イールアーズはキャンプから出てきた。先に外にいたディルフォードのもとへとやってきた。
ベラッサムは戦いに敗れたものの、鐘が鳴ったことにより、すんでのところで生かされることに、つまり――
「ベラッサムのやつ、いい気味だ。まさに生き恥を晒すというのはこのことか」
ディルフォードは頷いた。
「その通りだ、特に傭兵とあらば、生き恥を晒して生きることほど残酷な仕打ちなどない、
それならば死んだほうがまだマシだと考えるもののほうが多い、お前もそう思うだろう?」
イールアーズは頷いた。
「まさにそいつを目の当たりにするとなるほどなって思うな。でも、お前は違うのか?」
「私か、私は生き恥を晒そうが何しようが、ワイズリアに”死ぬな”と言われているからな、
だから何が何でも生きなければならない、そう思って今日まで生きてきたのだ」
そう言われてイールアーズは納得した。
「あんたの強さの秘訣、そう言うところにあるんだな、恐れ入ったよ」
そう言いながらイールアーズはその場を去ろうとすると、ディルフォードは茶化すように言った。
「シェトランドの島にまっすぐ帰れよ」
イールアーズは冷静に返した。
「言われなくてもそのつもりだ、ほかに行くところもないしな。
第一、そうでなければあのノンダクレにドヤされてかなわん、アレが一番つらい」
確かに、それもそうだった。
そして、ディルフォードはディルフォードでまた次の現場へと向かっている途中、何者かと出くわした。
「あら、あなたは先ほど、あの男の人と戦っている最中に見ていらした方ですね」
その女、なんと、ベラッサムと対峙していた女だった――
「あんた、”白薔薇のララーナ”だろう?」
そう言われた彼女はにっこりとしていた。
「ええ、そうですわ、よくご存じで。
そういうあなたはシェトランドの方で万人斬りディルフォード様ですね」
ディルフォードは特に答えなかったが話を続けた。
「私に何か用か?」
「いえいえ、ただ向かう道が同じだけですわ――」
と、ララーナがさらに説明すると、ディルフォードは話をした。
「なるほど、ということはつまり、次はあんたとは味方同士ということになるわけか――」
それに対し、ララーナは嬉しそうに言った。
「そうなのですね! 嬉しいですわ、あなたのような素敵なお方と徒党を組めるだなんて、まさに夢のよう――」
どういうことだ……ディルフォードはこけそうになった。
「ディルフォード様はプリズム族という種族をご存じですか?」
話に付き合うのも面倒だったディルフォードだが、彼女の話をとりあえず聞いていた。
「つまりはラミア族に似た精霊の種族がいるってことだな。
女ばかりの種族だということだが――それで種族繁栄は成立するのか?」
すると、彼女はぞっとするようなことを言った。
「ええ、そのラミア族に似た能力を以て他種族の男を虜にして種族繁栄を行うのですよ。
特にあなたのような素敵な方と添い遂げられるのでしたら、私も嬉しいですわ――」
ディルフォードは身構えたが、ララーナはにっこりとしていた。
「うふふっ、冗談ですわ。
私個人としては今のところ、それは間に合っていますので、そんな怖いお顔をなさらないでくださいな」
怖い女だ――ディルフォードは当時はそう思っていた。
だがしかし、プリズム族の恐怖は再び訪れることとなる。
それはエレイアの件だった、セイバルはその力を用いてエレイアを改造した。
とはいえ、セイバルとしては残念なことに、エレイアの乙女心が抵抗していたため、
ディルフォードに恐怖を植え付けるまでには至らなかった。
しかし――そのあとにプリズム族の恐怖の中でも、恐らく最上級と言えるような恐怖が彼に襲い掛かったのだ――
「あっ、イケメンさん♪」
初見ではどこからどう見ても男受けしそうな美女、まさにプリズム族である。
あの時のララーナともイメージが似たような素敵な美女である――が、しかし……
「えへへっ、捕まえたー♪」
「なっ、何のつもりだ! 離せ!」
「ヤダ。絶対にヤダ。せっかくだから、この私と一緒にイイコトしーましょ♪」
断固拒否しようと必死になって逃げようとしているディルフォードだったが……
「いいから! アンタはこれからアタシと一緒にイイコトするんだよ!
だから四の五の言わずにアタシの言うことを素直に聞けばいいんだよ! このイケメン男!」
と、彼女の殴りで気絶したディルフォード、次に気が付けば――
「うふっ♥ さあディル、あーんして♥」
「なっ、なんのつもりだ!?」
「あーんっつったら素直に口開けりゃあいいんだよ!」
彼女は無理やり口の中にスプーンを突っ込んだり、
「うふっ♥ ねえディル、私と一緒に寝ましょ♥」
で、嫌な顔をした途端――
「あん? この私が一緒に寝ようって言ってやってんのがそんなに気に入らねえってか!?
つべこべ言わず、この私と夜を共にすりゃあいいんだよ! このイケメン男が!」
と、理不尽な怒り方をするし――
「昨夜はよく眠れたかしら? まさか、この私に抱かれてダメとか言わないだろうな。」
彼女の豊満なバストの中で目を覚ました折にも――
「いえ、言いません。おかげさまでよく眠れました――」
と、恐怖から回避したハズなのに――
「何を寝ぼけているのよ? プリズム女の巨乳に抱かれながら寝られてとってもいい思いをしたって言えばそれでいいんだよ!」
「はい! そうです! 貴重な体験をどうもありがとうございました! おかげさまでとても嬉しかったです!」
「あらん♥ ありがと、ディル♥ だからと言ってキスとかしねーからな。」
「ああ、そうですか。いえ、全然差支えありませんが――」
「はあ? 私とキスできて残念ってか!?」
「いえ! あなたとキスできなくてとても残念です!」
あの時の彼女とのセッション以来、彼はあれ以上の恐怖を味わったことはなかった。