”天命の刻32”の話題、最初のトライスの祭壇、トライスは回帰への道を開く最初の鍵である、”封印の時が訪れる前に我が名を唱えよ”――
その”我が名”を唱えると、祭壇からホログラムが出現した。
「エンブリスとサーラの子らよ、”アンブラシア”への回帰を望むのであれば、我らが同志の下を訪れよ。
さすれば”アンブラシア”への道は開けん――」
そのホログラムの人物はそう言っていた。風貌から誰なのかはわからないが、
そいつが取り巻く環境にはエルフェドゥーナ文字はなく、エンブリアでもよく使用される文字が展開されていたのである。
「やはり”アンブラシア”――」
ナミスは考えながら言った。リファリウスが付け加えた。
「そうそう、”アンブラシア”については知らない人もいると思うから共有しておこう。
これはこの前に見せたガリアスの日誌の中に記載があったんだ。」
ガリアスの日誌については以前のサミットの折に既に展開していた、
日誌とはいっても紙などではなくテキストデータファイルであるが、
データ量があまりに膨大すぎてすべてを展開するには到っておらず、
”アンブラシア”というワードについても同様である。
とにかくガリアスの日誌にはセラフィック・ランドの”祭壇”というキーワードのほかにその”アンブラシア”という単語が出てきたのである。
最初は”屑”だとか”ゴミ”だとか、そう言った文字の羅列だけのファイルの中に、そんなワードが書かれているものが見つかったのだ。
ほかのファイルにはない、妙に独立した固有名詞だったことから何らかのヒントになるのではないかと思い、記憶していたのだが、
まさかその”我が名”が”アンブラシア”だったとは。
とはいえそれにより、”祭壇”から出てきたホログラムのリアクションがまた意味深な内容なのが気がかりである。
エンブリスとサーラの子らというのは、エンブリア創世の伝説を知るものであればなんてことのない単語、
エンブリスはこの世界の神であり、サーラはその妻のことであるため、エンブリアに住まう者はこの2人によって創造された命と解釈できる。だが――
「”アンブラシア”への回帰を望む――」
と、ルシルメア代表のリカルド大統領が悩みながらそう言った。
「ん? 何か問題でも? ”ネームレス”は以前から異世界人の可能性を示唆していましたよね?
であれば、文脈的にその”アンブラシア”というのもがまさに異世界を示す単語だと認識できる。
だからまさにその異世界”アンブラシア”に戻る道を示してくれるという風に読み取れるようですが?」
と、アルディアス代表ローザンド大統領がそう言った。それに対してキラルディア特別執行官のヴェラルドが答えた。
「確かに異世界”アンブラシア”を語っているのはわかるけど、
”アンブラシア”への”回帰”と言った場合におかしな点が生じる――」
どういうことだ? リカルドをはじめ、あまり的を射ていない者たちは首をかしげていた。
それをリファリウスが説明した。
「”ネームレス”が”アンブラシアに”回帰”するということであれば確かにその通りのことになると思う。
だけどその場合、あの”祭壇”を創造した者――
恐らくエンブリスまたはその使徒たちがこのエンブリアに”ネームレス”が現れることを予期していないといけないことになる。」
それというのはつまり――リファリウスは続けた。
「考えても見るんだ。
エンブリス創世の学者の中でもエンブリス神は異世界の人間なのではという論も上がるほどだ。
で、それを真に受けたとして、つまりは彼がもしその異世界”アンブラシア”の住人だった場合、
まさにその言葉がしっくりくると思うんだ。」
そう、エンブリスとサーラの子らが”アンブラシア”への回帰を望むのであれば――
つまりはそう言うことである。
「つまりは”ネームレス”だけでなく、
私たちエンブリアに住まう者自身がそもそも異世界”アンブラシア”の一部の住人の子孫であると言ってるのよ」
と、フロレンティーナさんが説明すると、周囲は騒然としていた。
エンブリス創世の学者でエンブリス神は異世界人を語ったのはクラウディアス常駐のアルディアス大使・オルザードの発言である。
言ってもその発言もリファリウスやリリアリスの語ったことをヒントにしたに過ぎないのだが。
ただ、聞くところによると、その案に賛同するものはそんなに少ないわけでなく、あり得ないわけではないとする者も多いようだ。
無論、断固としてノーだ、エンブリスこそが絶対神だという者もいるわけだが、
やはりエンブリアの人は元々異世界”アンブラシア”の住人だという話についても慎重な姿勢を見せる者もいたことは確かである。
それはそうと、次に気にするところは”我らが同志の下を訪れよ”というところだが、これについてはリファリウスはこう話した。
「あの後にセガーンとコプコムを回ってよくわかったよ。」
そう、今度はその2つの”祭壇”の場所に行き、ことを成し遂げてきたという。だが、そこで問題が――
「異形の魔物が!?」
と、グラントが反応した。
「うん、どちらもあまり見たことのないタイプの魔物で、セガーンとコプコムの自治区で持っている資料によれば石像だったハズの魔物が何故か動いていたんだ。
もしかしたらだけど、トライスで私らがホログラムを展開したことがスイッチとなって眠りから覚めたんじゃないかなと思ってる。」
そう、通路の途中を邪魔していたあいつらに襲われたのだという。
なお、セガーン島の洞窟についてはイツキの予想通り、フロレンティーナさんはリリアリスではなく、
リファリウスにお姫様抱っこして抱えてもらって洞窟に侵入した。
無論、その時のフロレンティーナさんの喜びようときたら異次元の喜びであったことは想像に難くない。
そして、そんな乙女心激熱状態のフロレンティーナさんはリファリウスがアリエーラさんを迎えに行っている間に1人でその魔物をしとめてしまった。
私もフロレンティーナさんやアリエーラさんを……いいえなんでもありません。
一方で、コプコムの魔物を倒したのはガルヴィスである。
もう、俺に任せろと言わんばかりにあっさりと倒してしまったのでこれ以上は語るまい。
そして、両島の”祭壇”でそれぞれ”アンブラシア”を唱えると――
「そこで”我らが同志”の話なんだけれども、それはやっぱり”祭壇”に封じられていたホログラムのこと、
つまりほかの”祭壇”でも同じことをしろってこと、そしたら”アンブラシア”への帰り道を示してやるよってことなんじゃないかなって思うんだ。」
でも、それをやる場合、ほかの島がないと成立しないのではと思う、
というのも、セラフィック・ランドについてはこれまで13の島々から成っていたハズだが、
今現在のセラフィック・ランドは消滅事件の影響を受けて3つしかなくなっているのである。
だが――
「それについては恐らくですが、その”祭壇”自体が”鍵の秘術”による効果で保たれていましたので、
もしかすると、セラフィック・ランドの復元が可能かもしれません!」
と、アリエーラさんが言うと、周りは再び騒然としていた。
「そう。だから今回打ち立てた計画の名前は”セラフ・リスタート計画”なんだ、
天使を再起動し、そして復活させるという計画をね。」
リファリウスは得意げにそう言った、なるほど――。