それから数分後、フラウディアは立ち上がり、なんとかその場を取り繕っていた。
だけどこれからどうなるのだろうか、そればかりが不安である。
しかし、突然、男性兵士が入ってきたのでフラウディアは驚いた。
そして、そのフラウディアに対し、男性兵士のほうも非常に驚いていた。
「はっ! これはすみません、私、ネストレール様にこの部屋へと待つように言われたのですが、あなたは一体?」
ど、どうしよう……フラウディアは戸惑っていた。
だけど、相手の男がおそらくターゲット、しかもそれなりにイケメン――
「どうだフラウディア! 今回もまた貴様の好きそうな男を選んでやったぞ! この私に例を言うのだな! ワハハハハ!」
ネストレールはモニタを眺めながらご満悦だった。
もちろん、こちらの声はフラウディア側には一切聞こえないが、反対側には駄々洩れである。
とにかく、その場を切り抜けるためにフラウディアはなんとか挨拶をした。
「わ、私は、ネストレール様の直属の部下の……フラウディアというものです――」
ネストレール様の直属の部下だって!? 男は驚いた。
「えっ!? そ、そうですか……いえ、左様でございますか! これは大変失礼いたしました!」
だがしかし、フラウディアがネストレールの側近であるということになると、一つの疑問が浮上するのである。
それについては後で語ることとして、男は疑問をぶつけた。
「で、ですが、あなた様のようなお方が、ネストレール様の側近ですか!?
ネストレール様といえばあのベイダ・ゲナ様の側近中の側近、そのような方に、あなたのような側近がいらっしゃるとは――」
それに対し、フラウディアは臆せず答えた。
「私は特別なんです。ですがもちろん、ベイダ・ゲナ様に近づくこともかないません。
だからあくまでネストレール様の側近という立場なのです」
そう言われると男は納得した。
「なるほど、左様でございましたか、承知いたしました。それで、ネストレール様は?」
男は本題を切り出そうとした。さあ、どうしようか、フラウディアはどうするかますます悩んでいた。
フラウディアはとにかく、なんとかその場を凌ごうと話をすることにした。
「えっと、実は私、その――本土軍の男性兵士がどのような人たちなのか全然知らなくて、
ですからその、どのような人がいるのか知りたいなと思いまして――」
フラウディアはモジモジした様子でそう聞いた。それに対し、男は――
「どのようなと申されましても、私どもなど見ての通りのただの格下の兵隊でございます。
フラウディア様のようなエリートの方がお知りになるほどの内容ではないかと存じます――
というより、ほぼ想像可能な範囲のものでしかないと思われます。
ですので非常に申し上げにくいのですが、私のほうから話す内容などたかが知れており、
話すほどの価値はないと思いますよ?」
そうなのか――フラウディアはそれ以上どう話を続けようか迷っていた。だが、その時……
「なっ、なんだか、この部屋、暑くありません?」
男性兵士は上着を脱ぎながらそう言った。しかし、フラウディアは首をかしげていた。
だけど、それもそのハズである、フラウディアは気が付いて答えた。
「むしろ下層階は寒くありません? 上層階は暖房が利いていますので、その恰好だと暑いかもしれませんね――」
しかし、その暖房にも裏があった、再びモニタ裏――
「室内設定温度、25度に到達しました」
ネストレールの側近の一人がそういうと、研究所員が話をした。
「環境は整いました。あとは彼女自ら起爆スイッチを作動させるだけですね」
それに対してネストレールがニヤっとしながら言った。
「準備完了だな。さてフラウディアよ、あとはお前次第だ」
暖房がかなり利いている部屋の中、確かに、自分の恰好は少し暑いのかもしれない、男はそう思った。
しかし、自分の恰好とは対照的に、フラウディアの恰好と言えば――
「しかし、それにしてもフラウディア様は――いくらなんでもその恰好は寒くありませんか?
