「そう、私は――もう過去にもムチにも縛られない! 私は私らしく生きることを決断したの!
だからこの手で、私は――この世を脅かそうとする存在を討つ!」
ネストレールの手前、フラウディアはそう言いながら剣を取り出した。
「貴様――そうか、もはやベイダ様の意に反する存在となってしまったということか、
そうであれば貴様は反逆罪だ、その身を以て罪を償うといい!」
ネストレールはムチを振りかぶってフラウディアに襲い掛かってきた!
「このムチは貴様の”トラウマのムチ”! このムチに逆らうことはできるか!」
そう、フラウディアにとってのそのムチは、これまでの自分という存在を決定づけ、
そして、自分の考え方をコントロールしてきた代物なのである。
それに対して抗えてきた者はなかなかいない、常にムチに打たれる悪夢に襲われ、
そして、中にはムチの存在無くして生きることもできず、
すべてはムチ1つで自分の運命が左右される――フラウディアもその中の1人だった。
つまり、そのムチはフラウディアの弱みでもあり、
そのことを知るネストレールはベイダ・シスターズたちのみならず、
他の部下のムチも握っていた、まさに冷酷で非道な司令官である。
しかし、そのような部下をつけているベイダ・ゲナはそれよりもさらに冷酷で非道な将軍として有名でもあった――
「フハハハハハ! そうとも、貴様はこのムチから逃れられはしないのだ!
さあムチを味わうがいい! その身を以てこのムチの味を刻め!
ベイダ様に近づくことはかなわぬが、だがその代わり、貴様を別の使い方をしてやろう!
そして、このネストレール様の慈悲をありがたく思うんだな! フハハハハハ!」
”トラウマのムチ”の存在に縛られているフラウディア、やはりどうしても抗うことができず、
その場で背を向けてうずくまってしまった!
そんな彼女に対し、ネストレールはその勢いで何度も執拗にフラウディアにムチを浴びせた!
そんなムチをどうすれば克服できるか、フラウディアは非常に悩んでいた。
「ムチが怖いのか、確かに、自分自身を決定づけてきたものが相手となると、それはそれで辛いものがあるかもしれないね。
そういうのは私にはわからないけれども、ラミキュリアさんはどうだろうか? そういう経験って、ないよね――」
リファリウスはラミキュリアに訊いた。
「私はむしろムチで打つ側でしたからね、
打たれる側は気持ちいいんだろうなと思って眺めていましたしね」
ラミキュリアは女王様だった。その名残か、戦いのときでもムチを振るう姿がよく見られる。
「どのムチでも、ということではないんでしょ?」
リファリウスはそう言うと、フラウディアは頷いた。
「はい、”トラウマのムチ”だけです、それ以外のムチはそんなに怖くはありません。
むしろ、自分で振るって使うこともあるぐらいですからね――」
事は深刻だった、敵の手にそれがある以上、フラウディアはまだ敵の手にあるも同然ということでもあるのだから。
「私、どうしたらいいのでしょうか、それがネストレールの手にある限りは太刀打ちすることも敵いません。
むしろ、ネストレールに脅されて、再びガレアの脅威になってしまうかもしれないです――」
それはもはや自分自身でもどうにもならないことだった。
「まあ、それには強い心で乗り切らなければいけないという精神論でしか言えないことかもしれないけれども――」
そう言うと同時に、リファリウスはいい方法を考えた。
「ムチは痛い、痛いから怖い。つまり、痛くなければいいだけの話かもしれないね!」
フラウディアはキョトンとしていた。
術後のフラウディア、背中をさらけ出し、リファリウスに見せていた。
しかし、その背中は美しい彼女の印象とは裏腹に、非常に生々しい傷の痕だらけだった。
「確かに、これは酷いムチの痕だね、皮膚もだいぶえぐれている、
女の子にする気があるのならこんな痕ができるほどの乱暴なことをしなくたっていいのにね――」
リファリウスは怒り気味にそう言った。
「どれ、ちょっと拝借――」
リファリウスはおもむろに彼女の背中に手を当てた、そして――
「あっ、気持ちいい――」
リファリウスは水系の回復魔法で彼女の背中を癒していた。
「ここまでの傷をキレイにするのは結構難しい、私の魔法でもまず不可能だけど――
幸い、プリズム族式性別適合術をしたことで、基礎代謝だけで治っていくんじゃないのかな。
とりあえず、私が今キミの背中にできることはこれだけだろう。
ちなみに私は風魔法が得意だからそっちの方が効力が高いとは思うけれども、
こういう場合は水魔法のほうが気持ちいいハズだ。」
フラウディアはあまりの気持ちよさにうっとりしていて、目がとろんとしていた。