エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

遥かなる旅路・天使の舞 第5部 精霊たちの反撃 第6章 動き出した魔女

第120節 プリズム・ロード

 そんなこんなでララーナたちはオウルの里のシェトランドの長の家へと、つまり、ワイズリアの家へと促された。 すると、そこにはメルルーナがいた。 彼女の服装はプリズム族らしからぬ風貌で、短くてかわいらしいチェックのスカートからはみ出る綺麗な御御足が反則的な上、 谷間上等と言わんばかりのかわいらしいオフショルダートップスという服装である。
「あら、あなた、メルルーナね! あなたが来てくれたのね!」
 ララーナが嬉しそうにそう言うと、メルルーナが態度を改め、丁寧に言った。
「ご無沙汰しております、長。 遅ればせながら先日のうちに里に戻ってまいりました――」
 ララーナは優しく言った。メルルーナは服装のわりに案外控えめな女性だった。
「ローアドルまでの遠征、お疲れ様です。無理を言ったようですみませんでした」
 ローアドル? 何人かが首をかしげているが、メルルーナは話を続けた。
「いいえ、むしろローアドルでの修業はとても有意義なものでした。 無論、同族の里がないかを探し、それらしい場所を見つけたのですが、すでに放棄されており、 その足取りを見つけることはかないませんでした――」
 そう言われてララーナはがっかりしていた。
「長、申し訳ございません――」
 だが、ララーナは改まって言った。
「いいえ、あなたのせいではありません。 むしろ、確認しにいただいて感謝しているぐらいです。 それに――その帰り道なのにわざわざこちらに出向いていただけるなんて、嬉しいですわ――」
 すると、メルルーナは優しそうな表情で言った。
「いいえ、お母様におきましては……いえ、前長におきましては、ララーナ様に尽くすよう仰せつかっております。 それに、あの方のためでもありますので、むしろ私にも何かをさせてくださいね」

 2人の話を終えると、ワイズリアが話をし始めた。
「ロードアルってデュロンドよりももっと西のほうにある大陸だよなぁ?  そういえば確かに、プリズム族かどうかはわかんねえが、美女の集う森っつーのがあるって聞いたことがあったが、 今の話から察するに、すでにいなくなっているってところか――」
 それに対してメルルーナは頷いた。
「ええ、残念ながら。ただ、放棄したのはずいぶんと前で、何者かに襲撃されたような跡がないことから、 もしかしたら自発的に場所を動いているという可能性がありますね――」
 そう言われたワイズリアは話を続けた。
「それを言われて思い出したんだが、ロードアルにいたって言う美女っつーのはロードアルを点々としているらしいぜ。 もしかしたらロードアルを出ているっていう可能性もあるかもしれないぜ、ロードアル周辺の大陸にも目撃情報があるらしいからな」
 それに対してララーナは感心しながら言った。
「ということはつまり、彼女らは常に1か所にとどまらず、各地を点々としながら暮らしているという形態をとっているようですね」
「そうでしたか、そういうことなら改めて探さなければいけませんね」
 と、メルルーナは言うが、ララーナが言った。
「それには及びませんよ、彼女らには彼女らのやり方があるのでしょう。 あえてこちらから探し出してどうするという必要はないかもしれません。 移動しているということはつまり、そうまでして他民族には干渉されたくないということでもありますから、私らとしては少々慎重に事を運ばなければいけません」
 それにはワイズリアも頷いた。
「多種族が口をはさむことじゃねえのはわかるが、俺としても同意見だな。 というのも、実際、このオウルの里はそういうシェトランド人が集まってできた集落だった。 昔はシェトランドの島に定住する者もいれば、島を出て外で活躍するシェトランドもいたんだ。 だが、あまりに外の世界で活躍しすぎる都合、島に住み着くシェトランドには迷惑をかけられないってんで戻れなくなったシェトランド人が続出しちまった」
 それで、そういうシェトランド人のためにワイズリアが新たに開いたのがオウルの里なのだという。
「集落には集落のポリシーがある、集落のものがそうしたいってんならそれを尊重してやらにゃあいけねえからな」
 すると、それを言ったワイズリアに対して何人かはあっけにとられていた。
「って、俺もかよオイ! 俺がマジメにものを言うのが悪りぃんか!」
 その様を、ララーナとメルルーナはクスクスと笑いながら見ていた。

