女性陣は話を咲かせていた。
「ララーナお母様って本当に素敵な方ですよね♪」
ウィーニアは思いっきり食いついていた。
「うふふっ、ありがとう、ウィーニアさん。
でも、ウィーニアさんだってとっても素敵ではないですか?」
「いえいえ、そんな! 私なんてちょっと可愛い程度の女ですからララーナ様には足元にも及びません!」
ちょっと可愛い程度の女というのはもしかして――
「リリアの影響ね!」
ララーナはそう言うと、ウィーニアは頷いた。
「そうでーす♪」
だが、アローナは……
「ウィーニアなんか学校でもモテモテだったじゃないのよ、
だから本当は絶対に自分が一番かわいいって思ってるのよ」
というと、ウィーニアは反論した。
「やーだ! そんなことないわよ!
大体一番なんて言ったらリリアお姉様とかアリエーラお姉様とかいるし、
目の前にお母様やメルだっているんだから私程度じゃあ太刀打ちできないわよ!」
すると、メルルーナが嬉しそうにしていた。
「まあ、そんな、私まで――嬉しいですね」
と、彼女の独特の立ち振る舞いが気になったウィーニアとアローナ、今度は彼女に食いついた。
「メルって結構かわいらしい見た目に反して意外とクールよね」
「確かに! シェルシェルみたく、ミーハーなところがある娘なのかなーって思ってたけど、
ギャップがすごいわね……」
対し、メルルーナは答えた。
「そうですか? 私としてはララーナ様みたく、
これこそがプリズム・ロードとして正しい姿と思ってこのような姿をさせていただいていますね」
ウィーニアは頷いていた。
「そっか、逆に言うと、プリズム・ロードでなければそういう格好をする資格がないと、そういうことなのね」
ララーナは答えた。
「必ずしもそういうわけではありませんが――まあ、プリズム族の慣習的にはそういうことになりますかね。
確かに、先日のウィーニアさんがおっしゃってたようにプリズム族が素肌を見せるような服装をしているのは自らの魔性の気配をコントロールできる証、
その考え方は間違いありませんが、実際にはそれはただの意識的なものでしかないのです」
メルルーナは頷いた。
「ええ、布で肌を隠すだけで自らに宿る魔性をコントロールできるとは到底思えません。
とはいえ、肌を見せるか見せないかで自分の意識もだいぶ変わりますので、
プリズム・ロードを志すものだろうとそうでないものであろうと、要は気の持ちようだと私も思いますね」
そんな彼女に、ララーナはにっこりとしていた。
それにしても、プリズム・ロードという存在は種族内では伝説の存在なのではなかろうか、そう聞くと、ララーナが答えた。
「プリズム・ロードの起源はとある大いなる女性の精霊だといわれています。
そして、そのあとの世界の暗黒時代において現れた女性の英雄によって世界は均衡を取り戻すと、
彼女はまさに究極のプリズム・ロードとして言われるようになったのです」
大いなる女性の精霊に究極のプリズム・ロード……なんだかえらいこっちゃ……余程の人物なんだろうなと3人は思った。
それに対し、メルルーナが言う。
「ララーナ様のお考えはまさに”原始プリズム族”の考え方そのものに近く、
私たちにとっては本当に勉強になることばかりです! 本当に、ララーナ様は素晴らしい方です!」
”原始プリズム族”、また厄介なワードが現れた。でも、その謎には何となく思い当たる節が――
「それってもしかしてお母様が”ネームレス”だからこその考え方ってことなのかな、
だとしたら、”ネームレス”の謎が解けるといいですね!」
と、ウィーニアが言った。まさにそれである、つまりは”ネームレス”ということがカギのようだ。
すると、ララーナはまさかの一言を――
「ええ、そうですわね。でも、それを言うと、私だけでなくメルルーナも”ネームレス”なのかなということになりそうです」
なんだって!?
