セラフィック・ランドが消えるきっかけとなった事件は35年前の、セラフィック・ランドで異形の魔物が現れ始めたその時期である。
以前のクラウディアスの体制は国王リアスティンの名のもとに政権がたてられており、
彼はセラフィック・ランドでの異変を調査しようと王自ら調査団を編成して指揮することとなった。
だが、その2年後に調査団は王と共に行方不明、ゆえに王位継承権のあるエミーリア姫がクラウディアスの新たなる王となった。
そして翌年、天命の刻の最初の年となる天命0年、セラフィック・ランド第1都市のフェニックシアにとある存在が現れた、
それが”フェニックシアの孤児”である。
”フェニックシアの孤児”はリファリウス、ヒュウガ、ガルヴィス、シャディアス、カイト、シエーナ、そしてリセリネアの7人がいる。
だが、その5年後にフェニックシアでは異変が起こり、このエンブリアの地から消滅してしまった。
”フェニックシアの孤児”たちは難を逃れると、今はこのクラウディアスの地で機会を狙っているのである。
しかし、フェニックシア消滅の折にリセリネアのみが他界してしまっている。
フェニックシアが消えた11年後の天命16年にはセラフィック・ランドの第2都市であるエンブリスが消滅、
第3都市のスクエアが消滅したのはその2年後のことで、第4都市フェアリシアもさらにその2年後に消え、さらにその3年後には第5都市アリヴァールまでもが消えてしまった。
こうも立て続けに消えていくことでセラフィック・ランドは人々の間では恐怖を感じるようになり、
住民は徐々にセラフィック・ランドから離れていくことになった。
セラフィック・ランドといえばこのエンブリア創世においては重要な地、
第1都市から順番にこの世界は創世されていったという神話があった。
だが、今回起きていることはその逆で、第1都市から順番に消えていっているため、
セラフィック・ランドがすべて消えると今度はエンブリア全体が消えていくことになるなどまさに世界の滅亡説がまことしやかにささやかれ始めることとなり、
クラウディアス連合国においても重大な事案として問題提起されていた。
”フェニックシアの孤児”の出現を天命の刻元年(0年)と制定した天命の刻30年において、
セラフィック・ランドの第10都市であるレビフィブが消滅しているところまでが現在までのセラフィック・ランド消滅事件の状況である。
なお、アリヴァールが消滅した際には異形の魔物が発生し、主にクラウディアスなどを襲撃してきたのだが、その流れはレビフィブが消滅した際まで発生していた。
そして、現在天命32年に開催された国際会議、通称”天命の刻32”では”セラフ・リスタート計画”を提唱、
クラウディアス連合軍はかつてのリアスティンの意思を継ぎ、再びセラフィック・ランド消滅事件に対抗することを決断した。
彼女の名はフィリス、彼女もまた”ネームレス”の一員であり天命26年で消滅しする前のソニーエに現れた存在である。
彼女がソニーエに現れて保護されたのは天命17年のことであり、
しかも保護したのはリファリウスらが加わって真・新生クラウディアス体制が始動したばかりの頃のリファリウスだった。
フィリスは何故かリファリウスとはとても気が合うようで、昔からの知り合いのような感じだった。
彼女の髪は光の当て加減によって金色の色に染まる、通称まだら赤髪とも呼ばれている金髪が特徴的だった……
いや、むしろ特徴的なのは、まだらなりにも真紅の赤い色を含んだ髪であることなのだが。
そしてガルヴィスという”ネームレス”。
彼はリファリウス同様に”フェニックシアの孤児”であるのだが、こちらはむしろリファリウスのことが至極嫌いであり相容れられないところがある。
とはいえリファリウスの言うこと自体は信用しており、単に性格が受け入れられないというだけだそうだ。
フィリスとガルヴィスの2人はセラフィック・ランドの最後から2番目である第12都市であるコプコム行政局の一室にいた。
「クラウディアス様、”祭壇”目的の祭壇というのはこのことではないかと――」
フィリスはその人に資料写真を見せてもらっていた、相手はコプコム自治行政区の職員である。
「これはどこにある?」
ガルヴィスは指さして訊いた。
「はい、町を出て街道を真っすぐ行くと、途中で分岐路があるのでそこを左に曲がったところです。
