”鍵の秘術”とは? それについてはアリエーラさんが話を続けていた。
「ご存じない方のほうが多いと思いますので説明させていただきますと、
この秘術は来るべきその時まで、その効力を封じておくことができるという効果を持っています。
効力は恐らく”アンブラシア”への帰り道を示すこと、
そして、この秘術を施す際に、一種の暗示と言いますか呪いと言いますか、とある効果が付与されるのです。」
それが”鍵の復元効果”というものである。
例えば今回、セラフィック・ランドの各島に”祭壇”というものがあるはずだが、この度の一連の消滅事件により島ごと消えてしまった。
だが、”祭壇”という”鍵”が失われても、”鍵の秘術”が発動して次の”祭壇”のある島が復元されるということになるんじゃないかと言うことである。
「これはかなり古い精霊魔法の一種ですが、かなり高度な魔法で用途が少ないことからほとんどロスト・ミスティックのように扱われる魔法としても知られています。
ですが――似たような魔法を皆さんも知っていますよね!」
アリエーラさんはそう言うが、ロスト・ミスティックとか言われても――ロストというだけあってそもそもそんな秘術、見たことも聞いたこともない。
だが、リオメイラ女王・メライナが気が付いた。
「まさか、私の国の――」
そう、ディスタード帝国に占領された際、悪用されないようにと一旦消去したリオメイラ魔具の製造ラインである。
”鍵の秘術”ではないが、恐らく”鍵の秘術”に着想を得て復元機能のほうを改良して利用したものなのだろう。
だが、そんなロスト・ミスティック……いや待てよ、もしかしたら――
「そもそも精霊魔法……つまりはその”フェドライナ・ソーサー”などというもの自体、エンブリア創世でしか聞いたことのないものだ。
しかし、エルフェドゥーナ文字といい、それにまさにエンブリア創世でしか聞いたことのないような魔法の使い手であることといい、
やはりあなた方”ネームレス”にはそれだけの特殊性を感じることに加え、
もしかしたら異世界”アンブラシア”というのは案外本当に我々のルーツと言える世界なのかもしれないな――」
と、リカルドが言うと、周りが首をかしげている様子を見てさらに続けた。
「考えても見てほしい、それこそ”アンブラシア”が我々のルーツだと仮定する。
リファリウス様もアリエーラ様も精霊魔法”フェドライナ・ソーサー”の使い手だ――それが信じられないというのであれば話は別だが、
精霊魔法が使われたとされるエンブリア創世の内容はおとぎ話とも言われているにしては妙にリアルだ、
クラウディアスにある”幻界碑石”をはじめとする様々な遺物など、最近も史実ではないかと見直されているぐらいな」
エンブリア創世の見直しがなされるきっかけとなった出来事はもちろん、
ここから始まった伝説とも称される”美しすぎる女教授の歴史的大発表”の記事の内容である。
あれはアリエーラさんがルーティスで一時期お世話になっていた時の話で、
それまでエンブリア創世の内容はあくまで架空のお話である認識から、
史実であることを示唆する根拠を示したうえでそれを覆したというまさにそれ自身が歴史的な大発表で、
話題に出た”幻界碑石”はまさにアリエーラさんが発表し、後に現地へと直接訪れて発見することになった歴史的な出来事ではあるのだが、
あの時に注目されたのはやはりというべきか、歴史的大発表した内容ではなく美しすぎる女教授と称されたアリエーラ様の麗しきお姿であり、
今でもなお伝説として語り草となっているほどである。
ともかく、リカルドが言うように”アンブラシア”がエンブリアのルーツであることを真とするとすべてが説明可能のようだ。
精霊魔法を行使する者がまさに今ここにおり、そして同じ精霊魔法がセラフィック・ランドの”祭壇”にもかけられている。
さらに、リオメイラではその精霊魔法の効果を応用したそれが使用されているなど、
いずれも”アンブラシア”にあるものがルーツということに見える。
