エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第1部 果てしなき旅への軌跡 第1章 セラフ・リスタート・プレリュード

第7節 驚異的な力、繊細なる感覚

 クラウディアスで各国での大々的な話をする場合、毎回会場が変わるのはディスタードのガレアの方針と同じである。 それは気分屋のリファリウスまたはリリアリスの考えによるものである。 だが、毎回会場の様相が変わるということで、それはそれで好評と、彼らの狙い通りに傾いていた。
「でも、毎回会場作りをしないといけないから作業者にとってははた迷惑な話だよな」
 と、ガルヴィスが言うと、リファリウスは答えた。
「うち自らわざわざそんなのに対して作業者なんていうのは作らないよ。 もちろん、それでもやりますって言う業者がいる分にはいい、それはそれで一つのビジネスとして成立する。 経済が回るんだ、そういうことなら深く歓迎するよ。でも、狙いはそっちじゃない。」
 すると、そこに会場を撤去している騎士団長の姿があった。
「ん、あいつ、騎士団長って言ってなかったっけか? その割には雑用やらされているみたいだが――」
 リファリウスは得意げに言った。
「騎士団長っていうけどあの通り若いからね。 となると、あの騎士団長に続けと手を出さずにはいられない騎士だっているってわけさ。」
 つまりは騎士団の士気をあげるため? だが、リファリウスは首を振った。 というのも、それに続いてオリエンネストやスレア、そして、イールアーズにディスティア様と、クラフォードまで――
「なんだ? クラウディアス外の連中もやっているのか?」
 ガルヴィスにとっては不思議な光景だった。 リファリウスは電気のコードを片づけながら答えた、業務用のコードみたいな太いものである。
「なぁに、目的は単純明快、トレーニングの一環だよ。 なんたって力仕事が多いからね、私としても大助かりだよ、毎回設営することを考えるにしても都合がいいしね。 無論、やるからにはお給金もでるけど、その目玉はクラウディアス限定の商品券、ご褒美みたいなものだね。 でも、それらはいずれも建前で、やることに意義があるというのが実際のところで、 クラウディアス連合国一丸となってやっているってわけさ。 その証拠にビジネスでも格安での契約だからね、ほぼボランティアに近い。」
 それだけみんな平和をかみしめようとしていることの現れなんだとか。 それに、お給金よりもクラウディアス限定で使用可能な商品券が出るということで、 そういうところはちゃっかりとしているリファリウス、クラウディアスの経済に一役買っているわけだ。 他所の国でも”天命の刻”記念式典を行う際の地域活性化のためのモデルケースを作り上げたといっても過言ではないだろう。 なんだかんだ言ってよくやるやつだなとガルヴィスは思った。
 すると、ガルヴィスはイールアーズのもとに行った。
「なんだお前?」
 イールアーズが訊ねると、ガルヴィスはおもむろにイールアーズが持ち上げようとしていた長テーブルを持ち上げた。
「おっ、おい!」
 だが――ガルヴィスはさらに続けて同じ長テーブルの上にそれを重ねるとそのまま持ち上げ、 さらに3つ、4つ、5つ――8つ重ねてそのまま肩に乗せるとそのまま持って行った!  その光景に驚いていたイールアーズとクラフォード、そしてディスティア様だった。
 それに対してクラフォードがリファリウスのもとへと駆け寄っていった。
「なっ、なんだよあいつ――テーブルを解体せずに、しかも一度に8つも――」
 テーブルは連結することで長テーブルのように固定されるタイプのものだが、 ガルヴィスはそれを解体することなく、しかもそれが数組同じように固定されているものをまとめて持って行った、 要するに、それだけ重たいから驚いているのである。
 すると、それに対してイールアーズは――
「フン、どうせまた、重さを調整する魔法とか使ってやがるんだろ。 ったく、茶番は他所でやってもらいたいもんだな」
 だが、しかし――
「ガルヴィス君がわざわざそんなことするわけないだろ。 そもそも彼はそんな魔法を知らないハズ、私のようなタイプとは違うんだよ。 ということでつまり、あれこそまさしく彼の力だ。 すごいよね、流石に私でもあれはマネできないよ。」
 と、リファリウスは楽しそうに言った、マジかよ――
「おいおいおい……ここへきて”ホンモノ”に出くわすとは――」
 クラフォードは頭を抱えていた。 以前、フィリスやリリアリスのように、イールアーズが言うような重さ調整の能力を使って持っていたのは見たことがあったが、 あの重さを小細工することなくそのまま持ち上げるやつがいるなんてという意味での”ホンモノ”という意味である。
「つまりは、あれがガルヴィスさんという”ネームレス”の腕力ということですか……」
 ディスティア様は愕然としていたが、イールアーズはやはり闘志を燃やしていた。
「クソッ! ヤツには負けてられん!」
「張り合うのはいいが、くれぐれも壊すんじゃないぞ――」
 ディスティア様はイールアーズにそっと注意を促した。