それに……なんて言いましょうか、目のやり場に困るといいますか、とても過激な恰好ですね……」
男は照れた様子でそう言った、それが言い表すように、先ほどからフラウディアのほうに目を合わせようとしていなかった。
だが、フラウディアのほうはというと、これまで、この恰好で何度か大勢の前に出たことがあったので、ある程度は慣れていた。
大勢に注目されるとつらいが、1人程度なら照れながらも、なんとか――
「そ、そうですね、すみません、ちょっといろいろとありまして――」
本当にいろいろとありすぎである。
しかし、その様子にしびれを切らしている者たちが――
「何をしている! 早くせぬか! おのれ、こうなったら!」
ネストレールは声を荒げながら立ち上がったが、それを側近たちが抑えていた。
「ネストレール様! 落ち着いてくださいませ! どうか、どうか!」
なんとかその場を収めていたが、ネストレールの怒りは収まらず、
何とか椅子に座りつつも、その顔は真っ赤にしたままだった。
それに対し、研究所員の1人がやや焦り気味に言った。
「も、申し訳ございませんネストレール様、今回のことは次回の課題にいたします故、
次回はブースターの量をまた増やして――」
そう言われたネストレールは何か思いついたようで、側近の1人を呼んだ。
「おいお前、これを使って軽く”けしかけて”来い!」
ネストレールは例の”トラウマのムチ”をそいつに投げ渡した。
「はっ! 直ちに!」
それに対し、研究所員が再び慌てて――
「ま、まさかこのタイミングで躾を致すのですか?」
ネストレールは答えた。
「そんなことはせん、ただ”けしかける”だけだ」
再びフラウディアと男の兵士の2人の部屋、時間がそれなりに経過していたため、男は戸惑っていた。
「あっ、あの、お話いたしたいのは山々ですが、残念ながら、これ以上は特に――」
そう言われるとフラウディアのほうも悩んでいた、ネストレール様の言う通りにしなければならない、
だが、それなのに、指令が指令なので踏ん切りもつかず、いったいどうしたものか――
するとその時、部屋の外から聞こえてくる音に反応し、フラウディアの頭の中に急には電流が走った――
「ん? なんだ? 何の音だ!?」
男はその音に気が付いて異変を感じた。しかし、その音に対し、フラウディアは――
「いっ、いやあ! やめて、やめてえー!」
その場で頭を抱えながらうずくまってしまった――
「ちょっと! フラウディア様! 大丈夫ですか!?」
男兵士は彼女の様子に反応し、慌てて彼女に駆け寄った。
フラウディアはなんだか苦しそうに息を切らしていたのである。
そう、その音は、部屋の外で”トラウマのムチ”を打ち付ける音だった。
”トラウマのムチ”が響かせる音もフラウディアの心に刻み込まれており、
自分の血がびっしりと滲んでいるそのムチの特有の音がフラウディアの心を締め付けていたのである。
ネストレールはフラウディアの様子を確認しつつ、部屋の中から先ほどの側近に合図し、一旦ムチを打つのをやめるよう指示していた。
そして、そんなフラウディアの様子に対し、男はフラウディアに座るように促した。
その部屋にはベッドが備え付けられているが、手近なところだったこともあり、フラウディアはベッドの脇に座った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
フラウディアは汗びっしょりだった。そんな様子の彼女に男は心配していた。
「だ、大丈夫ですか? ネストレール様をお呼びいたしましょうか?」
それはダメだ、なんとかして事を成し遂げなければならない――しかし、やりようがない。
とはいえ、とりあえず、フラウディアは男に話した。
「いいえ、私は平気です。すみません、心配かけてしまって――」
だが、男が心配そうに自分を見つめていることに気が付いたフラウディア、
特に頭上から見下ろし気味にフラウディアを見ると、胸の谷間が――
「あっ! いや、すみません! 決して、決してそういうつもりでは!」
男はそれを察し、慌ててフラウディアから離れてそう言った。だが、その時、
「さあ、トドメを指すのだ!」
その時、ネストレールの合図で先ほどの部下が地面に強くムチを打ち付けた!
その際の音によって、フラウディアの身体に異変が――
「うっ、身体が、身体が熱い……」
すると、フラウディアは両肘を抑えつつ、身震いしていた。
「ふ、フラウディア様! お気を、お気を確かに!」
男は再びフラウディアの元へと慌てて駆け寄り、心配そうにしていた。
「これはいきましたね! エリューネル様の時と同じです!」
研究所員がそう言った。するとネストレールは先ほどの側近に戻ってくるように指示、
ムチを取り上げつつ、話をした。
「ふん、手間をかけさせおって。
だがしかし、これでようやく魔女フラウディアが覚醒したわけだ」