お姉ちゃんと一緒に過ごしたある日のこと――
「うふふっ、いいでしょ、ディール♥」
なっ、何がいいって――また地雷を踏みたくなかったディルフォードはどう返答するべきか考えていた。だが――
「自慢の大好きなお姉ちゃんと一緒に寝れて嬉しいでしょ♥」
そう言うことにしておかないとやり過ごすのが困難だったディルフォード、素直に言うことに応じたが――
「でも、どうせなら自分の彼女と一緒に寝るようにしなさいよね。」
そう言われると何とも返答に困ったディルフォード、当時の状況的にどう言ってみようもなかったからである。
すると、お姉ちゃんは――
「あら、ということはつまり、ディルったら、どーしてもお姉ちゃんとずっと一緒に寝ていたいのね!
そういうことならいいわ、お姉ちゃん、いつでも大歓迎よ♥」
そう言われてディルフォードは耳を疑っていた、なんでそうなるんだ!
「あん? まさかお前、この私がヨシヨシして一緒に寝てやってんのに嫌だとか言うつもりじゃねえだろうな――」
しまった、とんでもない殺意――大変申し訳ございませんでした! ディルフォードは完全に平謝りモードだった……
「私は、お姉ちゃんのことが大好きです! 大好きなお姉ちゃんと一緒に寝られてとても幸せです!
できることならお姉ちゃんと結婚したいぐらいです! それぐらい大好きなお姉ちゃんと一緒に居られて嫌なんて思うはずもありません!」
それに対してお姉ちゃんはクスクスと笑っていた、何故――
「あっはははっ! あんた、前の万人斬りのイメージがボロボロね!」
それはあんたのせいだろ――ディルフォードはそう思った。が、それは、どうやらお姉ちゃんの考えだったようだ。
「でも、むしろ、そういうイメージがないほうが私は好きよ。
なんていうか、片意地をはっていると、ずっと疲れるでしょうよ、等身大の自分でいたほうがいいと思わない?」
等身大の自分……そう言われると、彼には突き刺さるものがあった。
むしろ、エレイアと一緒にいるときはそうだったのだが、自分はいつからそうなったのだろうか、ずっと不思議だった。
いや、多分、大人になる過程で、周りに負けたくないっていう気持ちが強くなったんだと思う、そのせいかもしれない。
だが、そんなこと、気にする必要がないということを彼は思い知らされたのである、リファリウスという存在である。
あの人は不思議だ、どこからどう見ても歴戦のつわものというイメージから偉くかけ離れている人物なのだが、
やることなすこと、すべての面において、軽く自分の上を行く存在である。
そして生まれたのがディスティアという新たな人物だった。
「うふふっ、いいわね。さて、そうと決まったらお姉ちゃんからの命令よ、エレイアのことを絶対に救ってあげなさい。
そして、エレイアのことを抱きしめてあげるのよ、わかったかしら?」
だが、ディルフォードとしてはどうしても1つ、引っかかることが――
「お姉ちゃん、ずっと気になっていることが一つあるんだが――」
何よ、お姉ちゃんはそう聞くと、ディルフォードは続けた。
「いや、その、どうして私にこんなことしてくれているのかって――」
確かに、見ず知らずの男を抱くとはどうかしてるぞこの女、いや、実際には見ず知らずってほどの間柄ではないんだが、でも、他所の男を――
それに対して彼女は答えた。
「何って、決まっているじゃない、私自身の修行のためよ。
プリズムの女は自らの修行のために男を抱くっていうのがよくあることなのよ。
でも、どうせだから相手の男は選びたいじゃないのよ、ステキなイケメン男をね♥」
じゃあ、イケメンでなければそんなことしないのか聞くと、帰ってきた答えは当然――
「ったりまえでしょ、イケメンじゃなければくっついてくる前に蹴殺しているわよ。
この男なら私の弟にしてもいいっていうようなイケメンな顔と特に性格の男じゃなけりゃ私の身体を拝む権利はないわ。
だからあんたもそーゆー所、ちゃんと覚えておきなさいよ。」
特に性格――なるほど、ディルフォードはしっかりとそれを心に刻み込んでおいた、そうでないと多分すぐにでも蹴殺される。
お姉ちゃんの誘惑魔法は、ディルフォード自身を誘いつつも突き放すというなかなか驚異の能力だった。
それにより、ディルフォード……いや、ディスティアには並大抵の誘惑魔法を受け付けない体質になっていた、
常にお姉ちゃんに守られているからである。
しかし、相手がエレイアとあれば別、彼女の能力のみ受け入れる体質となっていた。
その状態でディスティアはエレイアと共にラブリズの里へと向かっていた。
「うふふっ、確かに、素敵なお方ですこと♥」
と、ディスティアはそう言われると悩んでいた。
「そっ、それは光栄ですが――あの、ララーナさんは――」
2人がいるのは長の家、リュナが2人と話をしていた。
「長はここにはいませんよ。
ただ、あなた方がここにお見えになることについては長より仰せ使っております、
リリアお姉様ですよね?」
確かに、リリアリスに言われてプリシェリアからここに来たのだが。
「セイバルとの戦いの件で聞いています。
プリズム族が立ち上がったわけというのは、やはりエレイアの件でしょうか?」
ディスティアはそう聞くと、リュナは頷いた。
「ええ、エレイアさんのことについては私らとしても見過ごせないことでございます。
だからこそ、私たちも立ち上がることにしたのです。
長はそのために森を出られました、”白薔薇のララーナ”が再び世に出たのです」
エレイアは申し訳なさそうにしていると、リュナが慌てて言った。
「エレイアさんのせいではありませんよ! すべてはセイバル軍のせいです!
私たちの力を悪用するなどとは許せません! もちろん、シェトランドの方たちの力もです!」
そんなとき、2人の後ろからもう一人のプリズム族が現れた。
「お呼びでしょうか?」
やはりプリズム族らしく、素敵なお嬢様らしい服装に身を包んでいた彼女だったが、
傍らには長い剣を忍ばせていた。
「あっ、メルルーナ! あなたが来てくれたのね!」
メルルーナと呼ばれたその女性はキョトンとしていた。