舞台はシェトランドの島からいきなりオウルの里へと移動することに。
ティルア軍は彼らのために船を出し、ルシルメアの西から上陸した。
そして、そのままオウルの里へと直行すると――
「いよう! 戻ったぜ!」
ワイズリアはそう言うと、そこへとある御仁が――
「ご無沙汰しています、ワイズリア――」
それに反応したのがララーナだった。
「あら、あなたあの時の――」
相手も彼女に反応した。
「おや、もしかしてあなたは”白薔薇のララーナ”さんでは!?」
そう言われたララーナはにっこりとしていた。
「お久しぶりですね、ディルフォードさん――いえ、今はディスティア様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか」
そう、そいつはかつては万人斬りと呼ばれたことのある男、ディルフォードこと、ディスティアだった。
「んだお前、戻っていたのか。
というか、この姉ちゃんと知り合いなのか?」
ワイズリアはそう聞くと、ディスティアは軽く頷いた。
「ところで、エレイアの姿が見えねえようだが、どうしたんだ?」
すると、ディスティアの後ろから、その彼女の姿が――
「オヤジー! お久しぶりー!」
と、ディスティアとなんだかとても仲よさそうな感じだった、それを身ながらララーナはにっこりとしていた。
随分前――
「そろそろ停戦協定の鐘が鳴る頃だろうが――」
ディルフォードはイールアーズと共に戦地へと繰り出されていた。クライアントの指示に従い、
それまで敵軍と戦い続けるのが彼らの仕事である。
「ディル! そっちに敵がいったぞ! ぬかるんじゃない!」
と、イールアーズが促した。それに対してディルフォード――
「どこだ?」
イールアーズは返した。
「来てないのか? ということは、こっちのルートでなくて向こうのほうか。
後々面倒だから今のうちに始末をつけるぞ」
そう言ってイールアーズは向かおうとすると、ディルフォードは呆れ気味に言った。
「やれやれ、次から次へと――」
すると、ディルフォードは走って向かう途中で思い立ち、いきなりスローダウンした。
「ディル! お前、何してやがる! 早くいくぞ!」
だが、ディルフォードは聞かなかった。
「ああ、そう思ったがやっぱりやめた」
「何故だ? いいから言ってないで行くぞ!」
ディルフォードはため息をつきながら言った。
「お前、ほかの誰かに先を越されるのが嫌なだけだろ?」
そっ、そんなことは……! と言いたいところだが、イールアーズとしてはそれは図星だった。
そんなこと言えないのでなんとか繕って言おうとするイールアーズだが、ディルフォードは冷静に言った。
「お前のその慌てぶりを見れば何があったのかは大体見当がつく。
それに、お前と同じようにいてもおかしくないヤツが来ていないということは――つまりはそういうことだな?」
そいつは”砲鬼のグリアス”のことである、彼らと同じような”砲鬼”の名を冠する使い手である。
シェトランド人としてもそれなりに認識をしているほどの使い手でもあり、時には味方だが時には敵と、
その手でどれだけの同胞がやられたことか。
とはいえ、お互いに傭兵であり、戦争での出来事。
それに、向こうだってシェトランド人に――ディルフォードやイールアーズの手で仲間を殺されている、
つまりはどっちもどっちなのである。
だが――どうやら、そのグリアスは破れてしまったようだ。
「ヤツを殺すのは俺だった! だが、ヤツは、あの場でやられてしまったのだ! ほかのヤツに!」
イールアーズは訴えるように言うと、ディルフォードは聞いた。
「なるほど、だが、確かに”砲鬼のグリアス”を殺れるやつなどというと相当の使い手ということだな。
一体どんなやつだ?」
それに対し、イールアーズは興奮するように言った。
「ああ、変な被り物をした女だ、それは間違いない!」
と、イールアーズは言うが、話を聞いたディルフォードは一行に向かうペースを上げようとしない。
「ディル! 何をぐずぐずしているんだ、急ぐぞ!」
それでもディルフォードは断った。何故だ、イールアーズが聞くと、ディルフォードはため息をつきながら言った。
「純粋に面倒だからだ。
その面倒の理由の1つに、向こうにいる連中のことが挙げられる……」
どういうことだ? イールアーズが聞くと、ディルフォードが言った。
「忘れたか? あっちは”炎帝のベラッサム”とやらの持ち場だ、作戦に入る前からお前がケンカしていたあいつのことだ」
俺はあんな奴とケンカなんかしない、イールアーズはそう言うが、どこからどう見てもケンカだった。
しかも――
「正直なところ、私もあいつのことが嫌いだ、シェトランドどころか、ほかの全員を見下すようなあの態度が気に入らない。
とはいえ、作戦上で直接手を下すわけにもいかんからな、あの場は我慢したが――」
ディルフォードは続けた。
「だが、私としてはベラッサムの腕など、グリアスとは比べ物にならんレベルだと思っている。
つまり、その女がグリアスを破っているというのであれば、ベラッサムなど取るに足らんということだ。
無論、それでも一応ベラッサムは契約上は味方であるかもしれんが、
やつははっきりと”お前らのようなやつらの腕を借りるほど落ちぶれちゃいない”と言っているあたり、
余程自信があるのだろうととらえることができる。
つまり、グリアスを敗れる敵相手に秘策があると受け止められるわけだから手出しは不要と考えるのが正解だろう」
それに、もうじき停戦の鐘がなる頃、ここからベラッサム1人が破られたぐらいで問題はないだろうと、ディルフォードは付け加えた。
それに対し、イールアーズはなんだか複雑な心境だった。
「お前は何でもかんでも自分でやりたがるからな。
だが、そうは言いながらもペアでの行動を順守してくれるというその姿勢は評価に値するところだな」
「だ、黙れ! これはリオーンの野郎の指示だからな! そうじゃなければお前なんかすでに置いて行ってるところだ!」
そんな素直じゃないイールアーズに対してディルフォードは感心していた、反抗期の子供か。
だが、ベラッサムと対峙していた女はとんでもない女だったことが発覚――
「なっ、なんだあの女は!?」
イールアーズはその女の猛攻を目の当たりにしていた。
「ベラッサムが圧されている!? いくらなんでもあのベラッサムにしては圧されすぎだが――
なあイール、グリアスと戦っていた時、どんな状況だったのだ!?」
ディルフォードは焦って聞くと、イールアーズは最期にグリアスがトドメを刺された時しか見ていなかったため、
全容まではわからなかったようだ。
「くっ、マズイな、どうやら敵は相当の手練れのようだ、
この際ベラッサムはどうでもいいが、最悪、俺らのベースキャンプまで攻め入られるぞ!」
と、イールアーズは言うと、ディルフォードはそれを遮った。
「待てっ! あの女、まさか――」
すると、停戦協定の鐘が辺りに鳴り響いた――