エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

遥かなる旅路・天使の舞 第3部 存在していた物語 第4章 苦悩する者

第61節 密かな思い

 それはある日の出来事、とある幼子は背中をムチで至極叩かれた後で、ずっと泣いていた。
「大丈夫?」
 その幼子は、少し年上の子にそう言われると、泣いている理由を言った。
「怖い人がムチで叩くの、スッゴク痛いの。 お前は女の子だ、女の子みたいに悲鳴を上げるまでずっと叩き続けられるんだって――」
 すると、年上は諭すように言った。
「私もそう言われてた。 でも、気が付いたら女の子みたいな悲鳴を上げてて、それで褒められてたよ。 大丈夫、私も女の子みたいな悲鳴を上げる前の日にはあなたみたいに泣いてたから、 あなたも明日はちゃんとうまくやれるハズ――」

 それから少し時が経ち、2人は話し合っていた。
「痛い……」
 年上のほうが泣きながらそう言うと、年下のほうは言った。
「うん、痛いね、本当に痛いよね、どうして痛いことするんだろう――」
 それに対し、年上のほうは痛みに勢いを任せ、少々怒り気味に言った。活発で生意気な女の子のようである。
「それはちゃんと言うことを聞かせるために決まっているでしょ! 他に何があるのよ!」
 すると年下のほうは――
「ふぅん、そうなんだ。 でも私、女の子になれって言われて、本当になっちゃったけれども、むしろ今のほうが楽しいよ?  男の子たちと違って可愛いお洋服だって着させてもらえるしさ」
 こちらはおとなしい女の子だった。
「はあ、あなたって本当に能天気ね、 だいたい、女の子になれって言われたって本物になるわけじゃないんだからさ――」
「えっ、そうなの? っていうか、だったら本物ってどんなの?」
 そう言われた年上は少し困っていた。
「えっ、いや、本物っていうのは、もっとこう――まあともかく、 私も詳しいところはよく知らないけれども、とにかく、私たちとは身体の作りが違うらしいのよ!」
「えっ、そうなんだ――じゃあ私も本物になりたいな――」
「それはムリよ、だって、ベイダ様がお許しにならない! いいこと?  私たちは本物の女のようにふるまう男にしかなれないの!  そうでなければ生きられないのよ、わかった?」
「わ、わかった、でも――私はいつかきっと、本物になりたいな――」
「はあ……、あなた、ちっともわかっていないようね――」

 さらに少し時が経ち――
「ほんっとに痛い! もうやだ! 絶対に嫌だ! 最低! いつかこんなとこ、辞めてやるっ!」
 年上がムチに叩かれ、すごく痛がっているところに年下が現れると、年上は焦った。
「はっ!? あっ、いや……今のはウソウソ! 冗談だよ冗談!」
 辞めると言うのはタブーの一つだった、それがわかれば再びムチ打ちの刑なのだから。
「辞めたいの?」
 年下がそう言うと、年上からは、思わず涙があふれてきた。
「本当にやだよぉ~! こんなとこぉ~!」

 年上はそのあと落ち着き、2人で話をすることになった。
「にしてもあなた、本当に可愛いわね、本当は本物の女の子なんじゃないの?」
「ううん、あなたと同じ、男の子と同じものが付いているよ。 やっぱり、これがあるってことは私たち、本物じゃあないんだよね」
 すると、年上は目を輝かせながら言った。
「でも、あんたはやっぱりすごいよ! だって、最近はほぼムチで打たれてないじゃん!  要するに、みんなから女の子だって思われているってことじゃん!」
 それに対し、年下は言った。
「でも、あなただって女の子だよね?」
「そんなこと――私は、ムチに打たれているから――」
「でも、それって、あの人たちが考えている理想でしかないよね?」
「えっ、うん、そうなの……かも……」
「だよね! だから……なんか、変なの――」
 すると、年上は気さくに言った。
「あんたってやっぱり優しい女の子よね。でも――そんなあんただから何でも話せちゃう」
 年下も楽しそうに言った。
「や、優しい、かな――でも確かに、私もたまーにつらい時があったりしても、あなたになら何でも話せちゃうし――」
 そしてお互いに笑っていた。
「あっ、そうだ、名前!」
 年上のほうはそう言うと、年下のほうは首を横に振りながら言った。
「私は認識番号096872番、それ以外の名前なんて与えられてないよ、 昔使ってた男の子の名前は名乗るなって言われているし、 それに、なんて名前だったかも忘れちゃったし、私は女の子だから、男の子の名前は使えないよ」
「違うよ、そろそろ自分の名前を考えないといけないのよ、忘れてた?  そうでなければあの人たちが勝手に決めるって言ってたしさ――」
 そう言われると、年下のほうはそのことを思い出した。すると、年下は話し始めた。
「私ね、クラウディアスっていう場所に行ってみたいんだ――」
 すると、年上は慌てていた。
「ちょっとちょっと、敵国じゃない! なんでそんなところに!?」
「うん、敵国だよね。 でも、敵国ってどんな国なんだろうと思って本で調べたら――大自然の真ん中に可愛いお城があって、 そして、その周りには可愛いお花がたっくさん咲いているの!」
 年下は興奮しながらそう言った。すると、年上は釘をさすように言った。
「で、つまり、クラウディアスって名前にしたいってワケ?  それはそれで流石に許可が下りないんじゃ――またムチで打たれるよ?」
「うん、わかってる。だから――どうしようかな――」
 すると、年上のほうは近くに植えてある花を眺めながら言った。
「お花か――私だってお花は大好きよ。 確かに――この花が似合う素敵な女性になってみたいわね。 許されない行為かもしれないけれども、ベイダ様に尽くし、そして、すべてが終わったら―― いつかきっと、そんな女性になってみたいと思う――」
 すると、年下のほうは思いついた。
「そうだ! じゃあフラウディアにしよう!」
「フラウディア?」
「そう! クラウディアスとフラワーを取って、フラウディアにする!」
 年上のほうはにっこりしながら言った。
「あら、なかなかいい名前じゃない。 じゃあ私も、花に因んで――そのままフロレンティーナって名前にしようかしら?」
「いいね! スッゴク可愛い!」
 再び2人で笑っていた。
「いつかきっと、2人でここを飛び出したら素敵な女性になるよ」
「ウン! その時までは、少しぐらいムチに打たれても平気だよね!」
「え~!? ムチはやだなぁ~」
「わ、私も本当はヤダけど――」

