エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

遥かなる旅路・天使の舞 第5部 精霊たちの反撃 第6章 動き出した魔女

第105節 里長の手段

 ラブリズの里にて――
「長、お呼びでございますか?」
 とあるプリズム族が長に呼び出された。その長とはもちろんララーナである。
「リュナ、しばらく留守にします」
 ララーナはそう言って里をリュナというプリズム族の女性に託そうとしていた。 リュナは実はラブリズの里長候補だった人物のようだが、その座をララーナに譲り渡しているようだ。
「何かあったのですか?」
 リュナはララーナにどうして外出するのかを訊いた。 ララーナはどこそかのお嬢様のようなプリズム・スタンダードな服装だが、 ボトムスは彼女らが着るような長めのスカートとは異なり、 プリズム・ロードらしくやや短めのスカートだった。 色合いとしては基本的には白系のトップスと青系や黒系の色の長いスカートが基本だが、 ララーナの服装は白系のトップスにピンクのスカートで、 花びらを模したかのような巻きスカート風のデザインだった。
「ええ、いろいろとありました。 私たちは隠れ住んでいるにもかかわらず、このエンブリアには平気で魔女というものたちが出現しているようです。 となると、流石に黙っているわけにはいきませんねぇ――」
 そういうものなのだろうか、リュナはそう聞くと、ララーナは言った。
「やはり、私はそもそも余所者ですからね、あなた方とは考え方が違うのでしょう。 ですが、その余所者があなた方まで巻き込んでしまうだなんて、とても申し訳なく思います」
 リュナは必死になって首を振りつつ応えた。
「そんなこと! ララーナ様は私たちにはない考え方をもたらし、 そして、この里を滅亡の危機から救うための策まで考えていただきました!  むしろ、ララーナ様は私たちの命の恩人ですから、ララーナ様のためならなんでもする所存でございます!  ですから、里のことは私共にお任せください!」
 ララーナはにっこりとしながら答えた。
「そう言っていただけると嬉しいですね。それでは、後は頼みましたよ――」
「はいっ! 行ってらっしゃいませ!」

 そして、ララーナは森から抜け出すと、ルシルメアの街のほうへとやってきた。 プリズム族の長をやるほどの女性とは言いながらもそこは流石のプリズム族、 見た目はどう見ても20代の若くてきれいなお姉さんであるのが彼女らの標準装備、男共の目を引くのは必至である。
 そんな中、彼女はとあるブティックへと入店していった、そう、例のプリズム族の女性たちが切り盛りしている店である。
「まあ、長! しかもその恰好は……本気モードですね!」
 ブティックの店員は驚きながらそう言った。
「ええ、アミュナ、しばらく留守にするのでそれを伝えに来ただけです。 ところでシェルシェルは見かけませんでしたか?」
 アミュナと呼ばれた女性は答えた。
「いえ、戻っていませんね。 ということはおそらく、いつものようにガレアにいるのでしょう」
 それに対してララーナが考えながら言った。
「そういえば……クラウディアスに行くと言っていましたね。 行く手段はあるのでしょうか?」
 アミュナは答えた。
「ガレアからならアール将軍様が連れてってくださると思いますよ♪」
 ララーナは悩んでいた。
「つまり、ルシルメアからは直接行く手段はない、と……それは面倒ですね、 無論、あの方に頼むこと自体は私としてもそうしたいところですが、流石に毎度となると――」
 すると、アミュナは何かひらめいた。
「そういえばシェルシェルが言ってましたね、 F・F団のシャイ……なんとかっていう普通顔の男なら何とかしてくれそうだってことを。 プリズム族でなくても普通に女の子に弱いって言ってたから二つ返事で渡航手段を出してくれそうですよ♪」
「F・F団についてはリファリウスより話は聞いています。 ですが、そんな手段があったのですね、なるほど。覚えておきます」
「でも、多分ですが、いずれにしても大回りになると思います、クラウディアスに直接行く方法がないわけですからね。 だから結局アール将軍様に頼む方が一番いいと思いますよ」
「確かに、それだったらそのほうがいいかもしれませんね。 でもまあ、それは結局帝国経由であることになりますから、そこはある程度控える必要があるんですよ」
 アミュナは頷いた。
「大丈夫だと思いますけどね、あの方ならいくらでも手段を持っていそうですから!」
 あっ、それもそうか、ララーナは考えていた。すると、アミュナはだしぬけに言った。
「長、その上からジャケットを羽織ってみてはいかがです?」
 彼女はベージュのジャケットを出しながら言うと、ララーナが嬉しそうに言った。
「あなたは外に出してからというものの、ファッションばかりに興味がいっているようですね――」
 アミュナは焦りながら言った。
「す、すみません! プリズム族の女性としてあるまじきですよね! 必ず、必ずエモノを捕えて見せますから!」
 しかし、ララーナはにっこりとしながら言った。
「いいえ、確かに、プリズム族の女性としてあるまじきかもしれませんが、 この世界に住まうものとしては当然の自由です。 願わくば、プリズム族の女性はあなたやシェルシェルみたいに掟に縛られず、 自由を謳歌する者ばかりだと嬉しいのですが――」
 しかし、自らの妖かしの血によって”魔女”というものを生み出しているのも事実、それが悩みどころである。 要は力は使う側次第、それを恐れるがあまりに森の中で引きこもっているのが掟に縛られた彼女らであり、 恐れつつもきちんと前を向いて歩いているのがアミュナやシェルシェルなのである。
「そうですね! そういうことならもうちょっとファッションの勉強をしていよっかなっと♪」
 アミュナが嬉しそうにそう言うが、ララーナの視線が気になり、慌てて繕った。
「あっ、いえいえ、もちろん、きちんとエモノを捕えることも考えますから!」
 しかし、ララーナは優しく答えた。
「そんな必要はありませんよ、プリズム族の女は異性を引き付ける香と美貌が標準装備、 何も考えずともエモノのほうから勝手にやってきます、だからそれを待てばいいだけの話ですよ」
 アミュナは再び楽しそうに言った。
「白馬の王子様方式ですね♪ 今の時代はそちらのほうが主流なんでしょうか?」
「多様化の進んだ時代ですから、エモノにもいろんな種類がいます。 ということは当然、私たちにもいろんな種類がいてもおかしくはありません。 つまり、自分を貫けばいいだけの話ですよ」
 なるほど、アミュナは頷いた。
「ああ、そうそう、ジャケットの話でしたね、そのジャケット、なかなかオシャレなのでもらっていきますね♪」
 ララーナは楽しそうにそう言うと、 アミュナも楽しそうにララーナにベージュのジャケットを着せた。
「絶対に似合いますよ♪」
「これはいいですね。これもあの子のデザインなのでしょう?」
「はい! この店の服のほとんどはリリアお姉様の作品でございます!  もちろん、戦闘向けに強度を保ってあります!」
 ……やっぱりそうか。