが、”ネームレス”の中でも彼らほど謎の多い人物はいない。 特筆すべきは”予測”などと言いながら未来を見る力があるらしいことだが、詳細はあまりよくわかっていない。
 ただ……人によっては”ティルフレイジア”を名乗る者であると言えばわかる人もいるかもしれない、 つまりはお寒い陰陽師の類の能力者の方々である。
「俺としてはリファリウスがいることのほうが問題だけどな」
 アーシェリスはそう言うとティレックスが言った。
「それを言うとまーたリリアさんに怒られるぞ」
 それにリファリウス様は女性陣に非常に人気があるため、女性陣から叩かれそうである。

 そして5階のテラス、リリアリスが何やら端末を操作していると、そこへオリエンネストがやってきた。
「リリアさん!」
 リリアリスはにっこりとしながら気さくに答えた。
「どうしたの、オリ君?」
 いつものリリアリスにしてみればなんだかやたらと優しすぎる反応。ということで、オリエンネストについても説明しよう。
 彼もまた”ネームレス”の一員で、天命19年にルーティスの地にて現れた存在。 だが、リファリウスやリリアリスらに比べると記憶の欠損具合が激しく、名前すら憶えていないという。 ゆえに、”オリエンネスト”という名前は仮の名前なのである。
 ただ、彼はルーティスにいた頃には農学・薬学・生物学の才を発揮し、方々の専門家たちをうならせていたほどの存在である。 そのため、”ネームレス”の中ではリリアリスらに次ぐ有名人でもあり、クラウディアスでは特別執行官・農業担当としての役職を得ている。
 そして、男を突き放しがちなリリアリスには珍しく、彼に限っては反応が柔和なのがかなり不思議な光景である。 ただし、以前からオリエンネストの夢に幾度となく登場する女の子はまさにリリアリスのようで、 オリエンネストはその女の子に密かに思いを寄せていることは確か、 リリアリスとしても、昔にオリエンネストみたいな男の子が何となくいたような気がするとは言っていた。 ゆえに、アリエーラさんなどと同様に”ネームレス”以前からの知り合いである可能性も高く、リリアリスとしてはなんだか放ってはおけない存在であるようだ。 そして、オリエンネストはリリアリスに密かに思いを寄せているようだが、 オリエンネストの想いを知る男性陣は口をそろえて「あの女は辞めておけ」と言うらしい。 長身の美人で胸も大きく、スタイルもなかなかという美貌の持ち主かつ頭のいい才女たらしめる要素を引っ提げた高スペックな女性なのだが、 性格がすべてを台無しにしているリリアリスはそれほどまでに”残念な美女”なのである。 確かに完全に尻に敷かれるであろう気の毒な夫という未来しか見えない。そう考えるとオリエンネストはなかなかのチャレンジャーである。
 だが、それに関連しているのか、彼に対するリファリウスの態度もなんだか柔和である、未来のお義兄さんとなる人だから?  しかし、リリアリスとしてはどうなんだろうか、オリエンネストに対する評価はいいのか悪いのかいまいちわからない。 あの性格だから狙ってやっていることも考えられ、何とも言えないのである。まあ、この話についてはまたの機会にして、話を戻そう。
「リリアさんは行かないの?」
 リリアリスは少し考えて言った。
「私はお留守番、クラウディアスをこのままにしておけないし、 リファリウスと一緒にいると面倒くさいって言う人もいるからオリ君に頑張ってきて欲しいんだ♪」
 そう言うとオリエンネストは楽しそうに言った。
「そっか、それもそうだよね! じゃあ、僕が頑張ってくるから、リリアさんも頑張って!」
「うん! 頑張ってね、オリ君!」
 なんだか無邪気な子供のようでもある。 そして、お互いに手を振りあうと、2人はその場でわかれた。 無論、リファリウスよりは彼女に来てもらいたいと考える男はオリエンネストに限らない、 特にアーシェリスとか……あいつは至極リファリウスが嫌いなため。