4人はティルア軍のボートに揺られながらシェトランドの島へと向かっていた。
「なんだか、無理を言ったみたいですみませんね――」
ララーナは申し訳なさそうに言うと、操舵士のバフィンスは答えた。
「気にすんな、行くって決めたんだからな。
それに、ちょうどいい機会だ、この際だからリオーンのやつにもビシっと言ってやるぜ」
何を言うつもりなのだろう。
「私、実はシェトランド島初めてなんだよね」
「私も。どんなとこなんだろ――」
ウィーニアとアローナは次第に近づいているその島を見ながらそう言うと、バフィンスは答えた。
「島の中心部は集落があるんだが、それ以外は何もない殺風景な場所だぞ。
外の連中をぶっ飛ばして外貨を獲得しつつ、自給自足の生活をしている連中だ。
セイバルがより本格的にシェトランドに喧嘩吹っ掛けてこなけりゃそれだけの種族で収まったんだがなぁ――」
そう言えば、そのシェトランドのリオーンはグレート・グランドの主というのが気になったララーナは訊いた。
「リオーンさんがグレート・グランドの主をやっているというのはどういう意図なのでしょう?
シェトランドは他種族とはかかわりを避けたい種族、
だからシェトランドと他の民との親交を避けるために国の権限を使ってそれを行っていると、
それはよくわかったのですが、それだけなのでしょうか?」
バフィンスは頬杖を突きながら答えた。
「まあな、それだけじゃねぇんだけどな。
王様っていうだけあるからな、表現は正しくねえかもしんねえが、つまりは純粋な世襲制っていうだけだ。
昔はシェトランド人による王として絶対王制を敷いた時代もあったようだがな、
今じゃあ城も王族もただのシンボルに収まっちまってて、
ただのシェトランド人との壁を作るだけの役目でしかねえんだわ」
グレート・グランドの主は昔からシェトランド人がやっていたのか、ララーナはそう思った。
「言ってもあのリオーンのことだからな、王族っていうのは表向きで、
実際にはシェトランドの一員、性格から行動原理まで何から何までシェトランド人そのものだ。
さっき、セイバルへの侵攻を抑えに行ったってのも、基本的には誰かに抑えたほうがいいって説得されただけに決まってる」
「やっぱりそっか、あのリオーンにしては珍しい行動だと思った」
「ホント、リオーンだったら絶対にそんなことするハズがないもの!」
と、ウィーニアとアローナが言うと、ララーナは苦笑いで誤魔化していた。
「てことはつまり、侵攻を抑えに行くていうのは口実で、実際にはお酒を飲みに行っただけってワケね」
と、アローナが言った。どういうことかララーナが訊くと、ウィーニアが意地悪そうに言った。
「シェトランドの文化はまさに喧嘩とお酒が華っていう文化ってこと。
やったらやり返す、それができなければお酒を飲んで嫌なことは全部忘れましょうっていうのがあの人たちの行動原理なのよ、
まったく、まるでどっかの誰かさんみたいよね、バフィンス♪」
バフィンスは得意げに言い放った。
「はぁ? あたりめーだろうが! 昔から言うだろ? 酒は百薬の長ってよぉ!」
だが、ウィーニアとアローナは呆れており、ララーナはやはり苦笑いしていた。
シェトランドの島に到着し、集落へと赴くと、そこにはリオーンたちが既に”できあがって”いる光景が広がっていた。
「島に異種族が来ているっていうのに誰も出てこないだなんて――」
アローナはため息をつきながらそう言い、ウィーニアは頭を抱えていた。
「だからむしろ入りやすくもあるってワケだ。なあ、リオン!」
バフィンスがそう言うと、家の軒先でいい気分になっているオヤジが反応し、
バフィンスの前まで怒り調子でやってきた。
「はぁ!? バフィンス!? テメー、何しにきやがった!?
こいつはシェトランドの問題だから来るなって言っただろーがよ!」
それに対してバフィンスは呆れ気味に「ほらな、言っただろ?」と漏らしていた。
その様子に対し、リオーンはにらめつけながら言った。
「あん? んだあ? ってか――そっちの嬢ちゃんは見ねえ面だな……」
と、ララーナに向ってそう言うと、バフィンスが言った。
「ああ、そちらのおねーさまは”白薔薇のララーナ”ってんだ、聞いたことあんだろ?」
白薔薇のララーナ、だと……? リオーンは難しい顔をしながらそう言うが、それ以上の反応はなかった。
「あーぁ、何を言ってもダメそうだなこりゃあ、完全に酔っぱらってら♪」
と、バフィンスが言うと、リオーンはキレながら言った。
「あんだとテメェ! この俺が水なんか呑んで酔っ払うとでも思ってんのか! 表に出ろやゴルァ!」
つーか、そもそもその表での出来事である。
どうやらこれ以上はどうにもならなそうだと判断したバフィンス、ララーナに耳打ちした。
「こうなったら実力行使するしかないぜ。だからあんたのお得意の能力を使ってくれや」
それに対し、ララーナは困惑していた。
「いっ、いえ、そんな、こんなところで使えませんよ――」
それに対し、バフィンスは念押しに言った。
「ああ、違う違う、そうじゃない。
むしろ多分、その手の技を使ってもこういうヤツには効果も怪しいところだ。
つまりは――わかるだろ? ヤツは酒が好きだ、もちろん、俺もな。
俺も同じことされたらべらべらとなんでもしゃべるぜ!」
と、意地悪そうに言い残すと、シェトランドの一団に混ざっていこうとしていた。
「ちょっ、ちょっと! 何考えてんのよ、バフィンス!」
ウィーニアが慌てながらそう言うと、バフィンスは得意げに言った。
「はぁ? 何って、こんな楽しそうに酒飲んでる光景見せられて黙っていられるわけねえだろ?
俺にも飲ませろや!」
そう言いつつ、シェトランドの民に交じって楽しそうに酒を飲み始めた。
ビシっと言ってやるつもりだとか言っていたクセに――
その光景に呆れていたウィーニアとアローナ、この先、どうしたらいいんだろうか――
「あんだよ姉ちゃんたち、ここは余所者が来るところじゃねえんだ、さっさと帰りな」
リオーンはそう言うと、元の場所へと戻ろうとしていた。
すると、そこへララーナが――
「あの、すみません、セイバルについてお聞きしたいことが――」
それに対してリオーン――
「だから、俺たちの問題に首を突っ込もうとすんじゃねえって言ってんだろ。
何が訊きてえんだか知らねえがお呼びじゃねえんだよ、さっさと消え失せろ――」
ものすごい圧をかけながらリオーンはそう言った。
「そ、そんな、ここまで来て、どうすればいいのかしら――」
アローナは茫然としていると、ウィーニアは閃いた。
「そうだ、イイコトを思いついた♪ お母様、能力を使えばいいのよ♪」
えっ、能力って、それは使いたくないって言ったのに――そう言うと、ウィーニアは目配せしながら言った。
「ねっ♪ まさに女の特権じゃないの♪」
話を訊いてララーナは納得した。
「なるほど! 確かに、そういう人いますね♪」
「でしょでしょ♪ バフィンスにいつもやってんだけど、それやると何でもすぐにやってくれるのよ♪」
「そうそう♪ ホント、単純なんだから♪」
ララーナ、ウィーニア、アローナの3人はなんだか楽しそうだった。
そして、ララーナは改めてリオーンに迫っていた。
「話すことは何もねえぞ。
何を企んでいるのか知らねえが俺たちの問題だ、
どうしてもってんなら容赦しねえぞ、ケガしねえうちにさっさとけぇんな」