バルナルドにやってくると、何者かが合図しており、ガレア軍の兵隊たちがそこへとシェトランドらを案内した。
「ここから先は虎の穴だから気を付けてくださいね」
それに対し、シェトランド人は――
「虎の穴ぁ? 俺らはセイバルをぶっ飛ばしに行くの! 虎なんかどうでもいいからセイバルのところに案内しやがれ!」
そうだ、そうだ! シェトランド人のヤジに対して言われた相手はビビっていた、何故――
だが、それに対して――
「虎の穴っつーのはつまりは敵地ってこと! いい加減、言ってないで行くぞ!」
と、イールアーズはそう言い捨ててさっさと行ってしまった。
「俺も意味は分かんなかったが大体そう意味だとは思ってたぜ。
とにかく、悪かったな――」
リオーンは悪びれた様子でそういうと、相手は少々驚きつつも「それはよかったです」と返事した。
「なんだぁー、そういう意味だったのか! だったら最初からそう言ってくれりゃあいいのになぁ?」
「そーだそーだ、相手に伝わんなけりゃあ意味ねーだろーが」
「おいおい、お前らバカだなぁ、俺は最初から知ってたぜ!」
「何っ!? そうなのか!?」
「俺も知ってたぜ! 虎の穴っつーのは敵地って意味だろ? 世界の常識だ!」
「何言ってんだ! オメーだってさっきそうだそうだとか言ってたじゃねーか!」
「あんだとテメェ!」
そんなヤジに対してワイズリア――
「お前らやめろ! 学のないバカ丸出しに見られるぞ!」
そう言われてみんな一斉に黙った。
「悪りぃな、脳筋の集まりでよぉ。
お前確か、副将軍さんだったっけな、リファによろしく伝えておいてくれや」
そう言われた相手、ルヴァイスは答えた。
「はい! アール将軍に伝えておきます! それではよろしくお願いいたします!」
爽やかだ。
そこのやり取りに対していろいろとあるわけだが、こういうメンツのため割愛。
とにかく、洞窟を抜けてセイバルの領土方面へと向かうと、目的の場所へとたどり着いた。
だが――
「なんだこれ!? 何にもねーじゃねーか!」
と、今度はヤジというより怒号が。すると――
「噂通りだな、地上部はほぼ何もなくて……」
と、ヴィーサルがいうと、ワイズリアが言った。
「地上がなくて地下に施設があると、確かに、そいつは俺も聞いたことがあるな。
セイバルっつーのは国なんていうものを持たない、要するに無国籍の連中によってできた国ってワケよ。
それがどういう意味かというと、つまりは俺らと同じ成り立ちによってできたっていう連中なワケだ」
すると、そのうちの1人のヤジが言った。
「同じってどういうことだ? 確か、俺らってのはバルティオス国の領土に住んでいるんだよな?」
それを言うのならグレート・グランド国である。
シェトランドはもともと統合前のグレート・グランド国の北東部にあるシェトランドの島に住んでいたのだが、
リオーンの先祖がシェトランドを守る形で島と統合したのが現在の状態である。
つまり、今はシェトランドはグレート・グランドの領土に住んでいるということだが――
「ここは解体前のロサピアーナ領ですね。
ロサピアーナ解体前はソーヴェと呼ばれていた国で、このダムサードのほとんどを支配していた。
ソーヴェは解体して国が分裂してしまったけれども、ソーヴェの中心でもあるロサピアーナはここから西のほうに位置している。
で、肝心のセイバルのこの土地だけど、ロサピアーナとしては完全に放置、セイバルはセイバルとして独自に国を作らせる方針にしたようですね」
と、ディスティアが説明した。それについてはララーナが話を付け加えた。
「私もある程度は知っています、”白薔薇”時代であちこちを行くための知識としてですが。
ですが、何故、セイバルは独自に国を作らせる方針としたのでしょうか、
ロサピアーナと言えば隣国を支配してまで自分たちの国を強大にしようという国だったハズ、
それが何故――今になってただの”協力関係”だけでしかないのでしょう?」
それに対してワイズリアが話した。
「それは相手がセイバルだったからっつー簡単な話だぜ。