途中でお堂みたいな佇まいのものがあり閂を施していますが、必要であれば手続き次第、すぐに中にご案内することも可能です。
内部は洞窟のようになっています」
フィリスは頷きながら訊いた。
「お堂に閂……ということはちゃんと調べたってことよね、特に何も発見されていないのね?」
職員は頷いた。
「残念ながら。強いて言うなれば通路の途中で道を塞ぐかのように変な石像が立っています、それぐらいですかね――」
職員はその写真を見せた、アングルと洞窟特有の暗さのせいか全容がわかりづらい石像だったが、ガルヴィスは――
「なんだこれは、どういうことだ、どこかで見たことがある気がする――」
妙な感覚を抱いていた。
時同じくして、フロレンティーナとイツキのペアがセラフィック・ランドの第11都市であるセガーンの自治行政区の職員と話をしていた。
フロレンティーナは”ネームレス”というより”ネームレス”の身体の一部を譲り受けている身体であるのだが、
その”ネームレス”同様の能力と妖魔の女であるラミア族の能力、そしてその”ネームレス”のわずかな記憶というべきか、それらを継承している存在だった。
だが、そんなことよりも彼女の美貌のほうに目が行く人が多く、落ち着いた感じの素敵な女性のシルエットの中に、
豊満なバストに二の腕や太腿などの露出などセクシーで色っぽい要素を兼ね備えた妖艶な女性を演出している。
とはいえ、性格のほうは気の強い頼れるお姉さんそのものであり、セクシーで色っぽい要素を兼ね備えた妖艶な女性という要素は彼女のリップサービスに過ぎない。
そんな彼女の憧れの人物は後に話すリリアリスであり、シルエットは彼女をリスペクトしているがためのものである。
イツキは天命29年頃に現れた”ネームレス”で、ディグラットの地で現れたらしく、ほかにも6人の”ネームレス”と徒党を組んでいた。
彼らは例のエダルニウスのガリアスが放った刺客であり、隣国バルナルトを制圧するためにやってきたのである。
だが、クラウディアス連合軍の”ネームレス”により計画は破綻、あくまで敵対し続ける7人のうちの4人の”ネームレス”は討伐されたが、
3人の”ネームレス”はクラウディアス連合軍側で保護、そのうちの1人が彼である。
そんなイツキだが、ほかの2人の”ネームレス”共々クラウディアスでは特別戦闘員として迎え入れており、
クラウディアス騎士団や特別執行官などと連携して事に当たる職に従事している。
だが、イツキはフロレンティーナの好みのタイプということもあり、
彼女はもっぱら彼を秘書としていることが多く、今回のこれもフロレンティーナの指名である。
「崖裏ですか――」
イツキはそう言った、セガーン島については断崖にある洞窟にそれがあるらしく、
それ以外の状況についてはコプコム島の状況とだいたい同じである。
だが、入り口は閂されていないようだ。
「波が荒いと接岸できない場所ですので、入る場合は天気と相談になりますね」
職員がそう言うと、フロレンティーナは頷いた。
「この地形、リリアなら船がなくてもいけそうね。私もちょっと頑張ってみようかしら?」
そこへイツキが指摘した。
「フローラさんなら頑張らなくたってリリアさんに抱えてもらえばいいんじゃないですか?」
確かに! フローラこと、フロレンティーナはそう言った、2人で盛り上がっているところ、職員は困惑していた。
そして、最後はセラフィック・ランドは最後の第13番目の都市、トライスでも同じような話をしていた。
だが、トライスの場合は事情が異なりほかの2拠点よりも簡単だった、何故かというと――
「階段がありますのでお気を付けください。
今、明かりの準備をしていますのでしばしお待ちを――」
と、こちらは洞窟に直接案内してもらっていた、
というのも、なんと、現地がトライス自治行政区の中枢施設の敷地内にあるからである。
2つ返事で手続きが簡単に作業職員まで話が通せることもあり、直接洞窟を調べていたのである。
そして、ここの現地調査を申し出たのは――
「明かりはいらないよ、これでだいぶ明るくなるから。」
と、リファリウスは得意げにまぶしく発光する球体を発射した――言わずともがな、魔法である。
「す、すごい明るさですね――こちらで用意しているものなんかとは比べ物になりませんか――」
職員は愕然としていた。
「さあ、行きましょう!」
そして、アリエーラさんがそう言って促した。そう、ここにはリファリウスとアリエーラさんの超仲良しコンビがやってきたのである。