エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

遥かなる旅路・天使の舞 第3部 存在していた物語 第4章 苦悩する者

第65節 苦労を分かち合う者

 ある日のこと、とある男がフラウディアのいるところへと呼び出されていた。 ゴレイアスとリオメイラ、そして、それ以外にもいくつかの国を自らの手中に収めていたフラウディアは、 もはや司令官としての座も与えられていた。
 基本的には上司となるネストレールから指令を受けるのだが、それ以外にも、 自ら指令を与える側としても機能していた彼女。
「さあ、そこに座ってくださいね♪」
 フラウディアは可愛らしい様相で男にそういうと、男は促された椅子へと座った。 だが、しかし――
「ウフフフフ……」
 フラウディアの急な豹変に焦っていると、自分が座っていたはずの椅子がなんと、急にベッドに変わっていた!
「なっ!? こっ、これは……!?」
 男は狼狽えていると、ローブ姿だったフラウディアが男の目の前に立ちふさがった。 ローブ姿だが、以前とは違って完全に隠してはおらず。 例のヤバイセーラー服姿を完全に隠すつもりなどなく、自らのセクシーボディをアピールしていた。
「うふふっ、こういう魔法なのよ。 便利でしょ、自分が座った椅子が実はベッドになっていて、 これからこのアタシとたぁっくさんイイコトができるだなんて、アンタだって願ったりかなったりでしょぉん♥」

 その後、男の頭からフラウディアの声が頭から離れることはなかった――。 彼女のその声は、ユーラル大陸の侵攻作戦に参加せよという命令である。 本土軍の最終目的は、クラウディアスという大国を攻め落とし、エンブリアの真の支配者となることだが、 その国がなかなか落とせないでいる。 そのため、ユーラルという資源も豊富な国を攻め落とし、クラウディアスを攻め落とすための準備をしているのである。 そこで、フラウディアに与えられた指令はほかの男たちを誘惑し、ユーラル侵攻作戦に参加させる駒を作れというものだった。 だが、そこはディスタード帝国内ではなく、あのルシルメアの都の一角であった。
 ルシルメアで別の人員を確保するためにやっていたフラウディア、 ハンターに依頼を出し、そのハンターを虜にすると、そいつを手ごまに戦争へと参加させることにしたのである。 無論、そういう依頼はハンターに依頼してもすぐに受け入れてくれるとは限らない。 そもそも、ディスタードは侵略国家として悪名高いため、 ハンター側ではディスタード関連の依頼については一切を拒絶しているのだが、 そのクライアントが男を指定する魔性の女となると、もはや言いなりにしかならない。

 そして休暇を与えられたフラウディア、またしても1人、家の中で落ち込み泣きながら悩んでいた。
「結局私ってば、こういう女として生きていくしかないのかな――」
 任務だと割り切っている間、そして、魔女が豹変している間は悩むことなく、 魔性の女が欲望の赴くままに活動しているが、そうでない場合は自らの存在に悩む純真な女の子へと戻るのである。 確かに女でありたい自分、あれを感じれるのは女であるからこそであり、 一度魔女へと豹変すると歯止めが利かなくなる――
 しかし、あれを感じること自身に嫌気もさしていた。 だって――それはそうだ、見ず知らずの男たちに春をばらまいている行為、 なんでそんなことをしないといけないのか、もはや苦痛でしかなかった、 自分にも選ぶ権利はあるというのに、これではただの娼婦ではないか。
 そう思うと――なおさら苛立ち、泣かない日はなかった。

 するとそこへ、とある訪問者がやってきたのである。
「ハロー! 元気してたかな?」
 フローラ姉様! フラウディアはモニタで訪問者を確認し、 玄関から思わず飛び出すと、彼女に抱きつこうとした、しかし――
「あっ、お姉様、お久しぶりです――」
 フラウディアのテンションは急激に下がった。 彼女に抱きつくなんてダメだ、彼女の中の何かが歯止めをかけた。
 すると、その様子を察し、フロレンティーナが話をし始めた。
「やっぱり、そうだったのね、たくさんの男を抱いたんでしょ?  それでユーラルに何人かのハンターたちが送られてきたわ。 みんなうつろな目をして、みんな女神様のために……とかブツブツ呟いていたわ――」
 それに対し、フラウディアは申し訳なさそうに言った。
「そうなの、実はね。私の中に、とんでもない魔女がいるの。 で、そのせいで私は淫らな女になっちゃった。 こんな穢わしい女じゃあ、お姉様に触れたらいけないよね――」
 すると、フロレンティーナはフラウディアを優しく抱きかかえた。
「んーん、そんなことないわよ、私だってたくさんの男に身も心も奪われた魔女なんだからね。 だからむしろ私、フラウディアと同じだと思ってほっとしちゃった、本当はほっとすべきところじゃないんだけどね」
 実のところ、フロレンティーナも彼女と同じ気持ちであり、フラウディアに抱きつくのを躊躇らっていたのである。 しかし、同じ苦労をし、同じ苦悩を抱える者同士であることを悟ったフロレンティーナは、 フラウディアに寄り添うべきだと思い、抱きかかえた。
 そして、それによってフラウディアは一気にぶわっと涙があふれ、フロレンティーナの胸の上で泣きじゃくっていた。
「あらあら、こんなところで泣かないで――」