 ウィーニアはエレイアとアローナと話をしていた。
「ワイズの話を聞いて、なるほどねーと思ったわ。 オウルの里のほうが手練れが多いって聞いたことあったけど、そういう理由があったのね」
 エレイアは頷いた。
「そうみたい、私も初めて聞いたなー。 もっとも、オヤジがこの里を開いた大昔のことだから私も全然知らないんだけどさ」
 そこへアローナが腕を組みながら言った。
「でも、時折、マジメなことを言いだすのには驚いたわ、あんなキャラしているくせにさ――」
 エレイアは頷いた。
「うん、私もそう思った。でも、オヤジはあれでも一応賢者様だから、そう考えると、そういうこと言うのはありといえばありなのかなーって」
 そういえばそうだった、改めて言われると、確かにそうだった。 だが、ワイズリアはそれを忘れてしまいそうなキャラクターなので、日頃の行いを反省してもらうしかなさそうだった。
 すると、そこへメルルーナが通りかかった。
「あら、プリズム族の美人さんね! 私が見た中でも結構上位に食い込む美人さんよね!」
 と、ウィーニアは楽しそうに言うと、メルルーナは少々控えめに答えた。
「あら、そういうあなたは確かウィーニアさんという方でしたか、そんな風に言っていただけるだなんて嬉しいですね――」
 なんだこの控えめ美人は――アローナは不思議に思っていた。
「あなた、あんまりプリズム族って感じがしないわね。 そもそも服装が、ほかのプリズム族とは違っているような。 むしろララーナお母様の服装に寄せていってるって感じ――」
 そういわれてウィーニアは思いついた。
「思い出した! プリズム族が素肌を見せるような服装をしているのは自らの魔性の気配をコントロールできる証だって!  ということはつまりあなた――」
 メルルーナはにっこりとしながら答えた。
「ええ、そう。私はプリズム・ロードを志す者。 その話をしていたのは恐らくリリアリスお姉様ですね――」
 プリズム族らしからぬこの印象もやはり外の世界を知る存在であるからこそのものだった。 そこへ、エレイアが訊いた。
「お母様が前長だったということは、ララーナさんの前の長ということですか?」
 メルルーナは頷いた。
「ええ。私はお母様の遺志を継いで里の番人となりました。 ですが、その際にララーナ様がいらっしゃいまして、本来であれば次期長としてリュナがその役を担うことになっていましたが、 お母様においてはララーナ様にその役目を担うようおっしゃられました」
 自分は長になるつもりはなかったのか、そう聞くと、メルルーナは答えた。
「私は里の番人としての役目を全うすることを考えていました。 そもそも次期長としてリュナを推したのは私ですので、異存はありません、ですが――」
 メルルーナは話を続けた。
「どこからともなくやってこられたララーナ様はとても素晴らしい方です。 それにより、皆がララーナ様を次の長へと推していました。 あの方はプリズム・ロードですが、里のためならと快く引き受けてくださいました――」
 そして、メルルーナにも心境の変化が。
「私もララーナ様のような人になりたいと思うようになり、 以来、私はプリズム・ロードとして、プリズム族の生きる伝説を貫こうと決心したのです」
 そうだったのか、3人はそう思いながら頷くと、ララーナがやってきて言った。
「ふふっ、とてもうれしいことを言ってくれているようですが、 私もプリズム・ロードを志すものとしてはまだまだ半人前ですからね」
 そんな――メルルーナはそう言うが、ララーナはにっこりとしながら言った。
「むしろ、プリズム・ロードの素質であればメルルーナ、私よりもあなたのほうが相応しいでしょう。 私は長になれるだけの器はあったようですが、せいぜいその程度のものです」
 長、そんな――メルルーナは再びそう言うが、ララーナは楽しそうな表情で続けた。
「うふふっ、メルルーナ、私があなたをプリズム・ロードとなることを推したのはあなたにそれほどの素質があることを見込んでのことですからね」
 そう言われたメルルーナは恐縮していた。そして、ララーナが去ると、メルルーナは遠慮がちに言った。
「やはり、ララーナ様にはかないませんね。 あのようなことをおっしゃられるのですから、やはりララーナ様はとても素晴らしい方です――」
 それに対し、3人も頷く。
「他人をあそこまで称えてくれる人はそうそういないもんね。 確かに、ララーナ様は偉大なるお母様だわ――」
 ウィーニアはそういうと、ほかの3人は頷いた。
「私はプリズム族じゃないからプリズム・ロードというのには成れないかもだけど、でも、ああいう素敵な人になりたいわね――」
 アローナはそういった。だが、それに対してはメルルーナから鋭い指摘が――
「あら? みなさんの羨望の対象はリリアリスお姉様では?」
 そう言われると甲乙つけがたい3人組だった。
「私もリリアリスお姉様のようになってみたいと思いますね――」
 と、メルルーナは嬉しそうに言った、やはり彼女は女子のカリスマか。