旧ソーヴェ内でも方向性の違いからセイバル自治区内ではたびたび問題が起こっていた、
裏からこっそりシェトランドを攻めようって腹があったからよ。
とにかく、無断でそんな行動を起こすもんだからソーヴェでも常に目の上のたん瘤でなあ、まさに頭の痛い存在ってワケだ」
さらにヴィーサルが付け加えた。
「でも、そんなセイバルの標的というのが、やっぱり戦争する相手としてはかなり微妙なシェトランド、
当然、グレート・グランド領の俺らと揉め事を起こしていると言ってもあくまで少数民族同士による小競り合い……
国際問題に発展せず、グレート・グランドもロサピアーナも黙認していたってわけだな」
だが、ロサピアーナとしてはやはりグレート・グランドの一部に攻め入っているということでなんとも気が気ではなかったようだ。
「とはいえ、そうまでしても、シェトランドの核による実験には興味があるからな、あわよくば、セイバルの研究成果をもらえればよしと、
ロサピアーナにはそういう思惑があってセイバルを仲間に引き入れてソーヴェの一部にしたっていう背景があるみたいなんだよな。
だから今また再び協力関係を結んだ……協力って言ってもほとんど表面上のものでしかなさそうな感じだな」
そしてウェザールがそう言って締めた。
セイバルの方針はソーヴェが解体しても変わらず、ロサピアーナは彼らの姿勢に対しては慎重だった。
ゆえに、ソーヴェ解体前時代より協力関係にあった間柄であることはそのままに、
セイバルの危なっかしさを理由に一定の距離を保っているというのが現状というか。
「見ての通り、土地も狭ければ陸の孤島みたいな場所なんでな、
それに、セイバルが相手しているのは俺らシェトランド人、自分で言うのもなんだが、
今ではしっかりと他国から恐れられているような連中を相手していることもあって、一定の期待値を寄せているという側面もある。
だからロサピアーナだけでなく、ほかの国からもここを攻め込んでどうこうするっていうような感じでもなく、この状態で保たれているようだな」
と、ヴィーサルは説明した。
「つまりは得体のしれない連中ってわけだな!」
と、ヤジが飛んでくると、リオーンが返した。
「得体のしれない連中ってのは俺らも同じように思われてるってことだ!」
とにかく、こんなところでずっと留まって大声で話をし続けていると普通に目立つため、一旦姿をくらまし、様子を見ていた。
「隠れるのはお上手ですね」
ララーナはそういうとリオーンが答えた。
「隠れて住んでいるぐらいだからこれぐらいはお手の物だな。
もっとも、隠密とか戦闘能力の高さについてはある程度保証されたようなもんだが、
どいつもこいつも学が足らねえもんでよぉ、そいつばかりが心残りだ」
なるほど……と、頷くべきかそうすべきでないのか迷っているララーナとメルルーナだった。
「そういや、おたくらプリズム族は学校なんかはどうしているんだ?」
リオーンはそう聞くとララーナは答えた。
「私たちは自分たちの方法で学力を補っています。
普通の人間の世に忍ぶすべを持つ必要があることから、学力は必須です。
今ではありがたいことに外部からの協力者もいらっしゃいますので困ることは少ないですね」
リオーンは頭を抱えながら言った。
「プリズム族のねーちゃんたちは頭いいからな、俺らなんかと比べて。
それに外からの協力ってリファのことだろ? 羨ましいなあ。
ったく、てか、その前にあいつらにはねーちゃんたちの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ」
シェトランド人は余程苦労しているようである。
「でも、一部のシェトランド人は違いますよね?」
ララーナの問いにリオーンが答えた。
「オウルだろ、あっちは出稼ぎが多いもんでな、つまりは考え方はねーちゃんたちと一緒だぜ。
あっちの里の子らはそういう親に育てられてるもんだからあんまり心配してないんだが――逆にうちの島の連中のほうが深刻だぜ」