エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

遥かなる旅路・天使の舞 第5部 精霊たちの反撃 第6章 動き出した魔女

第107節 クラウディアス訪問

 クラウディアスは現在戒厳令を敷いており、クラウディアス行きが軒並み欠航していたのだが、 ティルア自衛団の手引きでティルアからクラウディアスへの渡航がかなったララーナ。
「ララーナ様! ようこそいらっしゃいました! さあ、こちらへどうぞ!」
 フェラントの港にたどり着くと、先んじて連絡を受けていたレミーネアがやってきた。
「あら、わざわざ出迎えていただいて! なんだか無理を言ったみたいですみませんね」
 ララーナは市女笠を脱ぎながらそう言うと、レミーネアは嬉しそうに答えた。
「そんなことないですよ、むしろ来ていただけるだなんて嬉しいです!  ささ、そんなことよりも早くお城のほうに!」
 そう言いながら、レミーネアは彼女を馬車の中へと促した。

 フェラントの街を抜ける間に軽い話をし、そして、森を抜けると、そこは――
「これがクラウディアスですね!」
 ララーナはその景色が見えると嬉しそうにしていた。
「どうです? いい街並みでしょう! 私たちの自慢なんですよ!」
 興奮するレミーネアだが、ララーナは落ち着いたような態度で話をし始めた。
「久しぶりですね、クラウディアス。あの頃からちっとも変っていない――」
 それに対してレミーネアは少々驚き気味に訊いた。
「あれ? 以前にも?」
「ええ、ちょうどリアスティンさんがご即位された頃だったかしら、 その時が初訪問でしたね――」
 先王リアスティンが即位したのは30年ぐらい前の話だった。 ちなみに、レミーネアらがクラウディアスで保護されたのは20年ぐらい前である。
「すみません、ちっとも変っていないと言いましたが、そんなことはありませんね。 人が変わっているのはもちろんですが、以前にはなかった建物も増えているようですし。 でも、あの素敵な景色はあのまま変わっていないみたいですごく嬉しいです――」
 広い大自然の真ん中に様々な建物があり、周囲には森が大草原を囲うように存在していた。 さらに森の前には広い花畑があり、まさに、絵本のような世界がそこに広がっていた。
「一昨日は嵐だったそうですが、大丈夫なんですか?」
 メルヘンチックな建物だらけで強度が心配だったララーナは、 天気が良くなかった一昨日のことを心配しながら訊いた。 一応、建物を見ている分にはその心配はなさそうだが――
「はい! 実際、見た目はちょっと不安に見えるかもですが、中の方はそんなに心配するほどではないんですよ♪」
 そうか、そう言うのなら安心そうである。

 メルヘンの真骨頂であるお城へと赴くと、今度はレミーネアによく似た女性が玉座の前で佇んでいた。
「まあ! つまり、あなたが女王様なのね!? 素敵な女王様ですこと!」
 そう言われた女王エミーリアは照れていた。
「やっ、やめてください、女王様だなんて――。 でも、すごく嬉しいです! ありがとうございます!」
 ララーナは考えた。
「なるほどです、もしかしたら失礼かもしれませんが、 確かに、”姫様”のほうがしっくりとくる感じですね、リリアリスが言ってました」
 すると、エミーリアは嬉しそうに駆け寄ってきた。
「はい! えっと、あなたがララーナお母様ですね!  リリアリスお姉様が言ってました! まるでお母様みたいな人だって!  本当に素敵な方です!」
 そう言われたララーナは少々照れくさそうにしていた。
「やっ、やめてくださいな、お姫様ったら――」
 しかし、そのお姫様は――
「わぁー! 本当にフワフワだぁ♪」
 ララーナの胸に思いっきり飛び込んで楽しんでいた。
「ちょっと! エミーリア! 初対面の人に失礼でしょ!」
 エミーリアに対してレミーネアが一喝、しかし、ララーナは幼子をあやすかのように振舞っていた。
「あらあら、まったく、仕方がない子ね――」
 ララーナはエミーリアの頭をなでていた。
「ちょっとすみません、これを持っていてくださる?」
 ララーナはそう言いながらレミーネアに市女笠を手渡した。
「えっ? あっ、はい、すみません、ララーナ様――」
「いえいえ、ララーナで結構ですよ。それにこれぐらいのことなら、いくらでも構いませんよ」
 すると、レミーネアも調子よく言った。
「あっ、じゃあみんなに合わせてララーナお母様で!  ねえお母様、この帽子、素敵な帽子ですね! こんな帽子、初めて見ました!」
 ララーナは楽しそうに答えた。
「ええ、私のお気に入りなんですよ♪  それは菅笠と呼ばれる被り物でして、その垂れ布が付いているものは特に市女笠というものなんだそうですよ」
 するとレミーネア、その笠をかぶろうとしていた。 垂れ布がうまくいかないのでいろいろとやっていたが、ララーナは彼女の頭にしっかりと収まるように手を出していた。
「わあ! なんだか素敵な被り物! なんか清楚な女性に見えそうですね!」
 レミーネアはその場で嬉しそうにくるりとまわっていた。 実はティルアに立ち寄った時も、ウィーニアとアローナも彼女と同じように被って喜んでいたのである。 何気にみんなに人気があるようだ。
 だが、その際、レミーネアが気が付いた。
「あれ? この布って金属繊維?」
 そう言われたララーナ、何かを思い出していた。
「しかも菅笠って菅? 植物?」
 ララーナは答えた。
「ええ、リリアリスによると、乾燥させた菅を編んで作った笠なんだそうですね、本来であれば。 だけど確かに、あの子の言うように、それは全体的に金属でできている被り物のようです。 それを手に入れた時のことを思い出せればいいのですが――」
 しかもかなり頑丈な被り物、完全に兜として機能している。 ”白薔薇のララーナ”の身を守る役目としても機能していたのである。
 ララーナは話を続けた。
「あの子によると、その垂れ布の金属繊維も自分が作ったものにすごく似ているそうです。 それに、これにはとても貴重な鉱石が使われているそうで、 あの子としてもなんの変哲もないただの笠というわけでもないみたいで、とても気にしていましたね」
 レミーネアは垂れ布をつかみながら言った。
「そうそう! お姉様が着ている布にそっくり! 案外、この市女笠というものもお姉様が作ったものだったりして!」
 そうなのだろうか、ララーナは何かを考えていた。