フルーミアの作戦についてはまったく成果がなく、彼女は思い悩むまでになっていた。
確かにラミキュリアが言っていた通りである、本当にどうしたらいいんだろう――というか、
あの人はどうなっているんだろう――フルーミアはなおのこと思い悩んでいた。
そんなこんなでさらに数日が経ち、動きはルシルメアにて起こったようだ。
「どうしたんですか! アール将軍様!」
ラミキュリアが慌てた様子でそう訊いた。それはルシルメアからアールが大けがをして帰ってきたのである。
「面倒なことになった、ルシルメアでガレア排斥法案が可決し、明日以降は私らが入国禁止になることが決定したんだ。」
と、アールは言った。
そのままルシルメアから出るため、港から出港する目前、
以前より帝国に対して嫌悪を抱いている勢力の一部の仕業により、アールは襲撃されたのだという。
「襲撃をよけなかったのか?」
エイジはそう聞くと、アールは答えた。
「船を狙われたらもっと面倒になりそうだったからね、
だからこの身で甘んじることにした、私の身一つで済むのなら安いもんだよ。」
エイジは頭を抱えながら思った、無茶すんじゃねえ、と。
しかし、それにしても入国禁止って――エイジは言った。
「元より、ルシルメアではディスタード帝国を排斥しようという運動が根強く残っているからね、
もしかしたら初めて聞く人もいるかもしれないけれども、
ルシルメアはかつて、ディスタード本土軍に侵攻され、そして街を二分した時代があった、
その時の傷跡もあるから、ディスタード反対派は純粋に我々が気に入らないんだよ。
だからその一環として、まずはガレアを排除しようと考えたのだろう。
本土軍はディスタード帝国でも影響力は大きいからね、迂闊に排除しようとすると戦争にもなりかねない、
そう言うことだろうね。」
ん? なんかおかしくないか? その話を聞き、そう思ったマドファルは質問した。
「でも――ルシルメアとの和平交渉をしたのはガレア軍ですよね?
今の話のように、ルシルメアでディスタード排斥の原因を作ったのは紛れもなく、
私がかつて所属していた頃の本土軍のハズです。
ですから、彼らにしてみれば憎むべきは本土軍であって、ガレア軍は――」
しかし、そこへエイジがこう説明した。
ディスタード帝国はあくまでディスタード帝国、それが本土軍だろうがガレア軍だろうが帝国は帝国、管轄は関係ないのである。
しかし、排除しているのは管轄単位、それはどうしてかというと、これはあくまで段階的な移行というだけのことであり、
実際にはルシルメアから少しずつディスタードを排除しようという目論見なんじゃないかという。
「だから、いずれはディスタード本土軍も排斥されるという流れなんだろ?」
エイジは続けざまにアールにそう訊くと、彼は自分の傷を治しながら言った。
「まあ、キミの言う通りの想定が妥当だね、私もその通りだと思っているからね。
でも、おそらくだけど、一応ディスタードを全面的に排除する”予定”とだけ言っといて、
本当はするつもりがないというのが実際のところだろう。
というか、多分、ガレアを追い出すことが目的、それが真実だと思うよ。」
さらにアールは話を続けた。
「で、この法案の主導者なんだけれども、何を隠そう、あのチュリンカ議員なんだ。
つまりは、そう言うことなんだろうね――」
アールのその予感は的中した、それは、ティレックスたちが逃げるようにガレアへとやってきたことに起因する。
「騒々しいな、どうしたんだ?」
エイジは慌てて駆けつけてきたティレックスたちに注意をしながら訊いた。
「いやっ、ていうか、大丈夫かその傷!?」
ティレックスは驚きながらアールに訊いた。
「大丈夫だよ、ルシルメアから帰ってくる揚陸艇の上ではあまりの痛さで気を失っていたけれども、今はもう平気だ。
あとは傷口を何とか塞ぐだけ。」
いや、痛さで気を失っているのはいいんだけど、その間誰も治そうとしてくれなかったのか、それが不思議だった。
でも、そういえばこいつ――少し前になるけれども、
結構な大けがをした際に触れさせてもくれなかったことを覚えていたティレックス、
揚陸艇の上で駄々をこねたのだろうか、容易に想像ができた。
ともかく、大丈夫ならいいんだが――
「ところで、どうしたんだ?」
エイジは訊いた。こいつはこいつでアールのけがの程度については興味がないらしく、淡々と話を続けていた。
すぐ治ると踏んでいるのだろうが、それにしては白状すぎる気がしないか? いや、いつものこと、なのだろうか――
「ああ、実は――」
ティレックスは話を続けた。
なんと、アルディアスでもエリュラらによってガレア排斥法案が可決され、明日よりそれが執行されるという。
