エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

遥かなる旅路・天使の舞 第4部 明日への扉 第5章 誘惑の魔性花

第71節 インパクト

「ヤツのあんな悔しそうにしているザマを見られるとはすがすがしい気分だぜ!  流石はアール将軍様! 野郎にあんな仕打ちをすることができるのはあなた様を置いて他にはいない!  野郎の不幸はまさしく蜜の味! ク○のベイダめ、ザマアミロ!」
 ガレア軍のあのパレードでの一件により、グリモッツがこれまでにないぐらいと言わんばかりに喜んでいた。 しかし、グラントには話が見えなかった。
「えっと、アールさんが、そちらのラミキュリアさんと、その――仲良くしていたことまではわかったのですが――」
 それに対してエイジが話を続けた。
「ベイダがアールのこと気に入ってるのは知ってるだろ、これでもイケメン補正がかかっているからな、こいつは」
 それについてはグラントはおろか、帝国の内部の人間にとってはよく知っている話でもあった。 続きはアールが説明した。
「ベイダはどうやら、自分と同じ色のドレスを着た私の隣の美女が私と仲良くしている様がどうも気に入らないらしい。 現に本土軍はあの後パレードすることなく撤退していっただろう? まさにそれだよ、ねっ、ラミキュリアさん♪」
 と、アールは楽しそうに言うと、ラミキュリアも楽しそうに答えた。
「まあ私ったら、いけない女ね♪ それじゃあまるで、私がアール将軍様の心を奪った悪女みたいじゃあない♪」
 だが、2人にとってはこれがあくまで遊びであり、演技であるというのが何人かがしっくりとこないことである、 そこまで仲がいいんだったら結婚しちまえよと言わんばかりのことなのだが。
 そんな中、グリモッツだけは1人、別次元の邪悪な笑みを浮かべていた、 こちらの方は相当重症なようである、余程ベイダ・ゲナに恨みがあるようだ。

 それはそうと、会議を続けることにした。 今回問題にしたいのはディスタード本土軍ではなく、冒頭にも話した通り、エダルニウス軍の件である。
「エダルニウス軍か、確かに、アールさんの話では、最近ルシルメア東部やディグラット東部に何度か攻撃してきているっていう話を聞きますね。 それで、こちらとしても調べてみたのですが、エダルニウスから東のバルナルド国を侵略し始めているのだそうだ。 結構距離があるというのに連中、かなり本格的にやっている。 まるでディスタード本土軍が実行しているユーラルへの侵略を見ているかのようだ――」
 ユーラル? アールが訊くとグリモッツは答えた。
「ユーラルだけでなく、同じく本土から東方にある、とある国を侵略している。 残念ながらどこを侵略しているのかについては私には情報が降りてこない、力になれず申し訳ないが……。 だが、一方は貿易の要所で、一方は資源が豊富な島だと聞いている、 どちらも占領と言う行為には及ばず、他国には気づかれない範囲で事を起こしている、これはいつも通りだがな……」
 なんと、そんな国があるのか、例によって下々の者にちゃんとした情報が来ないのは本土軍にしてはいつも通りといった感じだが。 グリモッツは続けた。
「ともかく、そのあたりについては何か情報があれば追って展開することにしよう。 だが、クラウディアスを落とす上ではそれだけじゃあ足りない、ユーラルの資源を狙い、 その上で改めてクラウディアスをっていうのがベイダ・ゲナの狙いなんですよ――」
 アール将軍は改めて訊いた。
「クラウディアスか、例えばの話だけど、共存の道はないのだろうか、どうだろう?」
 すると、それに対してグリモッツが驚きながら言った。
「まさか、アール将軍様からそのような言葉が出るとは!?」
 しかし、それに対してグラントは素直に答えた。
「我々は古ディスタード王国寄りの思想だからな、だから可能な限り、 昔から長い付き合いだったクラウディアスとは仲良くしたいところなのだ。 それがたとえ、帝国国家の意思に反する行為だと言われてもだ。 元々ヘルメイズについては、クラウディアスとの仲立ちをするために設立された管轄、 それがいつしか、本土軍の標的となり、今では完全にヘルメイズはただの厄介払いのためのディスタード最後の砦でしかなくなっている。 なんとも嘆かわしいことだが――」
 アールは頷いた。
「まさに本音を語る会と言ったところだね、ここは。」
 それについてはグリモッツは悩みながらも、ゆっくりと座りながら言った。
「言われてみればおっしゃる通り――どうしたものですかね。 確かに――アール様の前で言うのは少々はばかられるのですが、 正直、本土軍カーストの下々の者の中でも、クラウディアス進撃などほぼどうでもいいのです。 上がやるからとりあえずやりましょう、その程度のことでしかありません……」
 アールはさらに頷いた。
「なるほどね、クラウディアスに歩み寄りたいと、そういうふうに受け取ってもいいわけだ。」
 グリモッツは慌てて否定した。
「いえいえ! 断じてそのような! 私はただ……」
 すると、アールがはっきりと答えた。
「グリモッツ君、帝国内でのキミの立場が危うくなったらすぐにでも私に言ってくれたまえ。 そしたらすぐにでもうちに亡命する準備を整えてあげるからね――」
 そういうと、グラントはすぐさま気が付いた――
「まさか、アールさんって――」
「そうさ、私はクラウディアスの回し者だよ。」
 グリモッツは噴き出した、聞くべきではなかった、という感じである。

