それから数日後の早朝、夜も明けぬうちにとんでもないことが起こっていた、それは――
「――アール将軍様?」
ベッドに横たわっていたラミキュリアがアールの様子を見ながらそう言った。
アールは窓から外を眺めていた。
「外が騒がしい、何かあったに違いない――」
そう言うと、ラミキュリアも慌てて起き上がり、ネグリジェを整えると窓の外を確認した。
「確かに、なんだか騒々しいですね、一体、何があったというのでしょう?」
するとそこへ、別のネグリジェ姿の美女がその場へとやってきた。
美しいネグリジェ姿とは裏腹に、彼女の剣幕はその印象をひっ切り返すほどのものだった。
「アール将軍、起きてらっしゃいますか! 大変です! ガレア近海に座礁した船一隻が!」
それを聞いたアール将軍、すぐさま自らの身を変身術を使って自分の身だしなみを整えていた。
「ありがとう、ジェレイナさん!」
それと同時に、アールは窓から飛び降り、現場へと急いで行った。
その様を見届けていたジェレイナこと、ジェタは――
「あの人のアレ、とても便利な能力ですね。
でも、私もこうしてはいられない、早く着替えていかなくては――」
「そうですね、私も行かないと――」
ラミキュリアも着替えようとして慌てていた。
アールは現場につくと、男性隊員たちが集まっていた。
「ツイード君!」
そこで指揮をしている彼に話しかけた。
「アール将軍! あれがそうです、暗くて少しわかりづらいですが間違いありません、船です!」
その時は風も強く波も強い、そのため船は今にもガレアへと突っ込んでこようという状況だった。
「だけど――どこかで見たことのある船だな――」
アールは風の流れとは逆向きに風魔法を発動しながら言った。
「まあいい、とにかく、私が船の流れを抑えるから、みんなで協力して事に当たってほしい!」
「了解です! みんな、聞いての通りだ、直ちに事に当たってくれ!」
ツイードは部下たちにそう言って促した。
ジェタとラミキュリア、そして、シレスも現場に着くと、
その浜には大きな船が波打ち際にうち上げられていた。
「船が!?」
ジェタがそう言うと、アールが答えた。
「うーん、どうやらこれは本土軍の揚陸艇のようなんだ――」
用事があってガレアに寝泊まりしていたティレックスはその様子を見て考えていた。
早朝からの騒々しさに飛び出してきたのである。
実は、本土軍の軍艦がアルディアス付近に接近していたという目撃情報があったようで、
何やら本土軍が不穏な動きをしているらしいことが確認されていた。
その真相を確かめるためにガレアに来ていたのだが――
「また本土軍か――」
ここへきて、またしても本土軍の不穏な動きを見ることになろうとは。
そして、アールは潮の中に足を突っ込んで沖のほうを眺めているエイジのほうへとやってきた。
しかし、海の中に入ろうとしない。
「なんだよ、なんか呼んだか?」
風も波も強くてアールの声がちゃんと聞こえなかった。
するとエイジ、自分を呼んでいるらしいやつがアールであることを確認すると、彼のもとへと近づいてきた。
「ああ、そういえばそうだったな、水の中はNGだったな。
で、調べたところによると、船は恐らく操縦ミス、ただのミスというよりは事故に相当するものだと思う」
事故だって? アールはさらに訊いた。
「わざとだったらもう少し堂々とガレアに突っ込んできてもおかしくはないし、
それを見越してわざとやるにしてもリスクが高すぎる行為だ、揚陸艇一つをダメにしているんだぞ?
だからまあ――たとえわざとやるにしても、事故は避けられなかったというところだろうな」
それに風も強く、波も荒い、事故が起こる要因としては十分すぎるものだという。
「ベイダがうちを攻撃してきたんじゃないかなと思ったんだけど、それでは仕方がないか。
まあいい、詳しい分析は後で。ともかく、座礁した船の隊員をなんとかして救出しよう。」
船の乗組員を救出する活動が始まった。
「よし、総員、作業にかかれ!」
ツイードは指揮を執っていた。それに続いてジェタも指示していた。
「後から来たものはツイードに続け! それからラミキュリアは――」
「私は、本土軍の船ということなら本土軍側にお知らせしなければいけませんね」
「ああ、ラミキュリアは連絡を頼む。よし、みんなで事に当たるんだ!」
ラミキュリア、そして、ジェタがそう言うと、みんなで事に当たることにした。
早朝の決死の救出活動は続く。
船は大きく傾いており、恐らく溺死した人もいるだろう、そんな光景も見られた――
「こいつは――こと切れているな、かわいそうに――」
アールは寝室で横たわっていた乗組員の遺体を確認すると、
部下に外に出すように指示していた。
「この様子だと、海に投げ出された隊員もいるかもしれないね――」
アールは心配しながらそう言った。
「お前の力で何とかできないものか? もちろん、水の中に入れる方法を使ってだが」
エイジはそう訊くと、アールは答えた。
「捜索範囲が広すぎる、闇雲に入ったところで見つからなければ仕方がない。
それに潮の流れが速すぎるから、魔法で特定できたとて、助けられるかどうかは難しいだろう。
潮の流れが速いということは、沖に流されている可能性も――」
そうか――エイジはがっかりしたような態度で呟いた。
そんな中、海に投げ出された人物が命からがらガレアへと上陸してきた。
それにはジェタが気が付いて言った。
「お、おい、大丈夫か!?」
「くっ、ここは――ガレアか――」
その隊員はその場でぐったりと横たわり、そのまま何度も呼吸をしていた。
「救護班! こっちだ!」
ジェタがそう促すと、ガレアの隊員の何人かがその隊員を取り囲み、
そして担架に乗せるとどこかへと運んでいった、おそらく医療施設だろう。