無論、エンブリスが”アンブラシア”由来ということになると、エンブリアの一部だけがルーツというのは考えにくく、
エンブリアの多くが、もしかしたらすべてが”アンブラシア”由来のものなのかもしれないというわけである。
もちろん、それは少々強引で論理の飛躍とも取れそうなところは否めないが。
しかし、そう言われてローザンドは前向きに答えた。
「そもそもその”祭壇”には”アンブラシア”への回帰とあること自体は事実である以上はその真偽について議論していても仕方がないように思う。
それに非常に申し訳ないが、エンブリア創世で起きたことが事実かどうかもどうでもいい。
第一、エンブリア創世にどのような出来事があろうとそれはあくまで大昔の話、
たとえ我々が何者であろうと、我々の住まう場所はこのエンブリアの地に他ならない。
その上で何か問題が出るというのであれば、我々がやることはそれに対処することだけだ。
この前のクラウディアスで例の”インフェリア・デザイア”を語る妙な連中がこの世界を脅かそうというのなら、
我々はそれを全力で阻止するのみ――ですよね、リファリウス様!」
リファリウスは得意げに答えた。
「ああ、まさしくその通り。
別に異世界の存在が絡もうとエンブリア民はエンブリア民としての生活が第一だ、それ以上でもそれ以下でもない。
気にするべきは招かれざる者への対処とセラフィック・ランドが復活するであろうその後の世界でエンブリアをどう盛り上げていくか、
それだけでしかないんだよ。
でも、もし異世界人がエンブリアに来て、こんな素晴らしい世界に暮らしてみたいって言うんだったらそれはそれで歓迎してほしい、
我々”ネームレス”の時と同じようにね。」
それに対してナミスは頷いた。
「そうですね、まさにおっしゃる通りです。
異世界からの旅行者であるのならともかく、攻撃者とあらば流石に黙っているわけにはまいりません。
その場合はかつてのクラウディアスのリアスティン様のように立ち上がるだけです。
ですからクラウディアス様、クラウディアス特別執行官様……いえ、”ネームレス”様、
是非、異世界”アンブラシア”への回帰を求め、そして異世界”アンブラシア”の謎と、
あの”インフェリア・デザイア”を語る者たちの企みを阻止していただけませんか!?」
そう言われたリファリウスは頷き、得意げに答えた。
「もちろんですよ、
そもそも我々は”ネームレス”であり、異世界”アンブラシア”の民である可能性がはるかに高い。
ということで故郷にいったん帰り、自分たちの真相と共にそれらを確認することは必須事項ですよ、ねっ、アリエーラさん。」
アリエーラさんは前向きに答えた。
「はい、その通りです!
”インフェリア・デザイア”の邪悪な野望は阻止させていただきます!
私はこの国が、クラウディアスが、そしてエンブリアが大好きです!
エンブリアがひどい目に遭わないためにも私たちは立ち向かうのみです!」
こうして、”セラフ・リスタート計画”は実行されたのである。
ところで、”インフェリア・デザイア”という存在がいるようである。
詳細はわからないが、”天命の刻30”の際にセラフィック・ランドの第10都市のあるレビフィブ島が消滅した際、
異形の魔物の存在と共に”インフェリア・デザイア”と呼ばれる存在が現れ、異様な雰囲気を醸し出していた。
異形の魔物の強さも大概だったが、”インフェリア・デザイア”の強さは別次元で、かの”ネームレス”を彷彿させるほどだった。
”インフェリア・デザイア”によると、自分たちはほぼ確実に異世界の存在であることを臭わせ、
さらにこのエンブリアを陥れようという内容、エンブリア民としては見過ごしておけないことであるのは確実である。
それについては一応”天命の刻30”で触れられたのだが、当時はそれについて今後どうするかはなんとも言えなかったため、
課題にもなっていた。
だが、今年の”天命の刻32”にて、ガリアスを撃破したことで得られた情報をもとに
”アンブラシア”への回帰のため”セラフ・リスタート計画”を実行することになったのである。