それから数年後、彼女はとあるプロジェクトのためにまた研究所へと呼び出されていた。
「ようこそおいでくださいましたフラウディア様! ささ、どうぞこちらへ!」
フラウディアは手厚く歓迎されると、そのまま建物の中へと招き入れられた。
すると、どこかの会議室みたいなところに出てきたが、そこにはゴージャスなソファが置いてあった。
しかし、以前とは違い、もっと豪華な毛皮のソファだった。
フラウディアは座るように促されると、真ん中にやっぱりおとなしくちょこんと座った。
でも、今度は一体、何をするのだろうか、フラウディアはとても気になっていた。
すると、パソコンから接続されているプロジェクターから、何かが映し出された。
「えっ、”半・女性化計画について”?」
女性化計画――お題目こそフラウディアにとってはそそるものがあったが、”半”というのはやっぱり――
「今後、リオメイラを我らの土地とするために攻略なさるそうですね!
我々もそのために今回のプロジェクトにまで携われるとは本当に鼻が高いですよ!」
副所長がそういうと、研究所員たちは歓喜していた。
そう、フラウディアは次の指令として、リオメイラと呼ばれる地の攻略を任ぜられたのである。
さらに副所長は話を続けた。
「しかし、リオメイラは女が支配する国と聞きます、まことにけしからんことですな。
そこで、我々のフラウディア様がその女に本当の美というものを知ら締めさせるという計画であると、
ネストレール様より仰せつかっております」
そうなの? フラウディアはそんな計画であることを初めて知った。
リオメイラは、今度はいつぞやのゴレイアスとは違い、トップが女性なのである。
ちなみにゴレイアスだが、フラウディアの毒牙にかかったまま部下たちに滅茶苦茶な命令を出したことで、
ゴレイアス自体が財政破綻、そのままディスタードの支配下として成り下がってしまったのである。
まさに魔女の所業と言うに相応しいものである。
話を続けよう。
「ところが残念なことに、リオメイラはそのけしからん女こそがその国の男たちのすべて、
けしからん女を中心に男たちが回っている国であるという話でございます。
そう、フラウディア様はベイダ・ゲナ様の侍従でございますからあくまで男、
男がうつつを抜かせるのはあくまで女であるという問題がございまして、
ご存じの通り、ベイダ・ゲナ様が女を最も毛嫌いする理由としてそこがあるからにございます――」
それに対し、周りの研究員たちはどことなく憤ったような態度だった。
「もちろん、フラウディア様は我々の希望であり、我々の女神でもあらせられる方!
今のままでも十分であることは間違いないかと存じますが――
やはり、今度の相手は女である以上、より確実性を高めよというネストレール様のご命令もございます。
そこでです、今回のプロジェクトである”フラウディア様半・女性化計画”が発足したのですな」
すると、周りの研究員たちは拍手した。でも、その点にはフラウディアもちょっとときめいていた、確実性を高める身体に?
計画を実行するかどうかは別にしても、それほどの身体になれるというのならフラウディアとしても喉から手が出るほどの素敵な話である。
「具体的な計画につきましては、早い話、女に対して女を差し向けるために準備をする計画ということです。
しかし、フラウディア様はベイダ・ゲナ様の侍従、女という汚らわしき存在にするわけにはまいりません。
そのため、”さも女性であるかのような美しい存在であるフラウディア様”を作り上げるため、我々に白羽の矢が立ったのでございます!」
再び研究員たちは歓喜していた。
そう、お判りいただけたであろうか、わざわざ男児を幼子から女性として育て上げる理由を。
早い話、本土軍の将であるベイダ・ゲナが大の女嫌いであり、女とあらば見境なく処刑するだのなんだのと暴れるのである。
そのため、特にその配下たちは常に神経をすり減らしており、
本土軍には女性が出世するなどという道を閉ざすどころか真っ向から叩き潰しており、
常に末端の存在として成立させているのである。
そのため、フラウディアやフロレンティーナ、そしてマジェーラやエリューネルといった存在を起用し、
女性だからこそという任務を全うさせるためにこれまで育成してきたのである。
そして、今回のプロジェクトはベイダ・ゲナのお気に入りでもある男フラウディアを、
完全な女にするわけにもいかないので、さらに女性のような存在とするために発足したものなのである。
それにはフラウディアもすぐ把握できた。
でも、具体的にはどうするのだろうか、実際のところ、身体は若いころから女性ホルモンを服用しているため、
それなりに女性らしくなっているし、少し前に服用した薬の効果もあって大きな胸も出ている、
とはいえ、一時的なものをなんとか薬を飲みつないで大きさを保っているだけなのだが。
そしてもちろん、ロシュムに辱めを受けさせるために使った、女性にはないハズのものがまだついているし――
あの行為自体はフラウディア自身も辱めを受けているかのような感じだった、
だって、自分は女のつもりであるのに、あんなことをさせられるなんて!
