フラウディアは身体が燃えるように熱かった。
そして、自分の目の前のありとあらゆることが徐々に崩れて行く――
辛い……苦しい……もう嫌だ……フラウディアの頭の中にはネガティブな感情のみで埋め尽くされていた。
どうすればいい、どうすればいいの……?
するとその時、どこからともなく誰かのささやき声が聞こえてきた。
「あなたは”特定エリート女人プロジェクト”の成績最優秀者でしょ、何を迷っているのよ?
まさか、自分の夢をこんなくだらない形で終わらせるつもりなのかしら?」
そ、そんなわけは――フラウディアは苦しんでいた。
「バカねえ、あなたは選ばれた存在なのよ、何を躊躇らっているのよ?
あなたがやろうとしていることは選ばれし者のみに与えられた選ばれし任務なのよ。
そもそも、あなたの夢はなんだったの? プロジェクトの成績最優秀者として選ばれること?
それじゃあ、あなたは決して本物にはなれない。本物になるためにはどうすればいいかわかるでしょ?」
本物になるため? フラウディアは思った、違う、私が本物なんだ、誰にもノーとは言わせない。
そうよ、私はプロジェクトの成績最優秀者、でもそんなもの、ただの通過点に過ぎない。
でも、ここでは結果こそがすべて、プロジェクトの成績最優秀者と言われたこの女の能力を示すことこそが道理――
フラウディアはそう考えると、彼女の中ですべてのものが完全に崩れ去り、そこには別のフラウディアという存在が生まれたのである。
「あっ、あの、大丈夫ですか? 人、お呼びいたしましょうか?」
我に返ったフラウディア、男のその問いに対し、ゆっくりと顔をあげながら答えた。
「えっ? あっ、はい、私は平気です、それよりももっとお話ししませんか?」
フラウディアは汗こそびっしょりとかいているが、
その時の表情は何事もなかったかのようににっこりとした笑顔であり、男は狼狽えていた。
「えっ!? あっ、お話ですか? というか、本当に大丈夫ですか?」
「はい、私は平気です♪」
そして、話を続けた――
「で、ですが、お話と言われましても、いったい何を――」
「ですから、本土軍の男性兵士がどのような人なのか知りたいので、教えてほしいのですよ♪」
フラウディアの態度は先ほどとは違って妙にノリノリだった。ただ――
「いえ、ですから、その――お話しできるほどの内容は――」
するとフラウディアは急に立ち上がり、男の両腕をしっかりと握りつつ、
自らの大きなバストが形成する深い谷間をアピールすると――
「あらぁ? 誰もあなたの口から話しなさいとは一言も言ってなくってよぉん?」
と、可愛げかつセクシーな様相で男を誘惑するかのように言い放った。
「フ、フラウディア様――!?」
男は再び狼狽えていた、これまでのフラウディアの態度とは打って変わり、
男の目の前にいる女性は、まさにエロい恰好をした女豹にも等しい存在だった。
「ウフフっ、理解力の足らないおバカさんねぇ、
そもそもアタシがアンタに要求しているのはただの情報交換、
アタシはただアンタことが知りたいだけで、ついでにせっかくだから、
アンタにもこのアタシのことをちゃぁんと知ってもらいたいだけなのよぉん♪」
フラウディアはそのまま男に迫りつつ、
自らの大きなバストを男の胸にぴったりとくっつけながら言った。
これはさすがにマズイ、そう判断した男はとっさにフラウディアから離れようと、フラウディアのことを振り払った。
しかし――
「いやぁん! 痛ったぁーい!」
そんなに強い力で振り払ったつもりはないのだが、フラウディアはベッドのほうに勢いよく倒れた。
「はっ! すみません、フラウディア様! 大丈夫でしょうか!?」
男は慌てて再びフラウディアのもとへと駆け寄り、彼女を心配していた。
しかしもちろん、これは彼女の罠――
「やだ、押し倒すだなんて――やっぱり私にそういうことがしたかったのね――」
フラウディアはしおらしい態度でそう言うと、男はビビっていた。
「いっ、いえ、決してそういうわけでは――」
すると、フラウディアは男のスキを突いて体勢を崩させると、そのままベッドへと倒した――
「痛っ……うぅ――」
男はベッドに倒れこむと、フラウディアは男の体勢を仰向けに仕向け、そして――
「ウッフフフ、嘘おっしゃいな。
大体アンタ、さっきからアタシのセクシーな腰の括れとか胸とか腿とかチラチラ見たりして――
本当は触りたくて触りたくてたまんないんでしょぉん、このドスケベ野郎が!」
彼女は男の下半身の上に大股を広げて乗ると、男の視線には、はち切れんばかりの大きなバストが映るが、
その奥には魔性の女全開の邪悪な様相で楽しそうにしている魔女の顔があった、
先ほどのしおらしくて奥ゆかしい、可愛いフラウディア様のお姿はどこにもなかった。
しかし悲しいかな、彼女の言うことは図星であり、露出の多い彼女のその姿は遠慮はしつつも何度もチラチラとみていたその男、
抗えぬ男の性である――
「ウフフフフ、このアタシで楽しいことがしたくてたまらないドスケベさん♪
ほらほらぁ、さっさと本性を現しなさいよ♪ はーやくしないと逃げちゃうわよぉん♥」
「ふ、フラウディア様――」
男はフラウディアの誘惑に取り込まれていった、彼はもはやフラウディア様の言いなりだった。
そのまま成すがままに美しく麗しい女神フラウディア様の御身を――
「ウフフフフ♪ そうよ、それでいいのよ、ようやくアンタのことが知れたわねぇん♪
やっぱりこのアタシにこんなことがしたくってしたくってたまんなかったドスケベのドヘンタイ野郎ってことがよぉーくわかったわぁん♥
お礼にアタシの素晴らしさをちゃぁんと教えてあげるわよぉん♥
どぉかしらぁん? ちゃぁんと思い知ったかしらぁん? ウフフフフ――」
「ヘヘヘヘヘ、フラウディア様! フラウディア女神様ァ!」
「いやぁん! どこ触ってんのよ、このエッチ! ドスケベ! ヘンタイ!
