再びディスティアとイールアーズ。大きな生物兵器は俊敏に動き回り、2人を追い詰めていた。
「くそっ、ルイゼシア、やめるんだ!」
イールアーズはそう言うが、ディスティアは考えていた。
「これほどまでに操作されているということはおそらく、例のアレだな――」
ディスティアはエレイアの件を思い出した。そう、おそらくは彼女と同じように操作されているハズ、
それならば、エレイアの時と同じようにすれば――
だが、スキが一切見当たらない。
というか、肝心のテラ・パワー・コアがどこに組み込まれているのかが全然わからない状態である。
それでもなんとかしないことには――
「ルイゼシア! ルイゼシア!」
イールアーズはなんとか彼女の名を呼び続けるが、攻撃を一切やめようとしない。
ただ、それでも何かしらの効果があるようだ。
「正確に当てる気がないみたいだな、そのあたり、やはりこの兵器はルイゼシアか……」
すると、兵器を操作している男が言った。
「その通りのようだな。しばらくは遊んでおいてやろう、まだ試運転している最中なのでな。
だが、十分なデータが取れたところでこいつの自我を完全に破壊し、
お前らを確実にとどめを刺すようにしてやるから楽しみにしていることだな!
フハハハハハハ!」
イールアーズは怒りながら言った。
「くそっ! 俺らで弄びやがって! 何のつもりだ!」
襲われて気を失っていたメルルーナは気が付くと、後ろ手に縛られたまま男に抱えられていた。
「うっ!? ここは……」
メルルーナを捕まえた男はニヤニヤしながらメルルーナを見つめており、彼女の近くにたたずんでいた。
さらに、彼女は先ほどのモニタに映っていた男の前へと差し出されていた――
「ククッ、まさにクレイジアの魔女! 噂通りの美貌よ!」
そして、男は慌てて抗魔法フィールド発生装置を起動させていた。
「忘れるところだった、貴様らは魔女、危うくこの我が誘惑魔法に取り込まれるところだったな! フハハハハハハ!」
と、得意げだった。おそらく、パフォーマンスのつもりだろう、相手の悔しそうな顔を見るのが好きなようだ。
ところが――
「ふふっ、案内ご苦労様です」
と、ララーナがその部屋に来てそう言った。
「なっ!? どうなっている!? ほかの4人はどうした! この女も抑えるのだ!」
ところが――
「ああ、あの4人でしたら氷漬けになっていて身動き取れないのではないでしょうか?」
と、ララーナはにっこりしながらそう言った。氷漬け!? すると、モニタを確認すると、そこはまるで雪景色が――
「何っ!? まさか、これがクレイジアの魔女の能力だとでもいうのか!? だがしかし、この能力、どこかで――」
ララーナは再びにっこりとしながら言った。
「ええ、私の名前はララーナと申します、それだけで説明可能かもしれませんね――」
まさか――男はビビっていた。
「もしや、貴様は”白薔薇”!?」
言われたララーナはにっこりとしていた。
しかし、男……この施設の長と思しきその男にはまだ秘策があった。
「ふっ、フハハハハ! そうか、”白薔薇のララーナ”はクレイジアの魔女だったのか! なるほど!
流石は”白薔薇のララーナ”! 4人の動きを封じたのは誉めてやろう。
だがなあ、こっちにはもう1人いることを忘れてはならんぞ! さあ、どうする?」
すると、先ほどメルルーナをかっさらった男がメルルーナに対して剣先を向けた!
「妙な真似をしてみろ、そしたらこの女の命がどうなることやら!
