3人は事務所へ入るとララーナは話をした。
ウィーニアとアローナはやっぱり彼女の市女笠を被りっこして楽しんでいた。
「ところで、セイバルの件について、何かお詳しいことはわかりますか?」
それについてウィーニアが答えた。
「リリア姉様に先ほど言われてララーナお母様のために調べておきました!
少し前にエレイアを利用してデュロンド国を進撃した勢力ですね。
もちろん、ルイゼシアさんの行方も今も追っている状況です」
ララーナはさらに訊いた。
「エレイアですか、例の彼女ですね。
それからルイゼシアさん、と言いましたか――」
アローナが答えた。
「ルイゼシアのことについてはあんまりわからないのよね。
わかっているのは、あのリオーン、バルティオスの城主の娘であることと、
ルイゼシアの、シェトランド人の心臓である”核”というのがセイバルにとって誘拐するに足るほどのものだったって言うこと、
それぐらいよ」
それに対してララーナは考えながら言った。
「ルイゼシアさんについてもリリアから聞いた通りですね。
ということは――シェトランド人にとっては彼女の奪取が目的ということですか――」
すると、そこへバフィンスが事務所へと入ってきて言った。
「なんだか面倒なことになってきやがったな、シェトランドの問題はシェトランドが解決ってか。
まあ、昔からそうだったからそりゃそうだもんな――」
だが、彼はララーナの姿を見るや否や驚いた。
「うぉっ!? あんた、クラウディアスに行ったんじゃなかったか!?」
ウィーニアが答えた。
「ええ、でもそのままこちらに帰ってきたんですって」
バフィンスは頭を掻きながら言った。
「なんだかなぁ、プリズム族ってば閉鎖的な種族だってのにお忙しいことだな……。
閉鎖的な種族といえば――シェトランドもだな」
それに対してすかさずララーナは訊いた。
「閉鎖的……シェトランドの問題はシェトランドが解決ですか?」
バフィンスは態度を改めて言った。
「ん? ああ、おうよ。
シェトランドってのは自分たちの問題は自分たちで解決するってのが昔からの習わしだってなもんよ。
まあ、その点はあんたたちとはちょっと毛色が違うにしても、大体似たようなところがあるんだよな」
毛色が違うというのは純粋にプリズム族という種族自体があまりよく知られておらず、
独自の文化・独特な考え方を持ち、ひっそりと暮らしている存在なだけである。
だがしかし、シェトランドは違い、外の世界に出でて、自らの存在感を示している点で違っている。
バフィンスは続けた。
「まあ、あんたらプリズム族は思慮深く、自ら身を引くことを知る種族だからな。
対し、あいつらは違う。
あいつらは血の気が濃く、喧嘩っ早い種族だ、だから、やられたらやり返すという連中だ。
言い換えればそれだけ仲間思いだって見方もできるが――」
それに対してララーナは言った。
「まあ、そんなことありませんわ。私共の狙いは常にエモノただ一つ。
エモノを狙うためならどんな手段をも厭いませんわ」
だが、バフィンスは軽く言い返した。
「アンタみたいな美女のエモノになれるんだったらさぞ幸せだろうな。
まあ、そんなリップサービス的なものはよしとして話は戻すが、
あんたもセイバルを狙っているのか?」
まさに年の功、どこかの男とはリアクションが違うのが特徴である。
バフィンスは話を訊いていた。そんな中、アローナは気になっていたことを訊いた。
「あのさ、ベスタ・ポートに行ったんじゃなかったの?」
バフィンスは答えた。
「ん? 俺か? ああ、行ったんだけどな。
でも、リオーンのヤツはいねえし、説明会にも出ねえって言うもんだから、
あの場はクラフォードに任せることにしたってワケだ。
リオーンは多分”島”にいるハズだ、セイバルに対して攻撃を仕掛けるって機運が上がっているみたいで、
そいつをなんとか抑えている最中らしいぞ」
”島”というのはもちろんシェトランド人が住まう本島のことである。
「セイバルを攻めるのですか?」
ララーナはそう聞くとバフィンスが答えた。
「言ったろ? やったらやり返す、つまりはそういうこった。
以前にエレイアってシェトランドのねーちゃん使ってひでえことしたっていうじゃねえか、
あの一件以来、シェトランドが活発化し始めている。
つってもだ、あの一件でセイバル本体に大打撃を与えられたわけじゃないし、
ここで事を起こそうもんなら連中の思うつぼだ、それを察してリオーンは連中をなだめているってワケだ」
バフィンスはさらに言った。
「まあ、そんな連中をまとめ上げているリオーンだが、やつもバカじゃねえ、
自分だけで連中を抑えるのは無理だってことは重々承知している。
だから水面下では探りを入れていて、それ次第でどう動くか悩んでいるところだろうよ」
そこへ、ララーナは本題を切り出した。
「シェトランドについてはわかりました。
では、セイバルがプリズム族に対して何かしているという話は何か情報がありますか?」
それに対し、バフィンスはため息をつきつつ、言った。
「そうか、なんでプリズム族の長であるあんたがわざわざこんなところまで来ているのかと思えば、
例のエレイアのねーちゃんの一件だったのか」
ララーナはどこぞの女神様張りににっこりとしていた。
ララーナはさらに話を続けた。
「私はプリズム族の長である以前に”白薔薇のララーナ”です、
つまり、もともと一族のはぐれ者でもありますので、掟に縛られて生きているというわけでもありません。
ですが、同族を、世界を脅かそうとする魔女として成立させようものなら、その時は容赦いたしません。
私がここにいるのは、むしろそういう理由ですね」
白薔薇のララーナは一族のはぐれ者、その話は昔にも聞いたことがあったバフィンス、
プリズム族について教えてもらったのもその時だった。
最初に彼女らのことを訊いた時はぞっとしたもんだが、
ララーナの人となりを知るや、プリズム族をそんなに警戒することもなくなったという。
しかし、バフィンスは悩んでいた。
「まあ、わからんでもないけどな、アンタの気持ちは。
だが――シェトランドが関わっている以上はやめておいたほうがいいぞ」
と、彼女を止めるように言った。だが――
「ちょっと、バフィンス! こんな美人のおねーさんがこう言っているんだからさ、
力になってあげようとは思わないの!? 昔一緒に戦った仲間でもあるんでしょ!?」
と、ウィーニアは怒り気味に言った。それに追随するアローナ。
「そうよそうよ! こういう時こそ助けてあげるのが筋ってもんでしょ! 違う!?」
そ、そうはいっても――バフィンスは葛藤していた。
だが、2人の女性の圧に押され、バフィンスはあえなく降参した。
「わあったよ! なんとかすりゃあいいんだろうが! なんとかすりゃあよう!」
ララーナはやっぱりどこぞの女神様張りににっこりとしていた。