フラウディアはリファリウスたちに連れられてラブリズの里の長・ララーナのもとへとやってきた。
「まあ! なんて可愛い娘なんでしょう! これで男の子ですか?
確かに、ラミキュリアを見た時も少し驚きました、
ディストラードの男児にはもしかしたらそういう素質があるのかもわかりませんね」
ララーナはフラウディアを見るや否や、そんなことを言っていた。
やはり妖魔には自分のことが、男であることがすぐにわかってしまうのか、フラウディアは圧倒されていた。
「ということは言わずともがな、この娘も女の子にしてほしい、ということでいらっしゃったのですかね?」
そう言うと、リファリウスは力なく言った。
「お母様、お願いできませんか……?」
それに対し、ララーナは言った。
「うーん、私の独断で決めるのは何とも――。
そもそも、ご存じの通り、異例となる方法でプリズム族を増やすということにもなります。
ラミキュリアの場合はいつもお世話になっているリファリウスのお願いとあらばということで引き受けさせていただきましたが、
まさか2人目が出てくることは想定外でしたので、そう言うことになると、すぐに”はい”と答えることは難しいですね――」
そんな――シェルシェルはがっかりしていると、ララーナは頷きつつ、話を続けた。
「ですが、だからと言って、差別を作るのはよくありません。
なんの理由もなくラミキュリアはよくてフラウディアはダメ、ということになってしまいますので、
それはそれでよくありません、困りましたね――」
一同は悩んでいると、別のプリズム族の女性がやってきて、ララーナに耳打ちしていた。
「なるほど、そう言う手がありますね、確かに――」
ララーナはそう言った後、何やら考えていた。そして、意を決したかのように言った。
「本来なら、死亡してもプリズム族の必要臓器が生きている限りはその臓器を摘出し、
それを再利用する手法で手術のために使用します。
もちろん、それ自身は今回フラウディアにする手術についても同様のことをします」
だが、フラウディアの場合は通常の場合とは少し違った。
「しかし、今回フラウディアに与えられるものとして特別に許可が下りそうなものは未成熟の臓器です。
未成熟ですので、そのまま成長せずということも多分にあります。
但し、フラウディアはまだお若いですので、自らの身体の中で成長し、
一人前のプリズム族の臓器となる可能性はなくもありません。
それでよければ、ということになりますが、いかがでしょう?」
通常は未成熟の子宮が手術に使用されるケースはあまりなく、遺体ごと処理されてしまうのが通常であるそうだ。
未成熟ならそんな重い許可を必要としない――まだプリズム族の女性としても未成熟であるということから、
そういう判断には至らないという考え方のようである。
だが、何故、未成熟の臓器が表れ、遺体ごと処理されていない状態なのか、それを考えると――
「酷い! そんな、どうして! まだ私なんかよりも若いというのに! あんまりです!」
フラウディアが泣きながらそう訴えていた。その娘がなくなったのはわずか10数分ほど前の出来事だったと言う。
そして――脳死し、臓器の組織も破壊されつつある今、
フラウディアはその亡くなった子のために、亡くなった子が自分の中で生き続けるようにと決断をしたのである。
彼女から、その臓器を受け継ぐことにしたのだ。
「あらあら、どこの娘とも知らない子に、なんて慈悲深い娘なのかしら――」
ララーナたちは、そんなフラウディアの様子を見るや否や、なんだか特別な思いを感じたようだ。
それからのフラウディアと言えば、とても明るい娘で、悪女というには正反対の印象でしかなかった。
まさに聖女フラウディア様とも思えるような佇まいで、
楽しい時にはみんなで一緒に可愛くて美しい笑顔を絶やさず、みんなと共にあるようないい娘だった。
「リファリウス、発つ前にちょっとよろしいですか?」
ララーナはリファリウスを呼び出した。
「お母様、なんです?」
「フラウディアだけど――あの娘、只者ではありませんね――」
リファリウスは頷いた。
「私らのような存在――”ネームレス”とは言わないにせよ、
確かに、特別なものを感じます、手術した後はなおのことね。」
「もしかしたら、とある伝説の魔女の存在に近しいのかもしれません――」
そう言われたリファリウスは心当たりがあった、しかし、それが具体的にどういうものだったのかまでは思い出せなかった、
それはララーナも同じことを考えていた。
「言われてみれば、プリズム族にはそんな伝説があったような。
それは伝説の”プリズム・ロード”たらしめる存在の中でもという――
もしかしたら、それが彼女の本質であり、彼女らしい一面なのかもしれないですね――」
そして、リファリウスは何かを考え始めていた。
「うん、待てよ、そういえば、大事なことを忘れている気がするような――」
その様をララーナは微笑みながら言った。何を言おうとしていたのか察知したのである。
「あなた方はある意味2人で1人の存在のようなものです、
あなたには仲間がいるじゃないですか、世界を破滅せしめんとする存在に対抗するということであれば誰だって力となるハズです。
もちろん、必要でしたら私の力も使ってください、あなたのためです、何なりとお申し付けくださいな」
「世界を破滅せしめん……まあ、そこまで行くかは不明だけれども、脅かす存在としては確かですね。
やっぱり、ディスタード本土軍に対抗するのなら”かの強国”の力が必要、という事になるわけか――」
そう、リファリウスが考えていたのはアリエーラのこと、つまり、クラウディアスを動かすということである。