戦争はさらに過激さを増していった。
その中でガレア軍が問題としているのは、ディスタード帝国の本土軍と、
最近勢力を伸ばしてきているエダルニウス軍、以前はエダルニア軍だったのだが、今ではそう呼ばれるようになったらしい。
そして、その問題はエダルニウスに加担している存在だった。
エダルニアと言えばロサピアーナと呼ばれる国とは同盟国、
ロサピアーナといえば今はクラルンベルと呼ばれる隣国に軍事侵攻をしてまだ記憶に新しい情勢だが、
加担している存在についてはロサピアーナだけではなかった。
ある日、アール将軍はマウナで行われることになったディスタード帝国の軍事パレードに参加し、そのあと、
帝国のお偉いさんの集う会議へと出席した。
その場には、あのラミキュリアらも参加することになった。
彼女は真紅のドレスを身にまとい、周囲を沸かせていたのだが、すごく緊張したようだ。
「美人の秘書抜きでは仕事が回らなくなったから同席してもらうことになった、悪いね。」
アール将軍様の上手さときたら……ラミキュリアはますますその気になっていた。
しかし、肝心のディスタード帝国のお偉いさんがアール将軍しかいないというので、
なんだか腑に落ちなかった一行である。それどころか皇帝さえも……
「この手の会議は大体みんな参加しないよ。
参加するのは基本的に私と、今は亡きマウナの将ダイム、ほかの2管轄については将軍が直々においでになることはない。
ヘルメイズのグレストは多分そんな身体じゃあないだろうし、
本土軍のベイダと皇帝に至っては……我々みたいな下々の存在と一緒にしないでほしいとか、多分そういうレベルだよ。」
マウナの将ダイムは……まあ、この際言わないことにするにしても、
最後の2名についてはなんだか酷い理由だった。しかし、アールは話を続けた。
「ところでグラントさん、守備は如何?」
アールが話しかけたのはヘルメイズ軍のグラント副将軍である。
今アールの言った通り、ヘルメイズにはグレスト将軍という軍の総責任者だけれども、
彼は結構なご高齢、もはやまともに動けるような状態でもないようで、
ヘルメイズの実権は事実上その息子であるグラントが握っており、将軍の代わりに彼が来ていた。
「アール将軍! その節はどうも……と言いたいところですが、こうして面と向かって会うのは初めてですね。
改めてとなりますが、私はヘルメイズの副将軍グラント=バレディスと申します、以後、お見知りおきを――」
それに対してアールは首を横に振って話した。
「いえいえそんな、何をおっしゃいますか。
私らはそんな、ディスタード帝国カーストの下の下ですから、そんな――」
それに対してグラントは首を横に振った。
「まさか、そんなことはありませんよ。
確かに、ガレアについては新規勢であることは否めませんが、
これほどの短期間において、ルーティスやアルディアスとの終戦に協定、
フローナスやルシルメアとの連携協定など、目まぐるしく活躍されているではないですか――」
するとグレスト、周囲を確認しながらアールに近寄ってヒソヒソ話をし始めた。
「聞きましたよ、実は表向きは連携協定などと言っておりますが、
ルーティスやルシルメア、フローナスとは和平交渉として平等条約を結んだこと、
そして、アルディアスに至っては平等条約に、その裏ではマウナ軍を攻め落として自分の領土にしてしまったことをね――」
それに対し、アール将軍はすっとぼけたような感じで訊いたが、グレストは――
「アール将軍様もお人が悪いですね、
我々が放ったスパイを気にすることもなくガレア軍に忍ばせているではないですか、
すべては聞き及んでおりますよ。
無論、我々は味方ですので、次なる一手をいつも楽しみにしておりますよ――」
そう言うと、グラントはそのまま笑いながら椅子のほうへと座っていった。
そして、ガレアのメンツとヘルメイズのメンツ、
最後に本土軍のメンツも揃ったので、会議は始められた。
「さて、これで全員がそろったみたいだから一応紹介しておくよ。
まず、私がアール将軍、初めての人ばかりだと思うけれどもまだまだ新参者で右も左もわからない状態だからよろしく頼むね。」
いやいやいや、いきなり何の冗談だこいつは。
先ほどのグラントが言っていた通り、目まぐるしく活躍しているではないか。
それなのに――そういうこともあってか、その場は沸いていた。要するにつかみのネタというやつである。
ともかく、アール将軍はガレア軍の総責任者、彼なくしてガレア軍は成り立たない。
「私はルヴァイス=ランスロットです。副将軍をやらせていただいております」
ランスロットと言えば知らない者はいない名前である、そう、彼の父はディアス=ランスロット、
ガレアの前身であるランスタッド軍の将であり、ルヴァイスはその息子である。
「ガレア軍基地の受付嬢と、それから将軍秘書をさせていただいております、
ラミキュリア=クアルンキャッツと申します、以後、お見知りおきを――」
3人目は彼女、彼女に対してはすでに何人かの男性が食いついていたようで、大勢の男の人が見入っていた。
「なんだか悪いね、どうせだったらもうちょっと露出の少ない恰好をさせた方がよかったかな――」
状況を見かねたアールがそう言うと、グラントが答えた。
「いやいや、そんなことはともかく、やはり、今の帝国は昔とは違うということの表れかと思ってね――」
彼女の容姿に見入っているだけという男もいるようだが、
それ以外に、帝国に女性が、この場に座るほどの重鎮たらしめる女性がここにいるということが、
彼らにとって斬新なことだったようだ。
女性ぐらいはいる、だけど、そのほとんどが雑用などの下っ端で、男性同等の扱いを受けさせてはもらえない。
しかし、ガレアはその点で大きく異なるのだ、女性でも幹部クラスの人が所属している、
だから、ガレア以外の人にとって、彼女や次の女性の存在は、もはや革命と言っても過言ではなかった。
そして、その次の女性と言うのが――
「ガレア軍の戦略総隊長として指揮をとっております、ジェレイア=ランドブリームスと申します」
ジェタは男顔負けの、いつもの調子ですごい気迫の軍人的なあいさつではなく、
ジェタ改め、ジェレイアお嬢様は名家の優雅なお嬢様風の姿をして目の前の男たちを圧倒していた。
それに対してグラントが指摘した。
「なるほど、いつもはジェタ総隊長として厳しそうな感じの例のお姿を拝見しておりますが、
これはこれでなかなか素敵なお姿でございますね、流石はランドブリームス家の――」
と、グラントが言うと、ジェレイナはほほを赤らめながら一礼して応えた。
「彼女は優秀だ。それ以外に説明可能な言葉は見当たらない。
そんじょそこらの男よりも遥かに頼りになる、格が違うんだね。」
と、アールが続けて説明すると、ジェレイナはさらに恐縮していた。
「最後は俺だな。エイジだ。ガレア所属の科学研究所の最高責任者だ。
まあ、そういう関係で戦術会議の顧問もしている、よろしくな」
それに対してグラントが反応した。
「おお、あなたがエイジ殿か! 確か、アール殿とは、同期でいらしましたね?」
実は、アールとエイジが帝国に入隊した当時の所属軍はヘルメイズ管轄だったこともあり、
この2人のことは話題になっていた。
その2人が、今や1つの軍を動かし、そして、各国に大きな存在として影響を与える存在となっている、
そう言ったこともあってかヘルメイズ軍にとって彼らは伝説の存在にも等しい存在であり、
希望の星であり、あこがれの存在となったというのだ。