ラブリズの里、ララーナとアリエーラが持っているプリズム族の里のイメージと言えば、
彼女らは魔性の存在、自らの魔性の気を封じ込めるため、俗世から隔絶された密かな生活を送っているのがプリズム族のイメージだった。
そのため、ラブリズの里のような集落を形成し、そこを妖魔の森へと変貌させ、外の世界の者とは極力関わらずに生活をするのが常である。
とはいえ、基本的に女性のみで構成されている種族のため、時折エモノを、他種族のオスを獲得するため、
自らの持つ魔性の気を利用して妖魔の森へと迷い込ませ、エモノを虜にするということをやってのける種族という面もある。
「ですが、ラブリズは違いました。
ラブリズの里は妖魔の森などではなく、平然と外の世界の者がやってこれるような集落でした」
アリエーラはララーナの話を訊いて驚いていた。
「でも、ラブリズの里は妖魔の森になっているようですが――」
ララーナは答えた。
「ええ、ラブリズの里を妖魔の森にしたのは私です。
私があの里に来て、里のために妖術のフィールド・バリアを展開したことで初めてラブリズは妖魔の森となったのです。
彼女らの持つ力で妖術のフィールド・バリアを展開しても効果が弱かったのです」
今ではラブリズのしろゆめの泉、つまり聖地にララーナの力が加わったことで妖術のフィールド・バリアが展開されているのだという。
「それによって私はラブリズの番人となりました」
プリズム・ロードを志した者は将来プリズム族の行ける伝説となり、里の番人や長といった存在にはならず、
隠居するのが普通、それこそ、外の世界で平然と暮らす者もいるほどであるが、
ララーナのように里の番人や長といった存在になるのはイレギュラーなことなのである。
「どこからともなくやってきて”白薔薇のララーナ”と呼ばれるようになった私、
ラブリズの里にいる彼女らにはないプリズム族の能力を持ち、まさに里の守り手となり、
今度は長になるように勧められました。」
それでララーナは長になっているのか、アリエーラは納得した。
「まさしくプリズム族の力を持ったお母様だからこそ、みんなに頼られたのですね!」
アリエーラは嬉しそうにそう言うと、ララーナも嬉しそうに話を続けた。
「ええ、どうやらそのようですね。
ともかく、彼女らの持つ魔性の気配では世界に悪影響を及ぼすほどのものはありません。
それで――ここはみなさん人がいいですし、クラウディアスはどうかと思って視察を兼ねてやってきたのですよ」
なるほど、そういうことか、アリエーラは改めて納得していた。だが、訊きたいことがあったので訊くことにした。
「ですが、全員が全員というわけにはいきませんからね、例えば魔物――」
プリズム族には理性のある者と理性のない魔物がいる。
魔物であればエモノを発見するや否や、本能のままに襲い掛かり、自らの虜にしようとするわけだが――
「確かに、それだけが心残りですね、プリズム族が移住するうえでどうしても避けられない問題の一つとなります。
もっとも、ラブリズの魔物の個体数は少ないのでその点だけが救いとは言えますが」
そう言われてアリエーラは思い出した。
「確かに、言われてみればそうでした。
リリアさんによれば確か、理性のない者が生まれるのは魔性の気配が強いがためのことだから、
魔性の気配の薄いラブリズのプリズム族からは魔物は生まれる可能性がないってことだったかな――」
ララーナは頷いた。
「そのようですね。
ですから、その点で警戒すべきは私とシェルシェルとあの子のみ、いずれも他所から来た正体不明のプリズム族3人だけということになります。
とはいえ、私はもちろん、私から産まれたシェルシェルもあのような子ですし、もう一人の子も含めて気にするほどのことではないかもしれませんね」
数日が経ち、ララーナはしばらくしたのちに本来やりたかったことをするためにティルアへ一旦戻ることを考えていたが、
しばらくクラウディアスの光景を塔の上から眺めていた。
すると――
「あら? まさか、ララーナ様ですか!?」
それは、以前にラブリズの里へとやってきたフラウディアだった。
彼女の声のするほうを向くと、そこにはリリアリスやフロレンティーナにラミキュリア、そして、ユーシェリアとシェルシェルもいた。
男性陣ではヒュウガとティレックスが同行していた。
「あら、みなさん、お久しぶりですね」
リリアリスが言った。
「お母様のほうこそ、珍しいんじゃないの? ルシルメアからどうやって来たの?」
ララーナは答えた。
「シャディアスさんに頼み、ティルアの皆さんにお願いして連れきてもらったのですよ」
シャディアス――リリアリスは得意げに答えた。
「なーるほど、あいつ、女の子にすこぶる弱いからね!」
「うふふっ、チョロイもんですわ♪」
ララーナも得意げになって答えていた。
そんな中、塔の上にいるもう一人の存在がいた。
「あれ? なんだろ、お客さんかな?」
その男が駆け寄ってくると、ティレックスが気が付いた。
「あっ、スレアじゃないか、ここにいたのか」
スレアはそれに反応した。彼はアリエーラと入れ違いに来たのである。
「ティレックスじゃないか、久しぶりだな。リベルニアの一件以来か?」
多分それぐらいだったハズ、ティレックスはそう思った。スレアはさらに続けた。
「見ない顔がいるようだけど、そちらは?」
それに対し、初見3人組は並んでそれぞれあいさつした。すると――
「何っ!? フラウディアだって!?」
スレアは剣を構え、フラウディアに突然切りかかった!
「お前、どういうつもりだ、お前はディスタード本土軍の回し者だろ!?」
フラウディアはスレアの剣を剣で受けていた。
「いいえ! 私は目が覚めたの! もうディスタード本土軍なんかに未練はない!
私は私のままを生きる! もう誰にも縛られない!」
「お前の言葉なんかに騙されるものか!
お前は一つの国を、リオメイラの国を滅ぼした!
夢魔妖女フラウディアと呼ばれた魔性の存在!」
「やめて!」
フラウディアは泣きながらそう叫んだ。