 理解が追い付かないグリモッツ、あまりにショッキングな内容だったのでその話は聞かないことにした、 彼にはいったん気持ちの整理が必要だったため、そのまま本土島へと帰らず、マウナで一夜を明かすことに決めていたようだ。 一方でヘルメイズ軍はガレア軍に全面的に協力をすることを約束した。
 そんなこんなで会議は終えたのだが、あの場で決まった話はやっぱりエダルニウス軍をどうするか、ということである。

 アールとエイジ、いや、リファリウスとヒュウガは話をしていた。
「ガリアスか、エダルニアについてはある程度調べていたつもりだったけど、そんなやつが総司令官だったっけ?」
「いや、確か、ドーなんとかっていうやつがって言ってた気がするぞ」
 そこへルヴァイスが指摘した。
「それを言うならドービス総司令ですね。 確かに、エイジャル、ボディス、ベラッサムにレンバルとザワールっていう猛将を抱えて各国を侵略していたということは記憶しています」
 それに対し、エイジは首をかしげていた。
「ああ、あの時の”ぼ”と”べら”か……何故かそれだけは覚えているな」
 ヒュウガはそう言うと、リファリウスも話をした。
「それ、私が言ったセリフだった気がする。 名前は忘れたけど、言うに事欠いて一人称が”吾輩”とかいうすごいインパクトのあるやつにそれを言った気がするね。」
「”吾輩”!? そりゃあ確かに……てか、貴重な人種だな……」
 どういうことだよ、2人のそれぞれの話に対し、ルヴァイスは困惑していた。

 話を戻そう。問題の解についてはラミキュリアが端末で調べていた。
「以前はドービスという方がエダルニアの総司令として君臨していたようですね。 ですが、グラント様からいただいた情報によると、ドービスは失脚し、 その後にガリアス=ボーティウスという方が新たな総司令となっているとのことです。 時期的にはちょうど、私たちがルシルメア東部の戦いでエイジャル、ボディス、ベラッサム、レンバル、ザワールを撃退した直後ぐらいでしょうか――」
 リファリウスは頷いた。
「なるほどね、つまりはルシルメア東部の侵略による勢力拡大の作戦に失敗し、 そのために遣わした5人の多分猛将と言えるそいつらを一度に失うハメになった、 それによってドーアニスは失脚に至ったと、そしたら今度はガレマンドが――」
 それを言うならドービスとガリアスだ、ルヴァイスはそう指摘した。 だが、その単語を聞いたヒュウガは何やら眉をひそめていた、不思議とどこかで聞いたことがあるような、と。