エリューネルは本土軍の徴兵で既定の年齢に達する前に自ら志願して帝国軍に入隊することになった、
そして、エリート街道の道をひたすら突き進もうと張り切っていたのだが、
そんな彼にも若さゆえにムチによる”しつけ”が待ち受けていた。
フラウディアと同じく、女性としての道を歩んでいたエリューネルだが、
彼女にはコンプレックスがあった、それはフラウディアと同じコンプレックスもあったが、
フラウディアが抱いたそれよりも根深いものがあった、
それは――エンチャントの技術を人間に転用した結果の姿がそれを物語っていた。
「私こそが真の美しさダ!」
エリューネルは左腕からムチのようなものを伸ばし、それをリファリウスめがけて突いた!
リファリウスがそれをよけると、
「カハハハハ! ムダムダァ!」
エリューネルは右腕にくっついている刃を振りかざし、そこからかまいたちが放たれた!
「なっ!?」
それには流石にかわしきれなかったリファリウス、
なんとかギリギリかわそうと試みたが、思いっきり被り、リファリウスの髪の毛と顔が裂けた――
リファリウスは右の頬を左手で触れ、その手を確認すると、そこには血が――
「油断大敵、やっちゃったな、意外とやるもんだね。」
なんだか余裕なリファリウス、手で当てた部位の傷は塞がっていた。
さらにエリューネルは続けざまに刃からかまいたちを連射した!
「カハハハハ! ついでにこれも凌いでみせロ!」
それに対し、リファリウスはうまく剣を使って打ち払っていた。
「やるナ! ならばこれでどうダ!」
エリューネルは渾身の力でさらにかまいたちを放ってきた!
「うっ!?」
何と、リファリウスが持っていた剣が破壊された!
「カハハハハ! トドメだ、死ねイ!」
エリューネルはさらに立て続けに同じ一撃を放ってきた!
「くっ!」
すると、リファリウスはとっさに魔法を繰り出し、その攻撃を防ぐバリアを張ると、
その攻撃を弾きながら思いっきり吹き飛ばされた!
「フン! なかなかやるようだナ!」
「――みたいだね。」
やはり余裕か。うん、でも、そういえば、こいつの得物にしては簡単に破損しているあたり、何か物足りないような――
エリューネルはフラウディアとフロレンティーナとマジェーラを前にして劣等感を抱いていた、
そう、エリューネルにはこれといった特殊な能力がないこと。
マジェーラはムチによって相手を操る能力、
そして、フラウディアとフロレンティーナは容姿も綺麗で本物の女性のごとく男からちやほやされている光景は日常茶飯事で、
その上、そんな男たちを意のままに操る能力と、エリューネルが羨むようなものだった。
しかし、その劣等感こそがネストレールらに利用される要素であり、
人体へのエンチャント技術転用など自ら進んで被検体となることも厭わず、
最終的にはエリューネルに真の美しさとして異形の存在へと変貌させるきっかけとなった。
それにより、ベイダ・ゲナより女性として生きることを認められ、エリューネルは救われたと思ったのだ。
そう、だからこそ、エリューネルは心からベイダ・ゲナを崇拝し、
この姿に固執し、真の美しさと信じてやまないのである。
「私の攻撃にここまで耐えられるやつは初めてダ!
いいだろう、そういうことならこの私の全身全霊の攻撃を受けてみロ!」
すると、エリューネルは大きく息を吸い込むと、右腕が大きく隆起し、
さらに全身から刃がむき出しになると、思いっきり右腕を振りかぶりながらリファリウスに襲い掛かってきた!
「いいだろう、そういうことならこの私の渾身の作品を受けてみろ!」
リファリウスはそう言い返した。
「はァ? 何を言ってる? 作品だと!? 訳の分からんことを抜かすナ!」
そして、その勢いのままリファリウスを思いっきり殴り飛ばした!
「リファ様ーぁ!」
ユーシェリアの悲痛な叫びが響き渡る! だが――
「大丈夫、今、キミの身体を貫いているのがその作品だ、よく味わったかな?」
リファリウスは得意げにそう言った、何と、エリューネルの身体を腕から真っ二つにしてしまっていた。
「そ、そんな、私のこの強力なボディを……この私の美しい身体を――」
エリューネルはその場で倒れ、そして、そのまま身体の中からドロドロとした謎の物体が流出していた。
「……悲しい結末だね、これもすべて、本土軍の施策が生み出した弊害なんだろう――」
リファリウスは悲しい顔をしながらそう言った。
「キミを救い損ねたことが残念でならないよ、もちろん、マジェーラもね。
だからせめて、せめて安らかに眠ってくれたら――」