グリモッツが邪悪な顔で言っていたことの裏にはこんなことがあったのである。
軍事パレードと言うからには、それぞれの管轄によるパレードの催しがあるのだ。
パレードは、ヘルメイズ軍、ガレア軍、そしてトリを務めるのはディスタード本土軍の順番で行われる予定だった。
そしてその直前、本土軍のパレードカーが待機している現場にて。
「見ろよ、キンキラキンのゴールド一色のオープンカーが並んでいるぜ」
ガレアの隊員の1人、ディーグがシレスに言うと、シレスは呆れながら言った。
「流石はディスタード本土軍……というよりもベイダ・ゲナの趣味ね、
あいつ、ド派手でハイセンスなのが趣味でしょ、ホント、悪趣味と言うか、何というか――」
その現場にラミキュリアとエイジがやってきた。
「えっ、これが本土軍の催し物――」
「頭痛くなるよな」
ラミキュリアは唖然とし、エイジは頭を掻いていた。
ベイダ・ゲナは会議には出席しないが、自らの存在をアピールするためにパレードには出るようだ。
そんなゴールドの中央に、スパンコールがちりばめられてひときわ目立つ、大柄の赤のロングドレスが置いてあった。
「おや、衣装まであるじゃないか、ゴールドに赤、まさにそれって感じだな――」
エイジは再び頭を抱えながら言った。しかし、ラミキュリアはそのドレスを見てみると、妙な違和感を覚えた。
「えっ!? 38号!? このドレス、ちょっと、大きすぎではないですか!?」
エイジは答えた。
「そう言えば知らないんだっけか。そうだよ、ベイダ・ゲナって大男だからな。
それこそ俺やディーグ、
ましてやあんたやシレスさんなんか比べものにならないほどのゴリゴリ感満載の野郎だからな――」
そう言われたシレスとディーグは思い出した。
「そう言えば――ベイダ・ゲナって”そっち系の人”でしたっけ?」
「言われてみればそうだったような。そもそも俺ら、元々本土軍にいたハズなのに全く面識がないし、
そういう情報もあんまり入ってこないから噂レベルでしか聞いたことがないんだが、そういえばそうだった気がするな」
エイジはずっと呆れた様子で話をしていた。
「なんというか、マジでデカイから俺はずっと見上げていたな。
あの背の高いアールよりももっと背が高い、筋肉ムキムキのガタイには見合わない恰好をしている――
とにかくミスマッチ感極まりない、なんとも形容しがたい姿だったな、
なんというか、言っていいのか悪いのかわからんが、ある意味この世の終わりを見させられている気しかしなかった、そんな感じだ――」
それに対してディーグもなんだか気分が悪くなってきた。
それに反し、シレスとラミキュリアはむしろ怖いもの見たさで一度見てみたくなっていた、別に無理に見たいわけではないが。
「でもさ、どうせ着るんだったらラミキュリアみたいな美人が着た方がいいに決まっているわよねぇ♪」
と、シレスは楽しそうにそう言うと、ラミキュリアは顔を赤くし、言葉を詰まらせていた。
「そ、それを言ったらシレスさんのほうこそ!」
そしてパレードが始まり、トップバッターはヘルメイズ軍、
先ほどのキンキラキンな本土軍とは打って変わって武骨な車両部隊が並んでいた。
しかし、その真ん中には花を添えるかのように、4人の人物が立ち並んでいた。
それに対し、離れたところで傍観しているアールがラミキュリアと一緒に話をしていた。
「あれが噂のメイローザ隊ってやつだね。
どういうことだろうか、メイローザ隊って上層部の存在なハズなのに女性がいる、後でグラントに訊いてみないと。」
それに対し、後ろから見ているルヴァイスが訊いた。
「あれ、グラントさんはいますが、グレスト将軍がいませんね、どういうことでしょう?」
「まあ、彼はかなり歳取っているからね。
この調子だと、パレードどころか会議にも来ないだろうねきっと」
