エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

遥かなる旅路・天使の舞 第3部 存在していた物語 第4章 苦悩する者

第55節 変異

 フラウディアはしばらくフロレンティーナの言ったことに対して警戒をしながら過ごしていたが、 彼女には特に何も起こらなかった。
 とにかく毎日毎日調べものを続け、誘惑魔法の何たるかを彼女なりにいろいろと研究していた。 そしてある日、ネストレールに呼び出された。
「ラミアの血液サンプルが採取できたようだ。 今、研究機関の分析結果が送られてくる、そこで待っておれ」
 すると、フラウディアの背後から研究所員らしき男がやっていた。
「ネストレール様、今しがた、分析が終わりました。 つきましては、フラウディア様に早速お試しいただきたいものがございますので、よろしいでしょうか?」
 私に? フラウディアは不思議そうに男を見つめていた。

 フラウディアはネストレールに言われ、また別の研究所員に促され、会議室のような場所へとやってきた。
「お待ちいたしておりました! 生物兵器研究所へようこそ、フラウディア様!  我々はあなたを深く歓迎いたしますぞ! ささ、どうぞ、そこへお座りください!」
 お座りくださいと、促されたのは非常に豪華そうなソファだった。 赤い色で、所々に金の装飾が施されており、もはや王族の椅子といったところだ。 フラウディアという存在はそれだけ帝国本土軍カーストでも上位に君臨するVIP中のVIPなのである。
 フラウディアはソファの真ん中に可愛らしくちょこんと座ると、研究所員が話を進めた。
「ローブはお脱ぎになられないのです?」
 それはちょっと――不用意に露出をしたくないフラウディアは遠慮していた、 もちろん、ローブの中身は例によって制服であるエロいセーラー服姿である。
「左様ですか、承知いたしました。 では早速、まずはこちらをご覧ください――」
 彼女の目の前に出されたのは赤い物体が封入された小瓶である。 これが例の血液サンプルというものだろう。
「これについては既にお耳に入れているかと存じますが、 とにかく、我々はようやくこれを手に入れることができましたな!」
 所員はさらに話を進めた。
「御覧の通り、採取できたのはごくわずかな量でございますが、 これを加熱処理して雑菌を取り除き、とある試薬を調合することで、 フラウディア様が現在望んでいらっしゃるであろう能力を得ることが可能なのです!」
 そうなの!? フラウディアは驚いていた。
「ええ、既にある程度似たような実験は済んでおり、いずれも最終的には成功を収めていますのでご安心ください!」
 ……それを言い換えると失敗した事例もあるということで、 つまりは自分はその犠牲の上に成り立っているんだなとフラウディアは思った。 その人たちのことを考えるとつらいところがあるが、これを拒否しようものなら、 ”トラウマのムチ”の存在がフラウディアの脳裏をよぎった、アレにはどうしても逆らえない。
「ですので、まずはその試薬を精製したく存じます。 つきましては、フラウディア様の血液サンプルをご提供いただければと考えております!」
 試薬は被験者の血液をベースに生成される、フラウディアは右手をローブから出した。
 あれから数日後、薬ができたというので早速試したフラウディア、その時は何事も起こらなかったが、 その夜、胸の奥が苦しく、何かがこみ上げてきそうな勢いだった。 なんというか、胸の中から何かが付きあげてきそうだ、苦しい、苦しい――
 その後、あまりの苦しさに耐え切れず、フラウディアはそのまま気を失うかのように眠ってしまった。

 翌日、フラウディアは目が覚めると、ものすごい汗の量に驚いていた。 どうしたんだろうか、病気になったんじゃないだろうか、と。
 だけどどうしてだろうか、胸元がなんだかとても苦しい……苦しいというか、締め付けられるような痛さであった。  なんだか変な感じなので、彼女はパジャマを脱ごうとするが、それが脱げない。 脱ごうとすると胸がとても痛い。
 もはやどうにもならなかったので、フラウディアは仕方なく、ハサミを手に取って襟元から服を切っていった。 すると、そこにはとんでもないものがあることに驚かされた。
「えっ、ウソ……これってまさか……」

 ネストレールの部屋、フラウディアが来る前、彼は電話をしていた。
「ふむ、そうか、薬を飲んだのだな? して、効果はどうだったのだ?」
 電話相手は研究所の所長のようである。
「いえ、その時は特に何も。 長ければ1週間ほどかかると思われますので、しばらくは様子を見ていただければと思います。 あと、ついでですのでお耳に挟まれた方がよろしいかと――」
 ネストレールは何かと訊いた。
「はい、フラウディア様に利用した薬ですが、実際には血液のみならず、ラミアの肉片も含まれております。 サンプルにはそちらも含まれており、調合に使用した次第です。 また、爆発的に効力を上げるため、エンチャント剤の使用濃度設定を高めにしておりますので、 しばらくは身体にかかる負荷も重くのしかかってくることでしょう」
 それに対してネストレールは関心を示していた。
「ほう……それは素晴らしいではないか。 まあいい、当人には黙っておくことにするが――つまり、例の薬を使う必要がある、ということだな?」
「はい、エリューネル様の時同様に処置を施す必要がございます。 無論、エリューネル様よりも量が控えめですので、じきに慣れていくような体質となるでしょう」
「そうか、エリューネルと違って急に爆発するわけではないのだな、わかった」
「ああ、あともう一つ、大事なものを。 フラウディア様に利用した薬ですが、エリューネル様の時に用いた”ヘル・ブースター”ももちろん含まれております」
 すると、ネストレールはニヤッとしながら言った。
「素晴らしい! 流石はお前たちに託しただけのことはある! ベイダ・ゲナ様もきっとお喜びになられるだろう!」
「恐悦至極にございます。つきましては我々生物兵器科学研究所のほうに取り計らいを――」
 すると、ネストレールは話を遮った。
「むっ、フラウディアが来る。その件はまた改めることとしよう。では切るぞ――」
 すると、フラウディアはなんだか照れた様子でネストレールの部屋へと入ってきた。
「おはようございます、ネストレール様――」
 どうしたのか、ネストレールは訊くと、フラウディアはずっと同じ調子のまま、照れていた。 それに対し、ネストレールは何か閃き、フラウディアに命令した。
「薬を飲んだという報告は受けてる。脱いで見せろ――」
 そう言われると、フラウディアは恥ずかしそうにローブを脱いだ。 そこにはなんと、これまでぺちゃんこだったフラウディアのバストが、 とびっきり大きなサイズとなって表に突き出ていた!
 しかもフラウディアの服装はやはりエロいセーラー服姿、 大きな胸のサイズとなったことでかなり過激な見た目となっていた――
「なるほど! これが薬の力! お前から採取した薬の力だぞ!  そうとも、やはりお前こそが”特定エリート女人プロジェクト”の成績最優秀者と呼ぶに相応しい存在だったのだ!  フハハハハハハハハ!」
 ネストレールはご満悦だが、フラウディアは頬を赤らめたまま、恥ずかしそうに佇んでいた。 そしてこれを機に、フラウディアの地獄は始まることになるのだった――