……ウフフフフ、そう言われながら触りたいんでしょ、このドスケベのドヘンタイ野郎が!」
「グヘヘヘヘヘ! 嬉しい、素晴らしい、最高だァ! もっともっとこの俺を蔑んでくださいませ女神様!
そしてフラウディア様のお××いをもっともっと――」
そして、ネストレールたちはモニタのスイッチを切ると、話をしていた。
「……まさか、今のは本当に彼女の”初体験”だったのでしょうか!?
それとも、誘惑魔法の効果でしょうかね?」
研究所員がそう言うと、ネストレールが言った。
「”特別エリート女人”を育成するためのプロジェクトだからあのような魔女ができぬようでは困るのだがな。
とはいえ、そもそも女というやつは得てしてああいう生き物、つまり、あれはあの女の本性だ。
自らの身を多くの男に触れられて快楽を得ようという汚らわしい生き物、だからこそベイダ・ゲナ様に近づくこともかなわぬのが女という生き物なのだ。
我々はあの女の本性を呼び覚ましたにすぎん」
”特別エリート女人”であくまで男に都合のいいエリート女人を育成しているという点は誰も指摘せず、
そして、女がそう言う生き物であることに異を唱えようとするものなどいない、ここはそういう世界である……。
「ちなみに、誘惑魔法の効果についてはある程度実証済みだ。
むろん、効果が弱いのは否めないが――だが、
あの女がひた隠しにしたがっていた誘惑魔法の情報によると、
ラミアは男と寝る回数を重ねるごとに、その効力を強めていくそうだ。
要するに今回のこれはやつが本物の魔女となるための第一歩にすぎん」
ということはつまり――ネストレールは話を続けた。
「そう――女は得てしてそう言う生き物であり、そしてあの女の毒牙にかかった男はたちまちあの女の言いなりとなっていく。
あの女が本物の魔女となる過程で男を次々と襲い、やがてその対象となる男はディスタードのみならず、世界全土にまで及ぶこととなろう。
そうとも! たった今、我々の手でフラウディアという魔女を作り出したのだ!
あの魔女を使い、このエンブリアをかき乱し、ベイダ・ゲナ様、
ひいては偉大なる皇帝陛下率いる我々ディスタード帝国の者が世界の真の支配者であることを知らしめることになるわけだ!
そして、そうなる日もそう遠くはないというわけだ! フハハハハハハ! フハハハハハハ!」
それに対し、ネストレールの側近や研究所員たちは歓喜をあげていた。
それから数時間後、フラウディアは毛布をくるみながら恥ずかしそうに部屋を出てくると、
ネストレールたちが待ち構えていた。
「あっ、あの、私――」
「フラウディア――いや、魔女フラウディアよ、
あの男はお前の妖術の虜となり、もはやお前の意のままの存在だ! よくぞ任務を成し遂げた、ほめて遣わすぞ!」
しかし、フラウディアは――
「私、あんなことをしたくて女になったんじゃありません!」
と、そう言いながらその場を泣きながら去っていった。
「ふん、まだまだ甘いな。だが、じきに慣れるだろう――」
ネストレールがそう言うと、研究所員が話をした。
「とはいえ、本当に”ナニ”をしたわけではないというのに――完全に乙女ですな。
ただ、先ほどの誘惑魔法の効果の話――もしかしたらプロジェクトの成績最優秀者ではなく、
”本物”である必要があるかもしれませんな」
それに対してネストレールは答えた。
「ああ、もしかしたらそうかもしれんな。
だが、ロシュムにはちょっとした”借り”があってな、ゴレイアスの件はこのままいくつもりだ。
まあ、それはお前たちには関係のない話だが――ともかく、そうであれば”本物”のほうの準備を進めるのだ」
「ほほう、すると次の仕事があるというわけですね。
でしたらさっそく便宜のほうを――」
「それは成果が出てから改めて考えることだ」
ネストレールはまさに外道、そしてドケチでも有名だった。