エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

遥かなる旅路・天使の舞 第5部 精霊たちの反撃 第6章 動き出した魔女

第106節 白薔薇のララーナ

 そして、ララーナはF・F団のシャイなんとか改め、シャイズことシャディアスのもとへとやってきた。 プリズム族からの評価があまり高くないとは……ご愁傷さまです。
「これはこれは美人でおしとやかなプリズム族のお姉さんのお出ましだ!」
 シャディアスは彼女に見惚れていた。それに対し、ララーナは笑顔のまま怖いことを言った。
「お気持ちは嬉しいのですが、時と場合によってはリファリウスさんに言いつけますよ♪」
 それだけは困る、あいつは面倒だから――シャディアスは一瞬にして我に返った。
「ところで、クラウディアスへの渡航手段を提供していただけるというお話を伺ったものですから、 可能かどうか確認しにまいりました」
 ララーナはいきなり本題に入ると、シャディアスは答えた。
「えっ、クラウディアス? どうかな、タイミングが合えば行けなくもないんだが、場合によっては難儀だな――」
 難しいのか、ララーナは理由を聞こうとしたが、すぐに思いついた。
「例のガレア排斥法の影響が残っているのでしょうか?」
 シャディアスは頷いた。
「お姉さん、プリズム族なのによく知ってんなあ。ってか、あんたの顔、どこかで見覚えが――」
 それはやはりシェルシェルだろうか、彼女はシェルシェルの母親なのである、面影があるのだろう。
「そうですか、難しそうですね――」
 ララーナはそう言いながら立ち上がると、シャディアスは慌てて話をした。
「ああ! 待ってください! やろうと思えばできなくはありません!  しかしその場合、グレート・グランドを経由していくことになりますが!」
 グレート・グランド……ララーナはそう言われて考えていた。
「グレート・グランドといえばバルティオス、バルティオスとくればシェトランド人というのがいましたね」
 シャディアスはすかさず調子よく答えた。
「はい! バルティオスの主はシェトランドの長です!」
 シェトランドといえばそういえば――ララーナは決意した。
「でしたら、グレート・グランドへ行く手段を教えてくださらないかしら?」
 お姉様のためなら何なりと!  自ら進んで勝手に彼女の下僕になったシャディアスはララーナお姉様の手足となり、 とにかく、グレート・グランドのティルアへ渡航する手段とその船賃を差し出したのであった、単純……。

 ララーナはティルアへと着くと、そのままティルア自衛団の事務所へと足を運んだ。 彼女は市女笠をかぶっており、何気にこれがかつて”白薔薇のララーナ”と呼ばれる存在のトレードマークでもあった。 服装は洋のものだが、それでも全体的にまとまっており、彼女に似合っていた。
 そして、その市女笠の女が事務所に入ってくると――
「なっ!? なんだこの女!?」
 その装いにクラフォードが構えながら言うと、
「うおっ!? マジかよ! あんたもしかして、”白薔薇のララーナ”じゃねーか!?」
 バフィンスがすぐさま反応した。 すると、ララーナは垂衣の間から顔をのぞかせて言った。
「久しぶりですね、バフィンス。 ティルアというからにはまさかと思いましたが、やはり、あなたの故郷でしたか」
 彼女の顔を見ながらクラフォードは気が付いた。
「ん? まさか、プリズム族か?」
 バフィンスが得意げに言った。
「おうよ! ”白薔薇のララーナ”はプリズム族に決まってんだろ!  もっとも、プリズム族なんてのは知らない連中のほうがはるかに多いんだが――」
 そこへウィーニアとアローナがすかさずバフィンスに嬉しそうに聞いた。
「えっ? ナニナニ? ちょっとバフィンス、この若い女の人とどういう関係なのよー♪」
「そうよそうよ♪ なんか無茶苦茶美人じゃないのよ♪ てか、その人、バフィンスの元カノにしては若すぎない?」
 バフィンスが呆れながら言った。
「あのなぁ、知らねえだろうからこの際はっきりしておくが、 プリズム族ってなぐらいだから見た目よりも歳食ってるに決まってるだろ?  それに、彼女は昔に傭兵の仕事で一緒になったことがある程度だ。 そこから別に”ろまんす”とやらは生まれてねえぞ」
 ああ、プリズム族の年齢補正か――ウィーニアとアローナはそう言って考え直しながら言った。
「そりゃそうよね、バフィンスにこんな美人の彼女ができるわけないわよねぇ♪」
「それもそうよねぇ、ごめんなさいね、ララーナさん♪」
 バフィンスはキレ気味に「やかましいわ!」言いつつ、ララーナに話を切り出した。 ララーナはただニコニコとしているだけだった。
「んなことより、あんた、今までどこでどうしてたんだ? てっきり亡くなったもんだと思ってたぜ」
 ララーナは市女笠をゆっくりと外すと、それをウィーニアがなんだか楽しそうに取り上げた。 ララーナはありがとうと言いつつ、笠を彼女に託した。
「いいえ、私はプリズム族ですから、里でひっそりと暮らしていただけですよ」
 それに対してウィーニアが言った。
「そうよ、ルシルメア大陸にある森の中に彼女たちの里があって、 そこでずっと暮らしているんだって、リリアさんから聞いたわよ」
 そう言われてクラフォードは思い出した。
「ルシルメアの東だな。 誘惑魔法に包まれたところだから男は入らんほうがいいって聞いたハズだが、 なんでリファリウスは平然と出入りしているのか不思議だ――」
 しかし、その疑問に答える者はいなかった。