そのうち、アリエーラら一団がクラウディアス城へとやってきた。
「あら? もしかして、お母様ですか!?」
アリエーラはお城の5階のいつものテラスでくつろいでいるララーナに対してそう言った。
「ええ、久しぶりですね、アリエーラ」
「やっぱり! いつもと少しイメージが違うのでびっくりしてしまいました!」
そんなこんなでお互いに話をし始めることとなった。
「それより、今までどちらに?」
ララーナの問いにアリエーラは答えた。
「はい、実はアルディアスにいました。
ガレア軍排斥に伴ってディスタード本土軍が動き出したので、アルディアスのほうへお手伝いに行っていたんですよ。
そしてついでにマダム・ダルジャン……リリアさんが船を使うというのでアルディアスにおいてきました。
帰りはティルアの人たちが来たので送ってもらったんですよ。」
言われてみればティルアの一団は自分をクラウディアスに送った後に慌ただしくどこかへ行っていたことを思い出していたララーナ、
そんなことがあったのかと考えていた。
そんな中、とある存在が物陰からじっとララーナのことを見つめていた、それは――
「あら、カスミさん、どうしたのです?」
アリエーラがそう言うと、ララーナは彼女のほうへと向き直った。すると――
「まあ! あの子がリリアの言っていた噂の癒しモンスターという子なのですね!
確かに、とても可愛らしい子ですね♪」
そう言われたカスミ、少々照れながらもララーナのほうへとやってきた。そして――
「へえ、クラウディアスの強力な守り手にしてクラウディアスご自慢の召喚獣様ですか、
それにしても可愛らしい方ですね――」
そして、ララーナはおもむろにカスミのほうへと近づくと、彼女を抱きかかえ上げた。
「うふふっ、リリアによると、こうやってあげると喜ぶといっていましたね――」
ララーナは優しいまなざしで彼女を抱き、そのまま頭をなでていた。それに対してカスミ――
「こっ、これぞまさしく至高の抱っこ! 秒で寝る――」
そんなことをぼそぼそと言いながら即行で眠りについていた。
「あらあら、眠ってしまいましたね。でも、本当に可愛らしい子ですね――」
ララーナも嬉しそうだった。
確かに癒しモンスター、プリズム族の長でさえも彼女の持つポテンシャルにはかなわず、とても嬉しそうだった。
「ふふっ、本当にカスミさんったら、可愛らしいですからねえ――」
アリエーラもララーナとカスミの様子を見ながらにこにこしながらそう呟いていた。
それから数時間後、ララーナはクラウディアスのお城の塔の屋上へとあがり、クラウディアス全体を眺めていた。
彼女の背後にはアリエーラが付き添っていた。
「本当に、いい国ですね、ここは――」
ララーナは考えながらそう言うと、アリエーラは訊いた。
「そういえば、ララーナお母様がいらっしゃるだなんて珍しいことではないですか?
どうしてクラウディアスに?」
ララーナは嬉しそうに答えた。
「ちょっとした観光ですよ。
里から出た実際の目的は別にあるのですが、ここにはもののついでに立ち寄ってみただけです」
そうなのか、アリエーラはそう思うと、ララーナは話を続けた。
「というより、こちらの用事はプリズム族の新たな可能性についてどうするか考えるために来たのですよ。
ルシルメアでも私らの一族がお店を出して仕事をしていますが、ここでもできるものなのかどうか、悩んでいるところです」
そう言われてアリエーラは頷きながら言った。
「ルシルメアにお店を出すのもクラウディアスでもお店を出してみるというのもリリアさんの発案でしたね。
ルシルメアでは順調だと伺っていますが――」
ララーナはアリエーラのほうへと振り向きつつ、にっこりとしながら答えた。
「ええ、おかげさまで順調です。
中にはエモノを、男性をつかまえるよりもそちらのほうが好きだという者もあらわれるほどです。
従来のプリズム族としては失格かもしれませんが、
新しい時代を生きるプリズム族のモデルケースとしては素晴らしい見本であると、私はそう思いますね――」
なるほど、アリエーラはそう思っていた。さらにララーナは続けた。
「いずれにせよ、プリズム族は個体数も少なく、絶滅も避けられない状況であることには変わりません。
ですから、どうせ滅ぶ可能性があるというのなら、
これまでの方法ではなく新たな生き方を模索していったほうがいいと思いまして、
私は彼女らが里から出ることを奨励しているのです」
それに対してアリエーラは考えながら言った。
「ですが――プリズム族が里にこもっているのは自らの力を戒めるため、
人前に出ることを避け、自らの魔性の気を封じ込めるため、そうではありませんでしたか?
ですから、むやみやたらに外の世界に出てしまっても大丈夫なものなのでしょうか?」
すると、ララーナも考えながら言った。
「確かに、おっしゃるように、プリズム族は本来そのような種族です。
自分で言ったことを覆すようですが、少なくとも私もあなたと同じ考えで、
彼女らが安易に外の世界に出ること自体は推奨されるものではありません。
私がこうして外の世界に出れるようになったのもプリズム・ロードを志し、魔性を潜める術を体得したからこそです。
ですが、不思議なことに、ラブリズの里にいる彼女らについてはその限りではありません――」
そう言われたアリエーラは頷きながら言った。
「ラブリズのみなさんは不思議ですね、私が持っていたプリズム族のイメージとは全く違っています。
彼女らは魔性の気配がそんなに強いような感じがしません。」
「ええ、むしろ、魔性の気配だけで言えばアリエーラ、あなたのほうが上回っているほどです」
そう言われたアリエーラはひどく驚いた。
「わ、私ですか!? 私が、プリズム族以上!?」
「あなたとリリアからはプリズム族のそれを感じます。
それこそ、真正の魔女のそれを強く感じるほどのものを持っています。
ただ――それとは別の、偉大なる何かを秘めていて、
真正の魔性の気配だけが独り歩きしないような体質になっているのが不思議に思います」
自分は何者なんだろうか、改めてそう思ったアリエーラだった。
「話が脱線してしまいましたね。
そうですね、ラブリズといえば、たとえばこんなことがありました――」