あの時はしばらく夜も眠れず、精神的に不安定な日々が続いた。
すると、自分の中の魔女が出現し、何人かの男たちと戯れたりもした。
もはやあの出来事は黒歴史そのもの――あんなことをさせられるなんて思うと――すると、副所長は答えた。
「いえいえ、もはやあのようなことは二度と起こらないためのプロジェクトでございます!
だからこそ、フラウディア様はここにお越しになられたのです!」
その研究所とは生物兵器研究所、ディスタード本土軍ではまさに神を恐れぬ実験として道徳的に外れている生物実験、
特に人体実験を行っている場所だった、まさに外道の極み――フラウディアの中でもそのような認識で通っていた。
今回は自分に対し、実験でもするのだろうか、彼女は困惑していたが――
「大丈夫でございます、フラウディア様はベイダ・ゲナ様の侍従でございますため、
既に数多の実験を行った後の被験体となります、すなわち、安全は100%保証されたうえでのこととなりますため、ご安心ください」
安全は100%保証されているということは、
その背景に安全がまったく保障されない犠牲者が数多にいるということである。
それに噂では、あのエリューネルがその中の犠牲者の1人であることをフラウディアは聞いたことがあった。
私のために彼女がまた――そう思うと、やりきれない気持ちがあった。
いや、彼女だけではない、ほかにも多数の犠牲者が――
自分はそんな屍の上に成り立っている存在でいいのだろうか、毎日のように悩みぬいていた。
だが――ここでそんな迷いがあると、再びムチの餌食に――
仕方なしに計画のための被験体となることを――もはや選択する余地があるわけではないが、
とにかく、嫌なことには目を瞑り、何も気にせずに言われるがままにすることにしたフラウディアは、
そのまま計画を続行、そして、その実験の最終段階を迎えようとしていた前の日、またしてもネストレールに呼び出された。
「えっ!? 今、なんて!?」
フラウディアはネストレールに聞かされた命令に耳を疑い、口に手を当てたまま佇んでいた。
「聞こえなかったのか? いいからやるんだ、それが”フラウディア様半・女性化計画”の最後の仕上げだ。
まさか――本当に聞こえなかったわけではあるまいな?」
ネストレールはそう言いながらムチを激しく地面にたたきつけた、それと同時に――
「いやぁ! やめてぇ!」
フラウディアは後ろを向いてうずくまり、両手で頭を抑えながら悲鳴を上げていた。
「だったらつべこべぬかすな! やれと言ったらやるのだ!」
ネストレールは再びムチを激しく地面にたたきつけた。
「はい! 承知いたしました! 必ず実行いたします!」
ネストレールはフラウディアが去ると、ムチを片付けながら愚痴をこぼしていた。
「フン、あの金の亡者共め!
毎度毎度、便宜・便宜・便宜・便宜・便宜と、懐の話ばかりしおって!」
そして、椅子に座って落ち着くと、不敵な笑みを浮かべていった――
「だが――これでやつらもおとなしくなることだろう、ククク……」