 コードはヒュウガに預け、そしてガルヴィスに負けじとクラフォードとイールアーズが力仕事を繰り出している中、 リファリウスとディスティア様が会場に残っていた。
「なんとか終わりましたね。ところでそれは?」
 ディスティア様は落ちていたペットボトルのキャップ数個を拾いつつ、そのままリファリウスのもとへやってきてそう訊いた。 リファリウスはリファリウスで何やら別なことをしていたため、どうしたのか気になっていたのである。
「ん? うん、花だよ。 元々ここの会場の外にあったんだけど、あまりの大人数が来るだけあって退避しようと思ったんだけど、退避する場所がなくってね。 仕方なしにこの会場のバックヤードに置くことになったんだ。 置いといた場所は幸い日光が当たる場所だったからその点では心配ないけど、元の場所に戻してあげないとね。」
 花は花だが、そこに置いてあったのはプランターだった。 リファリウスはそう言いながらプランターの花を、 別の大きな四角い形のプランターに1本1本ていねいに植え替えながら花をそろえていた。 すると――
「ほら、こうしてあげると綺麗でしょ? うん、我ながらにいい出来具合だね。」
 非常にきれいな寄せ植え、ディスティア様はあまりの綺麗な出来栄えに感心していた。
「見事なものですね! 本当に流石です!  それにしても、リファリウスさんって本当に素晴らしいセンスをお持ちの方だと思います。 このセンスこそがまさに、リファリウスさんのモノづくりを支えている要素のひとつなんだと思いますね!」
 そう言われると、リファリウスは作業を継続しつつも何やら得意げな表情を浮かべていた。 そしてディスティア様は――
「それにしても刀剣はともかく、花といい服といい、アクセサリといい―― なんていうか、感覚といいしなやかさといい、そして繊細さといい―― リファリウスさんって女性みたいな感覚をお持ちの方ですよね!」
 そう言われたリファリウスは持っていたスコップを思わず落とし、せき込んでいた。 それに対してディスティア様は――
「すっ、すみません、変なこと言いましたね――」
 反省していた。するとリファリウスは――
「何を言い出すのかと思ったらびっくりしたよ。 でも、言われたのは初めてじゃあないんだ――と言っても以前は人伝に聞いただけで、 こうやってはっきりと直接言われたのは初めてだよ。はい、2つ目完成。」
 寄せ植えのプランター2つ目を完成させながらそう言った。それに対してディスティア様は――
「ですよね! 女性服のセンスも抜群だと思います!  前に2度ほど女性の姿を演じてらっしゃいましたが、どちらもなかなか素敵な方でした。 言っても、あれは”変装術”の効果によるものかもしれませんが、 でも、センスによるチョイスとは別だと思いますので、そういうところは流石だなと思いました!」
 そう言われたリファリウスだが、ただ黙って作業を続けていると――
「はい、最後3つ目。よし、これを全部、表に出してもらおうかな。」
 ディスティア様はそう言われると集めていたペットボトルキャップをその場に置きつつ、プランターを1つずつ持ち上げていた。 結構な重さだが、ディスティア様にしてみればどうってことない重さである。 そして、ペットボトルキャップはリファリウスが拾い上げると、ディスティア様に訊いた。
「ねえディア様、時間空いてるかな?」
 何だろう、そう言われたディスティア様は大丈夫だと答えると、リファリウスはさらに続けた。
「1時間後ぐらいに5階の例のテラスに来てくれるかな?  どうせだからエレイア……賢者レナシエル様も一緒がいいかな。」
 何だろう、改まって――ディスティア様は不思議に思っていた。