 フラウディアとフロレンティーナはある程度の年齢に達すると、試験というものを受けさせられていた。 そして、その日は合格発表の日である、そう、”特定エリート女人プロジェクト”の結果発表である。
「認識番号096858番! 前へ!」
 それに対し、フロレンティーナが大きく返事をし、前へ出た。
「やったね、フローラお姉様! 合格おめでとう!」
 フラウディアは小さな声でそう言うと、フロレンティーナはフラウディアの顔を見ながらにっこりと微笑んでいた。 フロレンティーナはそのまま上官のもとへと行くと、ムチを渡されていた。
「お前を縛るムチは今後、ゲイスティールの手にゆだねられる、しっかりと期待に応えるのだぞ!」
 上官がそう言うと、フロレンティーナも元気よく返事をして戻っていった。 お前を縛るムチとは――そう、これこそがフロレンティーナの”トラウマのムチ”であり、 彼女のムチはゲイスティールが握ることになるのである。
 ちなみに、彼女に手渡されたムチは支給品で、彼女の成績がどの程度のものであるかを示すと同時に、 今後の別の者の”トラウマのムチ”となるための役割としても担うのである。
「それ、成績上位の人に与えられるムチ!?」
 フラウディアはフロレンティーナのムチを見ながら驚いていた。 ムチは赤い色のムチだった、赤い色のムチは成績が良いものに与えられるムチである。
「みたいだね、このムチを使ってたくさんの男たちを手玉に取れってことだね!」
「うん! フロレンティーナは美人だから絶対にうまくいくよ!」
「ありがとう! 私、頑張るね!」
 そして――
「認識番号096864番! 前へ!」
 それに対し、一人の女が大きく返事をし、前へ出た。
「あれ、誰?」
 フロレンティーナが首をかしげながらその女を見ていた。
「誰だろう、私たち以外にも女の子がいたんだね、 てことはやっぱり、私たちと同じってことかな?」
 フラウディアがそう言うと、フロレンティーナは「多分そうかも……」といった。
「一緒に仕事をすることがあるのかな?」
「多分……ね。なんていうか、ちょっとキツい目をした娘ね――」
 ムチの色は黄色で成績中位の人に与えられるムチだった。 そのムチを与えられた娘こそがマジェーラだった。
 さらに立て続けに――
「認識番号096867番! 前へ!」
 これも女だった、大きく返事をし、前へ出た。
「あれぇ? 2人もいるの?」
 フラウディアも首をかしげていた。
「案外いるものなのね――」
 ムチの色は青色で成績下位の人に与えられるムチだった、彼女がエリューネルである。
 そして――
「認識番号096872番! 前へ!」
 フラウディアが呼ばれた。
「ほら! 行ってきな!」
 フロレンティーナはフラウディアにそう促すと、 フラウディアは少々驚き気味に立ち上がり、その足で上官のもとへとやってきた。すると――
「お前を縛るムチは今後、我らがベイダ・ゲナ様の手にゆだねられる! 常日頃から光栄に思い、その胸に刻み込むのだ!」
 上官がそう言うと、フラウディアは小さな声で「えっ!?」と言いながら戸惑っていた。 すると、それと同時に周囲から大きな拍手が。
「うそ!? 私が、ベイダ・ゲナ様の!?」
 フラウディアは戸惑っていた。ベイダ・ゲナ様ということは、 その側近の中ではナンバー・ワンの座位であるネストレールにゆだねられるということである。 だから、彼女はそこにいるのだ。
「さあ、ムチを取りなさい」
 上官はそう言うと、フラウディアには緑色のムチが与えられた。 すると、周囲はさらに大きな拍手が巻き起こり、喝采に包まれていた。
「すっごーい! 成績最優秀者に与えられるムチじゃん! さっすがフラウディアだね!」
 フロレンティーナは興奮しながらそう叫んでいた。