うっかり”殺せ”と命令してしまうかもしれん、よく考えることだ!」
ところが――
「うふふっ、そろそろいいわよ、あんなやつの言うことを聞かなくてもね」
と、メルルーナが言うと、その男は剣をしまい、メルルーナにこうべを垂れていた――
「何っ!? 何がどうなっている!?」
それに対し、メルルーナはその男に縛られている腕の縄を解いてもらっていた。
「先ほど、あなたとララーナ様がおっしゃられたことがすべてですよ」
なんだと!? まさか――施設長は驚いていた。
「バカな! そいつは私の命令しか受けつけぬ! なのに何故だ!」
メルルーナはていねいに答えた。
「答えは個人差、のようですね。
実は、いずれかに妖魔の香が効かないかを確かめたのですが、
唯一有効だったのが、私がこの男に対する色香のみでした――」
ほかにはララーナも試したのだが、ララーナは男に対してそこまで乗り気ではないため、効果はいまいち。
対し、年頃の娘でもあるメルルーナの場合、この男がそれなりにタイプの男であり、かつ、この男自身が――
「あなたの使用している手段での意識操作よりも下心のほうが勝っていたと、そういうことのようですね」
と、ララーナは続けざまに説明した。
「し……下心、だと……!? そんな、まさか――」
「ええ、そう。クレイジアの魔女の魔力というのはただの力ではなく、
相手の感情に訴えるという至極純粋な能力よ。
あなたみたいにすでに感覚が壊れている男ならまだしも、
そうでない男なら私らみたいな魔女に対しては一定の好意を抱くみたいね」
メルルーナはそう説明したのだが、下僕の状態がまさにその通りの状態を物語っていた。
「メルルーナ様ァ! 俺の素晴らしいメルルーナ様ァ! 後でもう一度お姫様抱っこしてもいいですかァ!?
その綺麗な御御足と細くてセクシーなボディに触れてもいいですかァ!? デヘヘヘヘ……」
そんな下僕に対してメルルーナは一喝、見た目はタイプだったが性格はそうでもなかった模様、残念である。
とりあえずそいつは無視し、ララーナがさらに付け加えた。
「うふふっ、そう、それこそが私たち種族の象徴、
エモノはわざわざ自分から取りにいかずとも、向こうから自ずとやってくるというわけですね♪」
ララーナはにっこりとしていた、まさに恐るべき魔女、施設長はそんな魔女相手に恐怖していた。
「さてと、そろそろ仕上げに入りましょう、お母様、あの男が向いている方向だと思います」
メルルーナは下僕に対し何か命令していた、向いている方向!? 施設長はビビっていた。
すると、ララーナはメルルーナの術中にはまっている男が向いている方向へと即座に駆け寄った。
「なるほど、この壁の向こうですかね――」
そっ、その壁の向こうは……施設長は動揺していた。
そんな施設長に対してララーナは、
「なるほど、この中のようですね」
にっこりしながらそう言った。
「なっ、何の話だ!? 何をするつもりだか知らんが、その壁を破るのは不可能だ! 諦めることだな!」
なんか、どこかで見たシチュエーションが。それに、彼女が持っている得物といえば――
「あら、やってみないとわかりませんよ?
それに――この得物の作り手に言わせると、破るのが不可能な壁はそうそうありませんからね――」
そういいながらララーナはその剣で壁を突き破った! やっぱりあれは”兵器”か――
「なっ、なんだと!?」
ララーナはにっこりしていた。
「なるほど、予想通り、これがその電波の発信源となるアンテナですね。
リリアの言う通り、操られる側にアンテナが内蔵されているということはその発信源があってもおかしくはないということですが、
つまりはこれがそうだということですね」
施設長は慌てふためき、銃を取り出した。
「やっ、やめろおおおおお!」
しかし……
「無駄なことはおやめなさい、あなたの出番はもうありません、おとなしくすべきです」
メルルーナはそう言った、なんと、施設長が銃を取り出した途端、彼女が先に銃を取り出すと、施設長の腕を正確に打ち抜いていた!
「うふふっ、優秀な我が子を持つと、いろいろと楽になっていいわねぇ……」
ララーナは嬉しそうに言うと、メルルーナは謙遜していた。
「いいえ、これぐらいのこと、造作もないことよ」