ララーナは話を続けた。
「具体的に言うと、この娘の父親が”ネームレス”らしき存在だということです」
母親はもちろん先代のラブリズの長、メルルーナはそのような母と”ネームレス”の父の間に生まれたという。
「父親が”ネームレス”というのは確かなんですか?」
ウィーニアが訊くとララーナは答えた。
「話を聞く限りではそのようです。
考え方についてはその方と私とでは非常に似ているところがあり、
彼の身に起きている状況などについても私やリリアリスなどと同じようなことが起こっていたようです」
だが、父親はラブリズの長に取り込ま……とにかくメルルーナを授かることとなったが、病気により死去してしまったそうな。
「お母様も亡くなり、私はララーナ様に引き取られました。
そして、ララーナ様もエモノ……相手の方との間にシェルシェルを授かり、私たちは姉妹のように育ちました」
ララーナとメルルーナ、そしてシェルシェルはそういう関係なのか。
「ええ、メルルーナも私の大事な娘ですから、シェルシェルと同じように育てました。
もっとも、メルルーナのほうが先なんですけれどもね」
でも、ララーナは見た目上はあんまりお母さんを感じさせないあたり、やっぱりプリズム族の美貌のなせる業と言える、むしろ素敵なお姉さんである。
とはいえ、包容力で言えば偉大なるお母様というような雰囲気を持っているほどなので、リリアリスやリファリウスなどはもとより、
大勢からお母様の愛称で親しまれている。
「いいお母様ね! 言ってしまえば血のつながっていない赤の他人になるのに、同じように育ててもらえているなんて!
やっぱりララーナお母様って素敵!」
アローナがそういうと、ウィーニアとレナシエルも嬉しそうにしていた。すると――
「うふふっ、いえいえ、
母親が亡くなったためにほかの者が親代わりをすることなど、プリズム族としてはよくあることですわ――」
特に母親が”魔物”の場合、子供に理性があることを悟ると本能的に自ら育てることを拒絶し、
理性のあるものに託すということも普通になされているという。
さらに、それにメルルーナが追随。
「とはいえ、その子供は往々にして長が里親を指名して決めることが一般的だそうです。
ですが、私の場合はララーナ様自ら名乗られたそうで、そのような方に育てていただいたことを私は誇りに思います――」
だが、ララーナは遠慮がちだった。
「いえいえ、そんな大それたことではありませんよ。
そもそも私は長になることを指名されたわけですが、当時の私はプリズム族の長をやるにしては肝心なことを経験しておりません、
そう、母親を経験したことがなかったのです。
一族の長たるもの、自らの能力を以てエモノを取り込む力を示すことは当然のことであり、
しかも母親を経験するのは当然のことですので、メルルーナは私自ら育てましたし、
そのあとでエモノを――いえ、シェルシェルを産んで育てました、つまりは事を急いだというのが実際のところですね」
ということはつまり、むしろ、責任感の強い素敵なお母様ということになる。
それはそれで女性陣は彼女をさらに讃えることになった。
「でも、それって、返ってプリズム族の女性のすごさというのを改めて実感することになりますね。
私も頑張らないと――」
レナシエルは自信なさそげに言うと、ララーナは優しく言った。
「そんなこと、気にされる必要はありませんよ、エレイアはエレイアのままでいいと思います。
焦る必要はありません、時が訪れれば自ずとそういうことをしなくてはいけない時がやってきます。
世の中、そういうものですからね」
それに対してアローナは言う。
「それもそうなんだけど、生まれて来た時の元の性別なんかも関係なく、
プリズム族というのはこうだっていうのを体現している感じ――」
ララーナはにっこりとしながら言った。
「それはそういう慣習だからですね。
私もメルルーナもプリズム族女児として育てられましたが、
そもそもそういうものだと思って生きていますので、あまり気にしたことがないんですよ」
ん? メルルーナも? 3人は違和感を感じた。すると――
「うふふっ、ええ、そうですよ、私も生まれたときは男の子でしたからね」
なっ、なんだってー!?
「でも、それがララーナ様と同じであることに私は運命を感じずにはいられませんでした」
「ええ、メルルーナは私と同じです。
そして、私とこうして巡り合ったことにより、彼女からはなんだか特別なものを感じました。
ゆえに、彼女には私と同じプリズム・ロードとしての道を勧めたのです」
「そして、私はそれを甘んじて受けました」
はああ、そうですか……なんだかすごいものを見たと3人は思った――。
言っても、プリズム族としては割と普通のことなんだが、”プリズム・ロード”を選出すること以外は。