ガレア軍の話が終わると、次はヘルメイズ軍の紹介である。
「改めて言うことになるが、私はグラント副将軍、父であるグレスト将軍の補佐として動いています」
先にも言ったように、グレストはかなりのお年を召しており、体調の問題で今回は欠席ということだ。
そう言ったこともあり、ヘルメイズの実権を掌握しているのは実質的に息子のグラントである。
「私はヘルメイズ東軍隊隊長、ベーレスだ」
「私はエラルド、ヘルメイズ西軍隊隊長をやっているものです」
ヘルメイズは伝統的に、東軍と西軍に分かれて隊を指揮しているらしい。
その2隊を指揮しているのが彼らであり、その2隊をまとめているのが、グラント副将軍やグレスト将軍なのだ。
しかし、それ以上にヘルメイズ軍の個性を色濃くしている部隊がいた、それが彼ら――
「私の名はベルメイア、ヘルメイズ軍所属近衛兵隊<メイローザ>のリーダーでございます。
そして、私の背後の3名はメイローザの隊員であり、私の部下でございます。以後、お見知りおきを――」
薔薇が似合いそうなベルメイア、なんとなく、アール将軍に近いものを感じる。
彼の姿はどことなく、赤い薔薇を思わせるような派手ないでたちだが、
古い時代のディスタード王国の王国貴族を思わせるような服装だった。
そんなベルメイアだが、アール同様に女性受けするようなタイプの性格で、浮名を流しているようだ。
しかし、それでも性格にやや問題があり、一部では”ガッツリスケベ”などと呼ばれているらしい。
そんな彼だが、アールのことをライバル視どころか敬愛しているようだった。
さらに――
「僕はアルファイドです、よろしくお願いします」
彼の服装は男性の貴族服と女性貴族のドレス姿の折衷となっていた。
これはやはり、メイローザは王国貴族の華やかな時代のそれを意識し、男女2名ずつの編成を考えてのことで、
彼がこの服装をしているみたいだった。
しかし、その彼の顔と言えばイケメンというよりは童顔な可愛い男の子というイメージ、
ラミキュリアはイケメンとは違うそのカテゴリの男の子に食いついていた。
そして――
「私はシルビーヌっていうの、よろしくね♪」
それに対してアール将軍は答え、指摘した。
「お嬢様、よろしく。
ってかグラント、そっちにもきちんと女性を連れてきているじゃないか?」
グラントは手を振って答えた。
「いやいやいや、これは単に世の中に遅れまいとして彼女を起用しただけのことさ、まさにガレア軍に倣ってね。
無論、能力は保証済みだ、そうだろう、ベルメイア?」
それに対してベルメイアが答えた。
「左様、我が妹ながら、流石と言うべき能力者です。
だがしかし――それでもやはり、ガレア軍は先進的と言えるでしょう。
ガレアは花の都とも言われております、それに――何とも、神々しい――」
ベルメイアはそのままラミキュリアの前に来ては跪き、こう言った。
「まさか、あなたのような美しい方が帝国内にいるとはなんたる奇跡――」
すると、アールが圧をかけながら言った。
「キミも女性を見る目をもっと養いなよ。そうすれば、運命の人に出会えると思うよ。
もっと言っておくと、今回は会議で招集している状況なんだし、状況をわきまえて愛を奏でるのはここまでにしておこうか。」
そういうと、彼は素直に従った。
「はい、アール将軍様! 仰せのままに――」
なんでこの人までアール将軍”様”なのだろうか、やたらと気になった。
「あいつは気障で面倒くさいけど、使えるやつだから覚えておくといいよ。」
と、アールはラミキュリアに耳打ちした。確かに、そんな印象を受けたラミキュリアだった。
「私も以前、口説かれたのですが――正直、面倒な人です――」
ジェレイアはそう漏らしていた。
「まあ、ジェタさんクラスだと、ああいうのは眼中になくなるから、そうかもしれんね。」
確かに。
ちなみに、触れられることがなかったメイローザ隊にはもう一人のオルファスと呼ばれる者がいた。
彼もまた、女性とくれば見境のないという存在だが、ベルメイアに比べるとそこまであからさまな態度をとらないため、
こちらは”ムッツリスケベ”と言われているんだそうだ。
最後に本土軍の管轄だが、グリモッツという人物が1人しか参加していない。
それに対してアール将軍が気さくに話をしていた。
「いつも大変だね、グリモッツ君。」
周りに圧倒されていた彼は、恐る恐る話をしていた。
「す、すみません、アール様にグラント様、我が管轄については――」
グラントとアールがそれぞれ答えた。
「気にしなくていい。
そもそも、本土軍については今に始まったことではないからね――」
「そうだよ、本土軍がそう言う方針なんだ、致し方ない。
大体キミは、何番目だっけ? 確か、位階は頭から58番目と言ってたっけ?」
グリモッツは答えた。
「えっと、32番目になりますね――」
アールは驚いた。
「えっ、まさか、昇進したの? それはそれは申し訳ない――」
グリモッツは慌てて否定した。
「いえいえ、滅相もない!
ただ、上位の者がそれだけいなくなったというだけでございます。
実際には35人の首がはねられたり、行方不明になったり、私よりも下の位階へと降格させられたりとしたのですが、
その代わりに私の上に9人が入りましたので、単純計算でそう言うことになりますね。
私については全く変わりありませんので心配には及びません!
それに――この場であれば、好き放題に話をすることができますので、私としては何よりでございます!」
本土軍に対してフラストレーションがたまっている人の典型である、それだけ不満を持つ者が多い一例だった。
「それで、私は何をしましょうか!? 引き続き、本土軍の監視を続けましょうか!?」
ということで、彼は本土軍の中における一定の地位を得ている存在であると同時にガレア軍とヘルメイズ軍寄りのスパイでもあった。
「まあ、それについては追って話すことにするよ、近いうちに大きな作戦を考えているからね。
それよりも、今は本土軍よりも気にしなければならない勢力がある、
帝国内で話をするのだから、今回は建前を満たすうえでもそっちのほうを話すべきにしておこう。」
そう言われたグリモッツは近いうちに大きな作戦のほうに期待を寄せていた。
「だけど――申し訳ないね、へそ曲げちゃったかな!?」
アールはグリモッツにそう言うと、彼は――
「ええ、あんな光景を見せられるだなんて――ベイダ・ゲナ様はさぞお怒りになられることで――」
といいつつ、彼は底意地の悪そうな邪悪な顔へと豹変させると、改めて答えた。
「ヤツのあんな悔しそうにしているザマを見られるとはすがすがしい気分だぜ!
流石はアール将軍様! 野郎にあんな仕打ちをすることができるのはあなた様を置いて他にはいない!
野郎の不幸はまさしく蜜の味! ク○のベイダめ、ザマアミロ!」
これは、余程のフラストレーションがたまっているに違いない――一同は冷や汗をかいていた。