エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第4部 遠き日々 第7章 天命

第129節 得体のしれない国

 次の目的についてははっきりしているので早めに行動に移すことにした一行。 そう、目的はガリアスに会うことである。
「さあプリシラ様、みなさま、お乗りください!」
 レムレスはプリシラの手を取り船に乗り込むのをアシスト、ほかもそれぞれのタイミングで船に乗り込んだ。
「にしても、この船で大丈夫なんだろうか?」
 船はディスタード製だが、エダルニウス側には無国籍小隊からのコンタクトとして話を通していた。
「無国籍小隊で誤魔化しているとはいえ、話があっさりと通ってしまうのもなんか妙な感じ――」
 ティレックスがそう言うとシャディアスが答えた。
「自分は”ネームレス”だから何が来たって余裕なんだろ、そんな気がするぜ」
「その場合は当人が”ネームレス”たらしめる能力をちゃんと認識し理解しているということになる――」
 ロッカクはそう言った、そうなると面倒である―― いや、だからこそ以前に少数の”ネームレス”と思しき者たちを使って隣国を攻めようと企てたわけだが。
「つまりは今度こそ本当の強敵というわけですか、気を引き締めていかないといけませんね――」
 ディスティアは慎重だった。

 航行する分には穏やかな海の旅、不自由なくエダルニアへとたどり着いた。 エダルニアはルシルメア大陸の北に位置する国で、国の規模としては比較的高い水準に当たる。 ただ、気候的に少し寒い地方である。
「みなさま、私はここでお待ちいたしております。 くれぐれもお気をつけて、プリシラ様もどうかお気をつけて!」
 と、レムレスは行儀良くお辞儀をした。彼は船番である。
「誰も出てこないし、誰かが来るような気配でもないな。 軍本部は港からまっすぐだとか言ってたけど、それにしても出迎えの類とか何もなしというのは――」
 ティレックスはそう言うとディスティアが促した。
「しかし、兵隊の数がやたらと多いですね、まるで戒厳令でも敷いているかのようです。 いずれにせよ、不用意な行動はできないことでしょう、まっすぐ行きますか?」
 そうするよりほかない感じである。
 エダルニアはそれなりに大きな国、 クラウディアスに比べると小さいが島全体がエダルニアの町となっていて、 その中心部にはビル群が立ち並んでいる。 ビル群には軍部関連の建物が多く存在していて、何か問題を起こそうものなら面倒なことになるのは必至である。
 しかし、そのイメージとは裏腹に割と開放的な見た目。 だが、戒厳令でも敷いているせいか、その割にはもの寂しい町であった。

 そして、目的の建物内に入ったはいいけれども、どこをどうやって行けばガリアスに会えるのかがわからなかった、 それもそのハズ――
「アポとったはいいんだけど、プリシェリアの無国籍小隊で話は通るのだろうか――」
 フィリスはそう言った、何の証文らしきものを持参しているわけでもないので、 とにかく不安でしかなかった。
 するとそこへ――
「要件をお伺いしてもよろしいでしょうか」
 と、建物に入ってすぐのところにエダルニウスの兵隊が一団にそう訊ねてきた。 それに対して一団はお互いに顔を見合わせると、ティレックスが言った。
「俺たち、無国籍小隊プリシェリアの一団なんだが――」
 すると、
「そうでしたか、では、ご案内いたしますのでこちらからお通りください」
 と、なんと、ていねいに案内されたではないか。 カードリーダーを迂回するゲートが開き、彼らは案内された。
 いや、でも、まさか――罠ってことはないよな? そこがどうしても不安だったが――
「お待ちかねですのでこちらへどうぞ」
 とある部屋の中へと案内された、その部屋は……