それに対してルダトーラ側としては当然異を唱えたのだが、それによってルダトーラ・トルーパーズのメンバーは反逆罪となり、
本日を以て強制的に解散させられるハメになってしまったという。
「マジか……どういうことだよ、反対しただけで反逆罪っておかしいだろ?」
エイジがそう言うと、ティレックスは悔しそうに言った。
「俺もそう思った、それだけのことで反逆罪ってどうなっているんだろうかって。
だけど――現に、今はアルディアス政府によって何人かの仲間が取り押さえられているんだ――」
アルディアスの動きについて、アールは話をした。
「ルシルメアを脱出する際に耳にした話なんだけど、
実際にはアルディアスに対しては同盟とはいいつつ、帝国による支配が目的なんだろうって。
無論、アルディアス行政区はガレアの管轄になっているから、確かに支配という図式になっているけどね。
でも、ルシルメアがアルディアスにガレアを締め出すことを持ち掛け、一斉にそれを行ったというのがアルディアスの動きだ。
ただしこの動き――これで留まることはなさそうだ、恐らくだけど、全世界に――」
そういうと、ユーシェリアが不安そうに言った。
「この先、どうなっちゃうんだろう――」
アールの予想通り、各国の”ガレア降ろし”についてはさらに加速し、
ガレア軍が立ち入ることができない国が増えていった。
そんな中――
「こっちは大丈夫、俺やあの”ノンダクレ大将”がいる限りは好きにはさせないからな。
アンタには借りがあるし、そもそも悪いやつとも思っていないしな。
でも、ガレア軍は今はおとなしくしといたほうがいいと思うぞ。
まあ、何かしらの要求があればちゃんと引き受けてやるから、そこは安心しとけ」
アールはグレート・グランド大陸の北にあるティルアのクラフォードと話をしていた。ティルアの様子を確認していたようだ。
ちなみに、”ノンダクレ大将”とはグレート・グランドの主、バルティオス城の当主であり、
シェトランド人の長でもあるリオーンのことである、グレート・グランドでは好き勝手させないという方針のようである。
「恩に着るよ、クラフォード君――」
アールは電話を切ると、ラミキュリアは訊ねてきた。それに対し、アールは答えた。
「セラフィック・ランド自治区には手が伸びていないらしい。
ルーティスはティルアと同じで慎重な姿勢だってナミスさんに訊いた通りだけれども、
他はほとんどが本土軍はOKだがガレアはNGというところばかりらしい。
なんというか根回しが良すぎる、本土軍はこれまでずっと準備していたんだろうね、
そんな気さえするほどの状態だ。」
それから、エクスフォス組はルシルメアの影響を受けて帰らざるを得なくなったという。
但し、エネアルドとしてはガレアとは関係があるため、慎重な姿勢を見せているらしい。
「すべてはクラウディアスを落とすため、でしょうか?」
ラミキュリアがそう言うと、ティレックスが答えた。
「クラウディアスを落とすのは通過点、
クラウディアスを落として、真の強国を謳うのが連中の目的、つまり――」
「――世界の真の支配者として君臨するために?」
ユーシェリアがそう言った、まさしくそれを画策しているのがディスタード本土軍の狙いなのである。
「ディスタード本土軍が我々ガレア軍の外交政策に対して看過していたのはそのためだったか――」
と、アールは言った、ガレア軍は利用されていたにすぎない。
それからさらに数日が経ち、”ガレア降ろし”の動きは安定していったが、
それはやはり、ガレア軍にとってはつらいものでしかなかった。
そんな中――
「うふふっ、元気がありませんねぇ、アール将軍様♪」
フルーミアは甘えたような声でアールに迫ってきた。
「私はどうすればいいと思う?」
「どうすればって――それはもちろん、自分正直に生きればいいのではないですか?」
「自分正直にか、やってきたつもりなんだけれどもね。
でも、こうなることは想像していたけれども、こんなに加速するなんて――まあ、
帝国に与するものである以上は宿命だと思うしかないのかもしれないけれどもね――」
それに対し、フルーミアは優しい眼差しで言った。
彼女は不思議と以前に比べ、なんだか非常に穏やかな心持で、
以前よりもとても嬉しそうな印象だった、何かあったのだろうか。
「いいえ、まだまだやれていないことがあるのではないのですか?」
フルーミアにそう言われたアール、考えながら、
そして――彼女が目の前で自分を誘惑してくる――そんな彼女を見つめながら言った。
「そうだね、自分を信じてやるしかないか。」
「そうですよ、そのためなら私も何でもしますよ、愛しの将軍様のためならねっ、ウフフフフ――」
フルーミアはアールを誘惑して取り込んでいった、今こそトドメの時、それを確信したようだ――