それはそうと、そんな武骨な者たちのパレードからは、
どことなく古い時代の王国時代のそれを感じさせるものが登場した、
昔ながらのアナログな大砲、王国騎士を思わせるような”いでたち”に立ち振る舞いなど――
「如何にも王国時代の正統派って感じの催しですね!」
ラミキュリアはそう言うと、アールは答えた。
「そうだね! やっぱり伝統で紡がれたものっていうのはこうでなくっちゃね!」
次に、ガレア軍のパレードが始まった。
ガレア軍はカラフルなレインボーカラーを基調としたパレードカーである。
「おや? ラミキュリアさん、どうしたのそのドレスは――」
ラミキュリアは何と、肩が大きく開いた胸元も強調している美しい赤のロングドレス姿へと変貌していた。
「うふふっ、アール将軍様♥ どうです、似合いますか♪」
ラミキュリアはアールを誘惑しながら楽しそうに聞いた。すると、アールは楽しそうに答えた。
「もちろん! さっすがラミキュリアさんだね! でも、どうして? いつもの恰好で行くんじゃなかったっけ?」
「そのつもりだったんですけど、実は――」
すると、アールが気が付いた。
「あれ、そういえば、ベイダも赤いドレスで来るはずだったような……? てことはまさか――」
「ふふっ、ア・タ・リ……ですわ、アール将軍様♥
このドレスを着るのなら、私のほうが数倍似合っているに決まっていますわ、そうは思いませんか、アール将軍様♪」
まさに女は怖いと言わしめるエピソードである。
しかし、ベイダへの仕打ちはそれだけに留まらなかった。
「なるほど、ベイダに対抗して用意したんだね!
だけど、数倍なんてとんでもない、そもそも0を何倍にしても0は0だからね、
ラミキュリアさんと比較することのほうがおこがましいというべきだろう。
ラミキュリアさんはまさに別格の存在、だろう? ルヴァイス君?」
それに対し、背後にいたルヴァイスは焦って言い返した。
「えっ!? なんで俺なんですか!? 今のおかしいでしょ、絶対に!」
それに対し、アールとラミキュリアは不思議そうに首をかしげていた。
「そうかなあ、どこかおかしかったかなぁ?」
「別に、普通に似合っているのであれば言ってくださればいいのに――」
そのやり取りについては、ルヴァイスは完全に無視した。
「まあ、そういうことであれば致し方がない。
だけど流石だね、やっぱり視線が集まってくる、やるなあ、この女秘書め――」
やだ、そんな――ラミキュリアは照れつつも、半ばまんざらでもない様子だった。とはいえ――
「でも、第一、アール様と一緒にこんな格好で――あの噂が事実なんだってスキャンダルになってしまうのでは?」
「スキャンダル? そうか、キミに迷惑をかけてしまうね、それはさすがに良くないか。」
「迷惑だなんてとんでもないです、むしろ、お相手が”アール将軍様”なら私は全然構いませんわ♥」
と、ラミキュリアは美しい立ち振る舞いでアールをさらに誘惑した――
「本当に素敵だね、ラミキュリアさんは。
そういうことならちょっと付き合ってもらってもいいかな?」
アールはラミキュリアの耳元でヒソヒソと話をした、すると――
「えっ、アール、将軍様――」
ラミキュリアは嬉しそうな様子で口元を手で押さえながらそう言った。
「ふふっ、そういうことさ。
私は目の前にいるセクシーな美女にはまっている、だから――」
すると、アールはラミキュリアのことを抱きしめ、そして顔を近づけると……。
その後、彼女はあまりの嬉しさにアールに向かって虚ろな目をしたまま見つめ続けていると、
アールもまた、彼女のことを虚ろな目で……ということはなく、
どういうわけかいつも通りの得意げな表情でにっこりとしながらラミキュリアを見ていた。
彼女はそのままアール将軍のお姫様抱っこによって抱え上げられ、楽しい楽しい時を満喫していた。