救出活動を終えてから約1時間程経ち、事態が進展した、それは――
「こんなことになるなんて申し訳ない――」
とある隊員はベッドから起き上がっており、そして、謝っていた。
それは、海に投げ出された男性隊員、50人のうちの唯一の生き残りである。
「いいっていいって、命あっての物種、生きていて何よりだよ。
それよりも、夕べの海はあんな大時化だというのに、どうして航行を?」
アールは話を聞いていた。
「それが――どうやら上層部で決まったことらしく、それ以上は私にも――」
上層部か――アールは悩みながら訊いていた。
「おっしゃる通り、確かに大時化ということで、こちらとしても何かの間違いかと思いまして、
念のために一旦見送りを要求したのですが、
それでも上層部からはノース・ディスタードとサウス・ディスタード間のルートを航行せよとのお達しがあり――」
このルートを航行することは近道ということもあって頻繁になされている。
しかし、この区間は水深が比較的浅く、
しかもノース・ディスタードとサウス・ディスタードの島の間も狭いことから、
海が荒れていたり風が強かったりする場合は避けて通らなければいけないハズなのである。
「どうしてもここを通ることを強行した理由というのがありそうだね、
わかった、私のほうから直接ベイダに訊いてみようと思う。」
アールがそう言うと、男性隊員は頭を下げ「よろしくお願いいたします」と丁寧に頼んでいた。
「ああ、そういえばもう一つ聞きたいことがあってね――」
アールは言った。
「名簿記録にない女性が乗船していたんだけど、それはどういうことかな?」
そう言われた隊員は首をかしげていた。
「えっ、女性が乗っていた? そんな、私は何も知らされておりませんが――」
なんと、わからないとは――これ以上の追及は不可能だった、
知らされていないということは捕虜という線も薄いかもしれない、本当に、何者なんだろうか。
ガレアの隊員たちがぐったりとしている中、アールは――
「おいおいおい、あんまりだな。
私は別に鬼でも何でもないんだから、これ以上の任務の遂行が困難なら、さっさと帰って休んでもらってもいいんだよ?
今日は早朝のことだったしね、みんな疲れていても仕方がないさ。
だから、その辺でだらっとしている光景をみせられるぐらいなら、
今朝の件を労いながら自室でお休みするとか、あるいは休憩室で一息入れてくるとか、その方がいいと思わないか?」
アールは得意げにそう言うと、その男性隊員たちは立ち上がって言った。
「はっ! アール将軍、大変申し訳ございません! それではそのようにいたしますが、よろしいでしょうかっ!?」
「はいはい、いいからさっさと帰んな、暑苦しい。
それよりも、それは私に言わんでキミの直属の上司に言いなよ、私に言っても彼に言わなきゃどうしようもない。
キミのところは確かヒルギース大佐だね? 彼にもたった今喝を入れたばかりだから、話をしてくるといいさ。」
ということはつまり、ヒルギース大佐も同じように怒られていたらしい。その光景を見ていたティレックスは、
「……できた上司だな、帝国の将軍にしては」
そう呟いていた。それを聞いたアールはティレックスに近づいてきた。
「それとは裏腹に、キミはなかなか堪えない身体の作りをしているんだね、
流石はルダトーラ・トルーパーズの団員といったところか、
まあ、皮肉にも、長い戦争で出来上がった身体というところなんだろうけれどもさ――」
それに対し、ティレックスは的確に指摘した。
「それを言ったらあんたのほうこそ、どんな身体の作りをしているんだ?
噂じゃあ、あんたは1か月ぐらい休まずに活動していたこともあったそうじゃないか?」
それに対し、アールは得意げに答えた。
「1か月か、確かに、そんなときもあったかなぁ――」
アールは遠くを見ながらそう言った。
「そんなときもあったって、どんな感想だよ。大体あんた、夕べどころか数日ぐらい軽く寝てないんだろ?」
ティレックスがそう言うと、アールが答えた。
「恐らく、戦争なんかよりも種族的な特徴がそうさせている可能性もあるね、キミの場合もだけど。
ラミキュリアさんは1日って言ってたけど、プリズム族は実際、大体1週間は体力が持続するらしい。
私の場合は――まあ、最長で1年寝なかったこともあるけれども、それでもまだ余裕なほうだった、
まだまだ記録を伸ばせる余地はあるかもね。」
また、とんでもない記録をしれっというんじゃない、ティレックスはそう思った、1年以上も持つなんて――
「でも確かに、休まないっていうのは身体に毒だ、あんまり得意になってやるもんじゃないね、
それこそ、みんなに心配をさせることでもある。
休めるときは適度に休む必要もあるということだよね。」
そう言えばアールこと、リファリウスはアリエーラにそのことについてよく怒られていたことをティレックスは思い出した。
翌日、これまで沈黙を貫いていたディスタードの本土軍だったが、
いよいよ返事が返ってきたようだ。
「そのような船があるのかどうかは確認中ということか、
でも、きちんと生存者がいるんだし、早く対応してもらいたいもんだね――」
アールはそのメールの文面を見るや否や、そんなことを愚痴っていた。
さらにいろいろとインターネットを駆使してみていると、何やら気になる内容が――
「そっか、そういえば、そろそろルシルメアも選挙の時期が近付いているんだっけ、
数週間前から掲示されていたハズなのにすっかり忘れていたね。」
それに対し、ラミキュリアが言った。
「あら? ルシルメアもですか?」
ルシルメア”も”とは? アールは気になって訊いてみた。
「アール将軍様、アルディアスもそろそろその時期ですよ、どんな人がアルディアスを動かすことになるんでしょうかね――」
確かに、アルディアスを解放した側としては非常に気になる内容だった。
「ああ、そういえば忘れていたね、ちょうどルシルメアとは時期も重なるのか。
なるほど、なんていうか――だいたいどちらも誰が当選するか見えているような感じだね。」
どういうことだろうか、ラミキュリアは訊いた。
「見てよ、これ。多分、うちの影響が強いと思うんだけど、それを狙って候補に挙がっている気がするよ、なんとなくね。」
アールがそう言うと、ラミキュリアはそのモニタを見ながら言った。
「女性候補!?」
そう、これまでは女性の進出については暗黙のうちにタブーとされていたらしいが、
実際にはそうではなく、この度はルシルメアとアルディアスの2つの都において、
政界への女性進出が行われようとしていた。
しかも、昨今の戦争やガレアにおける女性陣の躍進も後押しし、女性候補が大人気なところも見受けられた。
「まあ、確かに――これはこれで嬉しいことなんでしょうが、だけど――」
ラミキュリアがそう言っていると、アールは窓の外から遠くを眺めていた。
「どうかされました? 何か問題でもありそうです?」
アールはそのまま遠くを見ながら言った。
「まあ、そんなところかな。ちょっと気になることがあってね――」