 応接室、そこには1人の男が立って待っていた。
「お前たちがその無国籍小隊とやらの一団か。早速だが要件は何だ?」
 部屋に入って早々というか、いきなりだった。いや、それよりも――
「えっ、えっと、その、つまり――あんたがガリアス?」
 シャディアスは恐る恐る聞くと男は答えた。
「うん? ああ、そうだったな。いかにも私がガリアス=ボーティウスだが……そうか、 貴様らは私の姿を見るのは初めてだったな」
 前のドービス司令などとは違ってメディアへの露出がないため誰も知らないのである。 そうか、こいつが今エダルニア軍改めエダルニウス軍をまとめているボスのガリアスなのか。
 ガリアスは飄々とした感じの男で、腰には幅の広い刃の剣を携えていた。
「さあ、それがわかればいいだろう。この私に何の用だ?」
 こいつ――自分以外はどうでもよさそうだった。

 本題に入る前にいろいろと聞きたいことがあったので、まずは疑問を投げつけることにした。
「あの、エダルニア軍には確か、ドービス司令というのがいらっしゃったハズですが――」
 ディスティアはそう聞くと、ガリアスは答えた。
「ヤツは死んだ。今は私がヤツに成り代わってここをまとめている」
 ただ失脚したのではなく、やはり亡くなっているようだのか。
「あのさ、俺らが来たのはいいんだがなんで一切警戒しないんだ?」
 ロッカクは恐る恐る訊くとガリアスは――
「そうだな、確かにお前の言うとおり、気にしておいたほうがよかったかもしれないな。 だが、今のエダルニアに対してそこまで脅威となりえるような要素がなさそうなもんでな、 つまりは無駄な労力を使うつもりがなかったというだけの話だ」
 えっ、ちょっと、そんな――
 完全に上からものを言うような感じにこの威圧感、あからさまに只者ではない空気を醸し出していた、なんだかヤバイ雰囲気である。
 今のエダルニアに対してそこまで脅威となりえるような要素がないというのはどういうことなのだろうか。 それこそバルナルドでの作戦はエダルニウス軍にとっては失敗であり、脅威というか、気にすべき対象ではなかろうか。 いや、でも、弱みを見せないということの現れなのだろうか、それとも別の何かか――
「あ、あんた、エダルニアの出身なのか?」
 シャディアスは恐る恐る訊くとガリアスは――
「不要な問いだな、何故訊く?」
 つっけんどんに返してきた。
「い、いや、それこそあんた、噂じゃあ急に出てきたって言うじゃないか、だから気になってな」
 ガリアスは考えながら言った。
「そうか、そう言うことなら――私は少なくともここの人間でない、と答えておこうか」

 ガリアスの返答があまりにさっぱりとしすぎたものでなんとも言えなかった。 そこでプリシラがずばりガリアスの謎に迫る質問をした。
「えと、私はプリシラと申します」
 プリシラはお上品なお嬢様らしくお辞儀し、話を続けた。
「ガリアスさんは、ある一定の時期を境にそれ以前の記憶がなく、 そして周囲の状況に対して違和感というものを感じたことはございませんでしょうか?」
 まさにそのものずばりという問いである。すると――
「何故、それを――」
 なんと、ガリアスはあっさりと認めたようだ。
「実は、私にはガリアス=ボーティウスという名前にはなんとなく思い当たる節があるのです。 ですからもしやと思い――」
 それは言葉の綾であるが効果はあるようで、ガリアスはプリシラに訴え始めた。
「お前は――この私を知っているというのか? 私は何者なんだ? 一体何なのだ?」
 その答えは誰も知らない。だけど、確実に言えることはこれだけだった。
「私は、ガリアスさんという人をずいぶん前から知っているような気がする、 それだけでしかあなたのことを知りません。ただ、ここにいる皆さんも――」
 周囲の状況に対して違和感があり、以前の記憶がないなどということは共通していること、それを説明した。
 ところが……
「なるほど、お前たちも同じなのか。 例えば――ここで私が剣を引き抜いても、誰一人として死にはしない、と受け止めてもいいということだな?」
 まさか――緊張が走る!